近視眼に対する白内障手術と眼内レンズ度数計算を科学する

大阪大学 後藤聡先生の話でした。 2025/6/28 第7回日本近視学会総会@コングレスクエアグラングリーン大阪

近視眼に対する白内障手術の注意点
  • 創口形成:early perforateしやすいので3面切開をする。
  • CCC:前房が深いためCCCが大きくなりやすい
  • 逆瞳孔ブロック:前房が急に深くなり瞳孔領が散大する。

感想:切開方法よりも角膜への刺入部位がpointではないかな。近視眼はearly perforate気味になりやすいが、前房は深いので虹彩脱出しにくい。遠視眼+αブロッカー内服の方が要注。CCCは、接子が立ち気味でやりにくい。逆瞳孔ブロックはよくあるが、急に深くなるのは心臓に悪い。ブロック解除より、まずボトル下げるべし。

IOL度数計算式
  • 超音波測定時に開発された旧世代式の代表がSRK-T vs 光学測定対応の新世代式の代表がBarrettⅡ
  • いまだにSRK-T式の採用が多いが、BarrettⅡも増えてきている。☞ 当院は、数年前からBarettⅡ
  • KANE式が新顔で注目されてる。
  • ESCRSのWebなら新世代IOL計算式が一度に算出可能である。
眼軸長測定装置
  • 眼軸長測定はSS-OCT方式に移行しつつあり、OA-2000(Tomey)、IOLMaster700(Zeiss)、Arterion(Heldeberg)、Eyestar900(Haag-Streit)、Argos(Movu)が代表機種。光学式で測定困難であった熟成白内障でも測定可能である。
  • 上記のうち、Argoのみ眼軸長=Σセグメント眼軸長(=部位別光路長/部位別屈折率)で測定する。眼軸長が短めに出るため、古い世代の計算式では近視化する。新しい計算式はそうでもないが、超長軸眼の場合かえって精度が低下する。
  • Barrett先生はこの点に気付いたため、BarretTrueAL式を発表している。

Refractive accuracy of the new Barrett formula using segmented axial length compared with that of the traditional Barrett Universal II formula – PubMed より引用すると

左:Argos+BarrettⅡ 真ん中:Argos+BarrettTrueAL 右:IOLマスター+BarrettⅡ

ArgosとBarrettTrueALを併用するとグループ内変動係数が低く、測定精度が高いといいたい様子。


☞ 新々計算式はAI準拠らしい。 ちょっと前まで、RayTracing準拠の計算式とかよく言ってたような気がする。
☞ 同フロアで日本眼科AI学会総会も開かれてました。

AMOテクニスのPureSee眼内レンズについて

AMOは新命名がお好きなようで、今次は「PureSee=屈折型多焦点レンズ」と称する由。

過去の命名遍歴
・Symphony:EDoF型(=焦点深度拡張型)=エシェレット回折型(2焦点)

・Synergy:連続焦点型=エシェレット回折型(2焦点)+回折型(2焦点)

・Odyssey:改良型連続焦点型

・PureSee:屈折型多焦点レンズ

EDoFだけど回析格子がないので、ハログレが発生しないと謳う。
屈折型多焦点レンズとは「後面レンズ2.4mnm部分のみカーブを変えて、焦点深度を深める」ことにあり、加入度数はヒミツだけど+2.0D位らしい。


Optical and Visual Outcomes of a New Refractive Extended Depth of Focus Intraocular Lens より引用

Eyhanceの大幅改良バージョンというが、デフォーカス曲線みると単焦点レンズやアイハンスの遠方~中間距離をやや膨らかしただけような気もする。
Vivity+Panoptix  vs PureSee+Odyssey のMix&Match対決となるかな。

 


MRさんによると、

  1. PureSeeは、Symphonyの後継レンズとの位置づけ。VivityがActiveFocusの後継みたいな感じかな。
  2. Synergyは発売中止で、Odysseyに全面移行。

Pairing手法の最新情報

第129回日本眼科学会総会での「HOYA協賛 多焦点眼内レンズのペアリング」をオンライン視聴しました。
スクショ厳禁につき、テキスト文及び公開論文のみ記します。

実臨床例は和歌山医大の1例のみで、あとは文献紹介でした。

和歌山県立医科大学 岩西宏樹先生
  • 中間距離がやや遠い。「日本のキッチンは欧米より低い、などの日本の住環境を考慮されている」
  • 質疑応答:中間と遠方重視なら両眼Gemetricで、近方重視ならGemetetric+GemetrticPlus.両眼GemetricPlusは時期尚早であろう。
西眼科病院 西悠太郎先生
  • Gemetricはハローが少し出る傾向がある(軽度)。暗所での瞳孔径が大きい症例では慎重な適応検討が求められる。
  • NINO Study:Paringは両眼Gemetricと同等の遠方中間視力で、両眼GemetricPlusと同等の近方視力。∴Paringが遠方から近方までの眼鏡フリーを達成する最もバランスのとれたグループ。
  • 質疑応答:Paringのほうが、両眼GemetricPlus入れるよりも近方視力が良いのはなぜか?→MixAndMatchと同じような効果(加算効果ということかな?)が考えられるが、今後の検討にゆだねる。
慶應大学 四倉絵里沙先生
  • 両眼GemetricよりもParingのほうが薄暮所、明所での近方での視力が良い。↓

やはり、実症例1例では物足りんな~。

佐々木先生は「オールラウンドに使える」かもしれない、と前向き評価でした。
Vivity+PanoptixのMix&Match vs Gemetric Paringについての発表を楽しみにしております。

Panoptix vs Synergy・Odyssey vs Gemetric

Alconによると、、、

Odyssey・Synergyに対して

AはOdyssey、BはSynergyですね。
つまり、Panoptixのほうがハログレが少ないといいたいようである。

VivinexGemetricに対して

・Gemetricのように回折格子の幅を3.2mm程度に制限することはActiveFocus時代にさんざ実験済みで、単焦点ゾーンが広がるため遠方はよく見えることになるが、瞳孔径に依存した見え方を避けられえない。
・そのため回折格子幅を4.5mmにした。
・単焦点ゾーンが狭まることによる遠方視力低下は遠方パワー配分を44%と増加させることによって補っている。


以上は、Alconの一方的言い分なので、J&JとHOYAの言い分も機会があったら書きます。

Mix&Match法「PanOpitx,Vivity臨床データアップデート、適切なIOL選択」をみました

アルコン・ライブラリーから視聴しました。
佐々木洋先生のMix&Matchについてです。
以前のFEST法は、両眼同一レンズのモノビジョンでしたが、Mix&MatchはEDoF+3焦点(≒Vivity+PanOptix)。

EDOFはVivity、3焦点はPanOptix、連続焦点型とはSynergy を意味するようである。

OSI(Objective Scattering Index)値は、視力コントラスト感度と相関がある。
単焦点だと1.1くらい。2.0以下なら良いらしい。

Mix&Match法での両眼視力
「50cmまでの視力は両眼PanOptixとMix&Matchで変わらないのは、コントラスト感度が良いので両眼加算大きい」とのことだが、グラフ見るとMix&Matchのほうが良いんでは?

海外論文の引用ですが、「Mix&Matchは視力も満足度も高い」

優位眼にVivity 非優位眼にPanOptixを入れると一番ハログレが少ない。


視力、コントラスト感度の両眼加算を勘案すると

  • 「優位眼にVivity 非優位眼にPanOptix」のMix&Match法が、いいとこどりできて優秀。

 

2025/5/1追記

Mix-and-match vs bilateral trifocal and bilateral EDOF intraocular lens implantation: the spline curve battle” によると、

According to our study, PMG participants with the Vivity and Panoptix IOLs presented the highest VA curves, followed by the BMG ones who received bilaterally the Panoptix IOL and the BXG ones who received bilaterally the Vivity IOL.

PMG(Premium Monovision Group)は「優位眼Vivity 非優位眼PanOptix」です。

「臨床成績から見るTecnis Odysseyの本質」をみました。

J&Jさんのプロモーション動画だったのですが、みてみました。

Odysseyは、連続焦点型眼内レンズSynergyの進化型というとらえ方です。

以前にも書いたけど、回析格子のエッジが滑らかになり、高さも2/3になってるので、特にスターバーストが出にくいということ。

 

「デフォーカス曲線が-0.5D~+0.5Dまでほぼ直線である!そのためtargetずれに強い」のも既出

 

回析格子の構造変化により、synergyほどには近方が見えないので、first negativeを選択する。


だいたい、いままでに聞いたことがある話でした。

先日のPairing手法といい、白内障手術周りの技術革新から受ける印象は、KPE無縫合手術の盛り上がりを思い起こさせる。

次回は、佐々木洋先生のMix & Matchについて。

HOYAの眼内レンズVivinex EMについて

アイハンス(によく似たプロフィールのレンズで、EMとはEnhanced monofocalの意。

すなわち、「焦点深度深めで、farのdefocusが平ら気味、保険適応が効く」レンズである。

Defocus Curveは以下の通り。 アイハンスはこれ

構造は Vivinex Impress | Hoya Surgical Opticsによると、

同心円様の構造がわずかにみえる。

アイハンスは全くそのような構造物をもたない。

HOYAが主張する

アイハンスは0.5D~0.75D付加だが、EMは-1.0D付加できる。

というのは、このわずかな構造調整に依るのかもしれない。

新しい多焦点眼内レンズの選択手法「Paring」について

多焦点眼内レンズの焦点深度を深める手段として、HOYAからParingという新手法が発表されています。

左右のレンズでdefocus曲線のpeak値を変えるという点が新しい。
peak値のみを変えるのであっって、peak位置を変えるわではないのも佳い。

Vivinex Gemetricが通常の3焦点レンズで、Vivinex Gemetric Plusが近見のpeak値を底上げした3焦点レンズ。

Vivinex GemetricとVivinex Gemetric Plus

Paring時には近見視力が改善する。

 

 

 

 

 

 

 

佐々木先生のFEST法を敷衍してるようでもあり、一眼手術後に近見満足度が高ければ対眼にもGemetricをいれ、不満ならGemtrci plusを入れる戦略である。(ただし、優位眼、非優位眼の選択は採らないらしい)

ミニウェルフュージョンシステムにも通じるが、回折格子の口径が全く同じというのが売り。
この部分が比較的小さいことにより、夜間ハログレをおさえ得るというのがHOYAの主張なのである。


後発なだけあって、いろいろと取り入れてるなとは思う。

日本ではようやく挿入され始めたばかりで、今度の日眼で一か月後の経過が発表される。
発表を聴いて、追ってご報告いたします。

 

多焦点眼内レンズのシミュレータ2

Johnson&JohnsonからAR Eyeというアプリがリリースされました。

「AREye」は、拡張現実(AR)の技術を用い、白内障の術前・術後の見え方を擬似体験できま丸スマートフォンのカメラを通して現実の風景をもとにバーチャルな映像を再現。白内障の方だけでなく、ご家族が白内障の不自由さを体験し理解を深めることにも役立ちます。

 

当院でも、多焦点レンズを希望する患者さんには体験してもらうことにしています。

☞ハロー・グレアが若干強めに出るような設定にしてるとのことでした。

京都QuolityOfVision向上研究会を受講しました。

ビッセン宮島先生のお話が聞けるというので受講しました。

トーリックレンズの話

  • 手術後の残余乱視は0.5D以下を目指す。
  • 直乱視を残したほうが偽調節が働くということはない。調節が働く要因は小瞳孔と角膜のmutifocalityである。
  • 日本ではトーリックレンズの採用率が1割程度。これは仕入価が高い+術前術中の操作が面倒なため。残余乱視≦0.5Dを目指すなら半分以上がトーリックとなるべき。

☞当院では半数弱がトーリックレンズ挿入しています

Odysseyの話

  • 回折格子形状がちがう。詳細な話はなかったです。

  • 術後オートレフ値はマイナスにでる。ので、自覚視力測定が大事である。Vivityもその傾向あり。
  • SynergyはFirstPositiveだったが、FirstNegativeを選択する。ここで担当さんが言ってた話。

  • デフォーカス曲線が-0.5D~+0.5Dまでほぼ直線である!そのためtargetずれに強い。

アイハンスVivityの項でも書いたが、デフォーカス曲線のFar平坦化は今後トレンドになるんでは?