眼科医からみたハムラ法

加齢に伴い、眼瞼下垂を起こすと同時に下眼瞼弛緩が起こる。ただし、上眼瞼下垂は、視野障害、眼精疲労を起こすが、下眼瞼弛緩は視機能に影響がでない。

そのため、眼科で下眼瞼弛緩を治す医者はほぼいない。そもそも、保険点数が存在しない[1]

私も、上眼瞼挙筋短縮術や二重瞼形成は、数多く執刀してきたし、矯正の仕方や事前の同定・測定については一家言も二家言も持ってるつもりだ。しかし、下眼瞼の矯正については、ほとんど知識がないので調べてみた。


美容整形の範疇になるため、○○法とか××法とか△△変法が乱立状態で、各クリニック独自の宣伝文言も多く本質が見えずらい。

そこで、この分野の嚆矢とされるハムラ法原著[2] Arcus Marginalis Release and and Orbital Fat Preservation in Midface Rejuvenation(1995年)を読んでみた。

超簡単に要約すると以下の通り。

・従来、下眼瞼たるみには脂肪除去が行われてきたが、術後は余計くぼみ、「手術しました」感がでてしまう。

・眼輪筋を持ち上げて縫着してみたが、不十分であった。

・眼窩隔膜(≒眼輪筋)の下眼瞼縁骨膜付着部を切開(Arcus Marginalis Release)することによって、この「くぼみ感」をなくすことができるこことを発見した!

・切開後にでてくる脂肪を下眼瞼縁の下方に縫着すると、さらに若返り感がでることが分かった。

ハムラ法原法
プライム銀座クリニックの説明画像を改変

なるほどなー。下眼瞼縁がくぼみを形成するのであれば、切開して開放するという点がハムラ法のgeniusな点であり、さればこそ、これだけ喧伝される術式となりえたのであろう。

しかし、この術式は下眼瞼縁がもつ重要な役割、つまり眼輪筋を含む眼窩隔膜が脆弱となった場合に、その決壊を支える最後のアンカリングポイントという保護機能を外してしまう。最後の砦というか堰をきってしまう術式であり、下眼瞼の外反をきたすであろうとは容易に想像できる。

つまり、美容的な面を重要視するあまり、下眼瞼や瞼板、眼窩隔膜のもつ解剖学的、医学的意義を軽視しているようにみえる。

眼瞼挙筋短縮術の場合には過矯正気味にしても、重力によりやがて瞼は下がってくるが、このハムラ法は少しでも過剰に手術すると外反が発生し、そのまま戻らないという危険性を内包する。

この致命的欠陥を改善するために、さまざまな変法が考案されているようなので、眼科医の視点から見て評価に値する変法なのか、次回以降検証したい。


1.2022/4/1より眼瞼下制筋前転法が、眼瞼内反症の手術として保険点数として収載されます。

2.Hamra ST:Arcus Marginalis Release and and Orbital Fat Preservation in Midface Rejuvenation. Plast Reconstr Surg.96:p.354-362.1995

近視性後天性内斜視について

2022/2/19第19回近畿弱視斜視アフタヌーンセミナーで京都府立医大の稗田 牧先生の講演を聞きました。

定義は

  1. 潜在性発症
  2. 遠方内斜位斜視
  3. 若年者
  4. 近視
  5. 長期の近業、近視の低矯正

ということです。

近視が進行することにより、眼軸長が伸び、外直筋や斜筋の付着部が後方にずれることによって、後転手術と同じよう効果が発生し、内斜視となるとのことでした。

そのほか、

近見作業時の距離が短く(20cmくらい)、遠方を明視する機会がすくない生活習慣で発生する。

2000年代には少なかったが、10代でのスマホ所有率が50%をこした2013年ごろから急激に増えた。

-6Dくらいの近視でも発生する。

20△を超すと、プリズム眼鏡か手術治療を選択する。

スマホ急性内斜視と類縁疾患な印象だが、スマホ急性内斜視と違ってゆっくり進行すること、調節痙攣というよりは眼軸長の延伸による器質的変化が生じている点から、異なるentityなのか?と感じた。


今までの教科書的知識では、内斜視といえば乳児内斜視と(遠視由来の)調節性内斜視が2大要因だったが、今後は、近視によるスマホ急性内斜視と近視性後天性内斜視も考慮する必要がある。特にAYA世代

老眼対策の点眼薬

こういう記事 をみたので、老眼に悩む患者さんに朗報と思って調べてみました。

ここに書いてあるように、点眼薬は、「VUITY™ (pilocarpine HCI ophthalmic solution) 1.25%」というものです。

つまり、昔からある緑内障の点眼薬のサンピロを1.25%で調合しました!て感じですね。

縮瞳によるピンホール効果で焦点深度が増して近見がみえるというあたり、EDoFの眼内レンズを思わせるものがある。

当院でもかつて、処方したことがあるけども、当然暗く感じるので、患者さんからの評価は微妙であったと記憶する。

試してみたい方は、当院でお申し付けください。

サギングアイ症候群について

先週、自分は

と同年代といったが、絵心のある娘が

を描いてくれた。

波平よりは保ってるかな~。

ただ、目の周り、特に下方部位がたるんでくるのは如何ともしがたい。この弛緩してたるむことをsagと英語では表現する。

表題のサギングという分かりにくいカタカナはsaggingが正体です。

「ガッテン」という番組でやっていたので、自分が該当するか調べてほしいという患者さんから御依頼があったので、この疾患について調べてみた。


この文献とかここによると、要するに「加齢に伴い、眼球回りの直筋、斜筋、コラーゲンなどの支持組織が弛緩してたるむ、つまり文字通りsagをきたすことによって、開散麻痺が発生し10△以下の内斜視、上下斜視を起こす」という疾患らしい。「ガッテン」では「眼科医の中でも、1年ほど前に周知されたばかり」とある。

こういう疾患名がついてたことは初めて知った。しかし従前から、ご高齢の方で、「最近両眼で見た場合にのみ物が二重に見える」→「眼球運動障害の可能性があるので、MRIとりましょう」ということは数々あった。もちろん頭蓋内病変が検出されたことはほぼない。

今後は「サギングアイ症候群かもしれないが、念のため頭蓋内病変も否定しておきましょう」と説明する必要があるな。。


「ガッテン」という番組は終了との由だが、このような疾患を取り上げるということ自体ネタ切れ状態だったのかと、苦衷お察し申し上げる。