「SPK(点状表層角膜炎)の診方、考え方、治し方@西明石」を聴講しました。

2022/8/6、西明石ホテルキャッスルプラザで、横井 則彦先生(京都府立医科大学眼科学教室 病院教授)の講演でした。

「臨床に活きるわかりみTips」を、ご披歴いただいたので、以下雑駁にご紹介する。

定番のドライアイの治療薬

  • BUT短縮型はジクアス。痛覚レセプターのアゴニストでしみるが、8割がたは1か月で慣れる。最初に「しみる」と言っておき、ステロイドを併用する。
  • 糸状角膜炎型はムコスタ。ムコスタは眼瞼と角膜の摩擦を軽減する。
  • ヒアルロン酸は水分を吸うので、濃度が濃いと逆に働くこともある。京府病院ではあえて薄めて処方することもある。
  • ちなみに、欧米ではムコスタ、ジクアスが認可されていない。

その他の治療薬

  • フラジオマイシンを含む薬剤ベルベゾロンF、リンデロンAは薬剤性角膜障害、皮膚のアレルギー障害を起こす。そのため、一切使わない。リンベタを使え!
  • BAKの透過亢進、知覚神経の障害が起こると角膜基底細胞の分裂障害が起こり、上皮細胞の被覆をおぎなうため上皮細胞が動き出す。従って、上皮細胞の移動サインは危険サインである。
  • タリムスは痛いし熱いことがる。痛がる人には効かない。その場合、やや弱いがパピロックミニを処方すると痛くないはず。

マイボーム腺炎角膜上皮症

  • 角膜フリクテンの形をとるものと角膜上皮の全般障害を来るものがある。
  • マクロライド少量長期療法を行う。これはクラリスロマイシン200mg/日を最長3か月まで使う。にきび治療に使う薬剤であり、40歳以下ならP.Acnes由来なので100%治る。40歳以上ではP.Staphyloに変わるためか100%とはいかなくなる。
  • クラリスロマイシンにはステロイドと同様の抗炎症作用がある。しかも、ステロイドと違ってリバウンドしない。→質問「アゾマイシン点眼は使わないのでしょうか?」 答え「2週以後の指示が面倒なので使わない。」

角膜全面のSPK

  • フルオが動けば点眼で治る。
  • フルオが動かなければ涙点プラグのみ。

緑内障薬剤性類天疱瘡

  • 緑内障薬剤性類天疱瘡をおこすすと瞼球癒着(円蓋部をみると結膜が引きつれている)が起こる。点眼中止しステロイド使う。

コンタクトレンズの酸欠

  • 全面障害が起こっている場合には、ワンデーCL+BAKフリーのジクアス

抗がん剤による薬剤性上皮障害

  • 抗がん剤TS-1:テガフール、ギメラシル オテラリルカリウム
  • カドサイラ
  • 担当医に連絡してほかの薬に変更を依頼する。

講義を聴いて私の感想

  • 基礎から説き起こすご高演が多い中、「いきなり、ギターソロ」なお役立ち講義だった。

第4回日本近視学会総会に出席しました。

大阪のグランドフロントで開かれた近視学会に出席してきました。学会会長は京都大学の辻川明孝教授で、かつて、この大学出身の大御所が「近視治療は無意味で、早々に眼鏡を処方すべきである」とのたまっておられたことを思うと、隔世の感があります。

土曜セッションで”Cutting edge of myopia treatment”があり、その掉尾がオーストラリアメルボルン大学のMingguang He先生による”Repeated Low-level red-light therapy for myopia control in children”でした。
即ち、赤色光で近視治療であり、最後に持ってきたてことはこの治療が注目されてるということかしらん?

講演内容はOphthalmology誌に書かれてあったこととほぼ同じでしたが、なぜ赤色光が有用かについて

「赤色光が脈絡膜の血行を良くする ⇒ 脈絡膜の菲薄化を防ぐ⇒ 眼軸長の伸長を防ぐ。」という機序を想定している。



この「脈絡膜の菲薄化」は、学会バズワードで、慶応大Xiaoyan Jiang先生も

「バイオレット光がOPN5(ニューロプシン)を刺激することで脈絡膜肥厚を制御し、眼軸長伸長を抑制する。」ことをマウス実験で確認した。

ただし、

バイオレット光以外に赤緑青色光も試したが、赤色光、緑色光には全く効果がなく、青色光のみ弱いながらも効果を認めた。

って「赤色光で近視治療」説と、真逆?!

加えて、バイオレット学派曰く「バイオレット光は屋内、眼鏡装用でも遮られる」「したがって、屋外活動が大切である」
なれば 「赤色光は屋内にも到達するので、わざわざ照射するに及ばず」ともいえ、僕もバイオレット派に一票かな。。


その他、Zeissが製造中止したと思ってたMCレンズがMyoKidsとしてよみがえっている様子。

ただし、発表者のSaulius R. Varnas先生自身が35%くらいの有効度(と言っていたと思う)
つまりオルソケラトロジーやアトロピン点眼ほどには推してない印象でした。

この件は、Zeissの担当者に以前のMCレンズとどう違うのか聞く予定です。

第39回神戸アイセンターオープンカンファレンス@2021/3/6

特別講演:16:00~
「データサイエンスとしての眼科学」予定
講師:鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 先進治療科学専攻 感覚器病学講座
   眼科学分野 教授 坂本 泰二 先生

をZOOM聴講しました。

コロナ以後は、スマホで視力を測定し、自宅でOCTを撮影する時代になる。

自宅で視力だけでなくOCTまで測定できるようになれば、眼科に通院する必要はなくなるだろう。そのうえで、診断はAIが行うことになるであろうとの見立てであった。

将棋の世界では、すでに人間の最高峰よりもPonanzaのほうが圧倒的に強いらしい[1]

診断でもかつては「眼科教授のご明断」「さすが~」「ははー」て感じだったけど、そんな時代は終焉し、今なら診断用Ponanzaのほうがはるかに優秀であろうと思う。


ただし、人間はなぜそのようにご明断されたのか根拠を示されないと、納得できない。

そこのところは、将棋の名人よりも、教授先生のほうが少しは生き残れる確率が高いかもしれない。

[1].コンピューターに「完敗」した佐藤天彦九段。「あの日」と将棋の未来を語る | ギズモード・ジャパン (gizmodo.jp)

「iPS細胞由来RPE細胞移植」を聴講しました。

コロナの影響で、オンラインばかりだった学会ですが、久しぶりにリアル聴講が可能な「2大学合同眼科カンファレス@県医師会」が開かれたので参加してきました。

その中で「網膜色素上皮(RPE)不全症を対象としたiPS細胞由来RPE細胞移植の臨床研究計画」をトピックとして取り上げます。

神戸アイセンター(旧神戸中央市民病院眼科)は、加齢黄斑変性症滲出型に対してiPS細胞移植を行って安全性と有効性を確認してきました[1]

「この知見を活かして、萎縮型の黄斑変性疾患にもiPS細胞移植を行う」治験を開始するということです[2][3]

萎縮型黄斑変性疾患の対象病変としては、「RPE萎縮を伴う加齢黄斑変性、クリスタリン網膜層、網膜色素変性症の追円疾患、RPE関連遺伝子異常を伴う網膜色素変性」などが挙げられていました。

僕が重要だと思ったのは、萎縮型加齢黄斑変性症、つまり、かつて活動性があった黄斑変性が「枯れて」RPE萎縮を残して視力喪失をきたした疾患を対象にするということです。

滲出型加齢性黄斑変性は、硝子体注射(IVA,IVR)が標準治療としてほぼ確立しているのに対して、萎縮型黄斑変性症については、ほぼなすすべがない状態です。

従って、もし萎縮型加齢黄斑変性に対して効果が実証できれば、滲出型加齢黄斑変性よりもはるかに大きなインパクトがあると思います。

治験の参加要件は「視力0.3以下、対眼視力は問わない」ですから、対象者の範囲はかなり非常に広いことになる。

開業医にもエントリー細目の通知があるということでした。50名枠ですが、当院でも萎縮型の患者さんは多いので、条件が整い次第、神戸アイセンターの「変性外来」に対象患者さんをご紹介する予定。。

【2020/12/20追記】

正確なエントリー基準を問い合わせたところ、以下のようでした。

・臨床的にRPE不全症に該当する網膜変性疾患と診断されている。
・年齢20歳以上の男女である。蛍光眼底造影においてwindow defectを認める。
・矯正視力0.3以下、あるいは視野はゴールドマン動的量的視野(指標:V-4)で測定し視野20度以内、あるいはエスターマン静的量的視野で70点以下。

今回の臨床研究では、移植細胞とHLAが一致しない患者の組み入れを踏まえ免疫抑制剤投与を予定しております。そのため現時点では対象患の年齢の上限は設けておりませんがおおむね65歳ぐらいまでの患者を想定いたしております。

[1]加齢黄斑変性に対する自己iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植―安全性検証のための臨床研究結果を論文発表― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)

[2]神戸市:「網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植に関する臨床研究」について (kobe.lg.jp)

[3]効果判定の主要指標は、FAGのwindow Defectの縮小率

リモートで臨床眼科学会を聴講

【演題

低加入度数分節型眼内レンズLentis comfort

vs

三焦点眼内レンズPanOptixの臨床成績比較 @ 広島大学

結論】

「遠視力では差がなく、中近視力はPanOptixのほうがよかった」

感想】

Lentis comfortは保険適用で、PanOptixは自費(40万円)であるから、経済原理からして違いが出るよな。

【利益相反公表基準:該当】無