コントラスト感度を落とした眼鏡で近視を抑制する。

眼軸長伸長を抑制する方法として、低濃度アトロピン点眼と、オルソケラトロジーを当院では採用している。「DIMSレンズ(デフォーカス組み込みレンズ)の実用化が待たれる」と以前に書いた

ところが、全く新しい発想の眼鏡が日本の眼科2021年9月号に掲載されていたので、紹介しする。

神経学者Neitzは、健常者においても網膜における強いコントラスト信号が眼軸長過伸展のトリガーとなっており、逆にコントラストを低減させる眼鏡を装用すれば近視進行を抑制できると考えた(コントラスト理論)。

しかし、現時点でのエビデンスは極めて限られている。レーザーホログラフィー技術を用いて中央部のクリアゾーンを除き、主にコントラストのみを低下させる眼鏡レンズが作成され2年間の大規模RCTが進行中である(Cypresst rial)。

中間分析では、屈折度数と眼軸長における抑制率は,それぞれ平均74%と59%であった。

元論文によると、文中のCypress Trial中は、2022/1/31まで実施予定であり、上記の中間分析とは開始12か月後の中間結果とのことである。

This alternative hypothesis, that high retinal contrast signals the eye to grow, predicted that reducing contrast will slow axial growth and prevent myopia progression. A pilot study to test this hypothesis was performed in children with rapidly progressing myopia. The children wore spectacles made to their prescription in which one lens was a standard of care corrective lens, while the contralateral lens incorporated optical elements that modestly reduced contrast. Remarkably, over the three-month trial period, axial growth was drastically reduced in the treated eyes compared to controls. When the lenses were then switched between eyes (i.e., contralateral crossover), the formerly treated eye resumed its growth, and former control eyes virtually stopped growing.

パイロットスタディーで、3か月間「通常レンズ」と「低コントラストレンズ」を左右に装着した眼鏡を使用させたところ、低コントラストレンズのほうが著しく眼軸伸長が抑えられたとある。


SightGlassという会社が眼鏡を作成しているようなので、「販売しているんですか?」とメールを出しておきました。返事が来たら掲載します。

マインドフルネスと緑内障

「瞑想をすると眼圧が下がる」「繊維柱帯における遺伝子発現も変化する」という、やや香ばしい感のある論文を読んだ。

Effect of Mindfulness Meditation on Intraocular Pressure and Trabecular Meshwork Gene Expression: A Randomized Controlled Trial

毎日45分間の瞑想を3週間にわたって続けたところ

①最大限点眼を行った場合(≒1mmHg)よりも、眼圧が下がった(≒5mmHg)

②繊維柱帯において拡張作用のある遺伝子が発現し、抗炎症作用のある遺伝子が発現していた。

①はともかく、②はマジ?という気はする。

過去にも、自律訓練法が有効であったとする論文もあるので、精神のありようと眼圧には何らかの関係があるのだろう。

僕の感想

緑内障気質は、昔から指摘があり、瞑想により眼圧を下げることは可能かもしれない。

・「日常生活で気を付けることはありますか?スマホとか見なければ緑内障進行しませんか?」とよくきかれる。そういった場合「マインドフルネスを心がけましょう」かな。

・②については、厳密な追加検証を期待する。

ロービジョンケアについて

日本眼科医会から「クイック・ロービジョンケアハンドブック」が発行されたので引用する。

●眼科医の一言は極めて重要
●良いムンテラのポイントは、病名はっきり、寄り添う
一言、前向きな表現
●情報提供が重要

要点は、視力予後不良な方に対して、①正確な情報提供 ②前向きな指針 ということを同時に行う必要性があるということ。

 

緑内障の末期であるとか、高度近視による黄斑分離症を起こしている方に対してどのような説明をするかは、常に苦慮する。正確な情報提供に重きを置きすぎると患者さんを失望させることがあり、一人の人間として心苦しい。一方で、根拠が薄い楽観論を陳述するのは、エビデンスに立脚すべき医師として忸怩たる思いもある。

患者さんの年齢、理解力、性格を勘案したうえで、①②の狭間の奈辺を得るかは、今のところAIにはできない作業であろう。開業医としてのraison d’etreなりもそこらあたりにあるやもしれない。

草枕の顰に倣えば、「知に働けば嘆かしむ、情に竿さば誤れる」といったところかしらむ。。とかくに、目医者はいきにくい。

第17回オキュラーサーフェス研究会をweb聴講しました。

特別講演は、内野美樹先生の『アイペインとドライアイの治療戦略』であった。

以下、要約を示す。

ドライアイの痛みには、末梢痛だけではなくて、神経痛+中枢痛が関与する。

神経痛+中枢痛に対する治療として

・内服薬:リリカ→サンバルタ→タリージェ

・星状神経節神経ブロック

・鍼灸治療

ストレス軽減療法:強みをうまく利用する。引きこもりを出すことができる先生がいる。Value of considering psychological strength in patients with eye pain.


僕の経験では、中枢性の要因が大きい患者さんに対して薬物治療は効かない。

今回の講義でいうところの「ストレス軽減療法」が奏功する。すなわち、「エクササイズして、規則正しい睡眠を取り、バランスが取れた食生活を送る」である。

一方、そういう患者さんに限って、つらい症状を一発で消去できる薬・サプリメントを探し求めている。曰く「体がだるいので運動はしたくない」「食生活は変えられない」「睡眠薬をやめるわけには行かない」…

それらを「チルチルミチルの青い鳥症候群」と、僕は呼んでいるのである。