ジクアスLX3.0%発売記念を聴講しました。

参天製薬の記念講演だったのですが「ジクアスとムコスタの使い分け」が聴けるというので参加。


前半は以前にもこのブログで紹介した京都府立医大横井教授と埼玉医大石川聖先生のお話でした。

BUP分類は6種類だったが「横井先生が追加し現在8種類となっており、これらはドライアイ専門家でも鑑別できない」
ん~?いうことで、簡便にBUP判別するBUT法を紹介されました。

BUT0秒0~3秒3秒~
BUPSpot Break, Area BreakLine Break, Dimple BreakRnadom Break
BUT vs BUP

上記を踏まえて、前回のBUP分類をリライトすると

BUT分類Break Up パターン(BUP)原因異常層推奨治療
0秒Area Break涙液減少(重症)液層涙点プラグ、ジクアス
Spot Break水濡れ低下型=親水性低下型上皮ジクアス、ムコスタ
0~3秒Line Break涙液減少(軽症)液層ヒアレイン、ジクアス
Dimple Break水濡れ低下型=親水性低下型上皮ジクアス、ムコスタ
3秒~Random Break蒸発亢進型油層ヒアレイン、ジクアス
BUTからBUPに変換する

「ジクアスとムコスタの使い分け」は、うぐいす眼科の細谷友雅先生の担当。

●ムコスタをつかうのはfrictionが主体の疾患。

結膜弛緩症
上輪部角膜結膜炎
糸状角膜炎
lid wiper epitheliopathy

●ジクアスLXの特徴

  • 「べたつきやすい」のであらかじめ伝えておく。
  • 「ジクアス」ほどしみない。
  • 目ヤニが出やすい。
  • 減りが早い。

●選択基準

  • 「カラカラアイ」にはジクアス
  • 「ゴロゴロアイ」にはムコスタ

ドライアイの点眼治療コスト

ドライアイ点眼薬の新薬は高い。
点眼薬コストを列挙する。

単品の場合

点眼薬先発品薬価後発品薬価先発品の3割負担後発品の3割負担
0.1%ヒアレイン272.4104.681.7231.38
0.1%フルメトロン17389.551.926.85
ジクアス529.7187158.9156.1
ジクアスLX1060なし318n/a
ムコスタ3046.4460.5913.92138.15
単位は円

2剤組み合わせの場合

点眼薬組み合わせ先発品薬価後発品薬価先発品の3割負担後発品の3割負担
0.1%ヒアレイン+0.1%フルメトロン445.4194.1133.6258.23
0.1%ヒアレイン+ジクアス802.1291.6240.6387.48
0.1%ヒアレイン+ジクアスLX1332.4399.72
0.1%ヒアレイン+ムコスタ3318.8565.1995.64169.53
ジクアス+ムコスタ3576.1647.51072.83194.25
ジクアスLX+ムコスタ4106.41231.92
単位は円

ジクアスLXとムコスタ先発品が、とみに高い。
理由→ジクアスLXは新発品で後発品が存在しない。ムコスタ先発品は使い切りタイプなので高くつく。


前回のべたTFOT(Tear Film Oriented Therapy)が治療根拠なれば、ジクアスLX最強説だが、「ジクアスLX(1060円) ÷ 0.1%ヒアレイン+0.1%フルメトロン(58.26円) ≒ 20倍」 ほどの御利益があるかといわれると、正直ビミョーな気もする。

因って、製薬各社は新発点眼薬を勧めてはくるが、開業医としては肯んじない部分がある。
この辺り、御高名先生の御講演では考慮されてないですよねー。

ドライアイのTFOT(Tear Film Oriented Therapy)

前回、「涙液層破壊パターンをAI判定し治療提示してほしい」と書きました
早急には無理っぽいので、人力判定による治療選択について調査しました。

上図のどの層が障害されているのかをBreak Up パターン(BUP)から判定し、適切な治療選択を行う必要がある。
そこで「ドライアイ診療の新時代 (MB OCULISTA(オクリスタ) (2023年11月号(No.128)」に準拠し、即戦仕様のまとめ表を作成しました。

●BUP分類

分類Break Up パターン(BUP)原因異常層推奨治療
Line Break涙液減少(軽症)液層ヒアレイン、ジクアス
Area Break涙液減少(重症)液層涙点プラグ、ジクアス
Spot Break水濡れ低下型=親水性低下型上皮ジクアス、ムコスタ
Dimple Break水濡れ低下型=親水性低下型上皮ジクアス、ムコスタ
Rapid Expansion水濡れ低下型=親水性低下型上皮ジクアス、ムコスタ
Random Break
蒸発亢進型油層ヒアレイン、ジクアス
BUPパターンは京都府立医大のHPから引用

ドライアイには炎症性疾患としての側面があり、フルメトロンを併用することが多い。
するとヒアレイン+フルメトロンの処方になって、ジクアスやムコスタを入れる余地がなくなってしまう。

緑内障点眼薬のように、ヒアレイン+ジクアス+ムコスタの合剤を作ってくれるとありがたいんですがね~。

参天ティアミルの使用経験

参天製薬が開発したティアミルというドライアイ測定装置を数週間使用させていただきました。
 

仕組み

スタッフがiPhoneでフルオ染色の角膜映像を取り込む→クラウドにアップロード→診察室のiPadにダウンロードし患者さんに説明。

大いに評価できる点

  • 綿糸法、シルマーテストなどの静的データと異なり、動画を患者さんに提示することができ説得力が増す。
  • データが積み重なっていけば、治療効果を実感しやすい。

今一歩と感じた点

  • 撮影結果はドクターが手動判定する。「AI判定して、推奨治療を提案する」では??
  • サブスクリクション制である。

TFOD(Tear Film Oriented Diagnosis)、TFOT(Tear Film Oriented Therapy)の重要性を再認識させてくれた点が、最大のポイントかも。

ジクアスLX点眼液について

参天製薬の発売記念講演会で高静花先生(大阪大学)、堀雄一先生(東邦大学)の薬理機序と臨床経験についての講義をききました。

薬理機序

  1. 水分分泌促進
  2. 分泌型ムチン促進
  3. 膜型ムチン促進
  4. 脂質増加

1~3は従来のジクアス点眼と同様だが、4の脂質増加はジクアスLX点眼のみ。

保水機序

PVP(Polyvinylpyrolidone=ポピドン)が添付されているために、6回点眼が3回点眼で済むようになった。
 ☞PVPはコンタクトレンズの装着液、保湿剤に含まれる基材。例:ワンデーアキュビュモイスト

臨床経験話

  • ほとんどの患者さんで、旧ジクアスからジクアスLXに切り替えた。
  • しみるのは旧ジクアスと同程度。先にヒアルロン酸を入れてからジクアス点眼をするとシミ感がましになる。
  • 稀に「6回入れた方がきく気がする」という患者さんもいる。

感想

  • 理論的には、満点。
  • 臨床的には「しみる」のと「お高い」のが難点。ジクアスLXは1060円! 旧ジクアスは529.8円。ヒアルロン酸ナトリウム点眼液0.1%「ニッテン」は104.6円。

美容レーザーでドライアイ治療

「美容レーザーのIPL(Intense pulsed light)でドライアイ治療を行う」ときくので、情報を収集してみた。

すると、、

●IPLは、本来は酒皶という皮膚科領域の治療レーザーである[1]。☜酒皶とは、酒飲みの「赤ら鼻」
●2003年ごろから、MGD(Meibomian gland dysfunction=マイボーム腺機能不全)によるドライアイ治療に応用されてきた[2]

ドライアイで実際に多いのは、涙液量不足より脂不足タイプで全体の86%を占める。この脂不足タイプは点眼が効かない。

僕自身、点眼がききにくい症例については「心理的側面も加味すべきだ」と感じ治療してきた。しかし、Rolando Toyos氏らによると「IPL治療によってMGDを改善すれば脂不足タイプのドライアイも快癒する」「マイボーム腺梗塞や、再発性の麦粒腫に対しても効果がある」

作用機序は、以下のものが提唱されている。

つまり、温罨法や蒸しタオル法のように「単に温度を上げているだけではない」と仰られている。


営業担当に「でも、お高いんでしょう?」と訊ねると、白内障手術機械になんなんとする価格!
しかも、この治療が、東京では普及しており、自費診療で一回1万円も頂戴するやに聞き、いやましに驚く[3]

正直「ないわー」という印象で、医療においても二極化が斯くの如く進捗しているのだと実感した、、次第。


1.Treatment of rosacea with intense pulsed light: significant improvement and long-lasting results

2.Intense Pulsed Light Treatment for Dry Eye Disease Due to Meibomian Gland Dysfunction; A 3-Year Retrospective Study

3.2021-11-25-第29回阪神眼形成カンファレンス。八王子友愛眼科の今野公士先生の提示資料。

第17回オキュラーサーフェス研究会をweb聴講しました。

特別講演は、内野美樹先生の『アイペインとドライアイの治療戦略』であった。

以下、要約を示す。

ドライアイの痛みには、末梢痛だけではなくて、神経痛+中枢痛が関与する。

神経痛+中枢痛に対する治療として

・内服薬:リリカ→サンバルタ→タリージェ

・星状神経節神経ブロック

・鍼灸治療

ストレス軽減療法:強みをうまく利用する。引きこもりを出すことができる先生がいる。Value of considering psychological strength in patients with eye pain.


僕の経験では、中枢性の要因が大きい患者さんに対して薬物治療は効かない。

今回の講義でいうところの「ストレス軽減療法」が奏功する。すなわち、「エクササイズして、規則正しい睡眠を取り、バランスが取れた食生活を送る」である。

一方、そういう患者さんに限って、つらい症状を一発で消去できる薬・サプリメントを探し求めている。曰く「体がだるいので運動はしたくない」「食生活は変えられない」「睡眠薬をやめるわけには行かない」…

それらを「チルチルミチルの青い鳥症候群」と、僕は呼んでいるのである。

ドライアイとストレスの関係

以前から、ドライ症状が強い患者さんはストレス傾向が強いと感じていたが、

鬱および不安症とドライアイの自覚症状は相関するが、客観的な指標は相関しない[1]

we found that depression and anxiety were related to the subjective symptoms of DED but not the objective symptoms

ドライアイと精神病性向の間には大きな関連性がある[2]

significant association between DED and psychiatric morbidity burden is present

外来で診ていても、

①自覚症状は強いが、指標は悪くない人

   vs

②指標は悪いのに、自覚症状が少ない人

で比較すると、

①の人のほうが、心気症的傾向が高いことは間違いない。

そのような方に、安易にデパスやらソラナックスをだしちゃうと、調節筋力が低下してかえって症状が増悪することがある。

そこで、当院では、運動・睡眠・栄養などを通して、薬剤によらず行動療法的にストレス発散するように指導している。

[1]Dry Eye Syndrome (nih.gov)

[2]Mental Health Status in Dry Eye Disease – a Case Control Study | touchOPHTHALMOLOGY

ドライアイの合併症

ドライアイを起こす原因は数多くある[1]が、アレルギー性結膜炎も一因となる[2]。

アレルギー疾患があると流涙をおこすため、ドライアイの合併を見過ごしやすいが、BUTを測定すると短縮していることがよくある。異物感や充血など臨床所見・症状も似ているため、両疾患が共存していることを見落としやすい。

両疾患ともに、眼表面症候群ともいうべきスペクトラムに属するもので、病気の主座が結膜側にあるか、角膜側にあるかの違いに過ぎないのではないかと、僕は考えている。

見極めには、所見だけではなくて、患者さんの愁訴に耳を傾ける必要がある。ドライアイでは眼精疲労、視矇感の訴えが強く、アレルギー性結膜炎の場合には、異物感、充血の症状が強い。

患者さんの訴えをよく聞いて、どちらの治療に軸足を置くか判断する必要がある、と思う。

[1].Dry Eye Syndrome (nih.gov)

[2].Double Trouble: When Allergy and Dry Eye Coexist (reviewofcontactlenses.com)