「近視抑制治療の最前線ー本格始動の前に知っておくべきポイント」を聴講しました

筑波大学医学医療系眼科 准教授 平岡孝浩先生の講演でした。@  第75回神戸臨床懇話会

外遊びの重要性
  • 大都市以外でも、緯度が高い北海度、青森、宮城に近視が多い。これは、日照時間が少なく、家にこもりがちなため。
  • 一日2時間以上外に出るとよい。屋外時間が長いと、近業が長くても近視になりにくい。つまり、キャンセル効果がある。
  • 台湾では国策でやっており、近視有病率を減らしてきた。日本では「外あそび推進の会」活動をしている。
特殊デザイン眼鏡

●デフォーカス原理によるもの:周辺網膜の遠視性フォーカス(フォーカスが網膜より後ろ)が良くない。そのため周辺部を近視性デフォーカスにする。

  • 大いに期待されたマイオビジョンだが効果がなかった。鼻眼鏡や眼球運動にともない効果が減弱する。☞小生過去ログでも経緯を詳述してます。
  • MyoCare(Zeiss):円柱型リング。1年で有効であるらしい。長期結果は未だ。☞Myokidsの後継、つまり4代目MCレンズ?Zeissに問い合わせ中。→「MyoCareレンズは日本国内では未承認の為、販売未定であり、提供できる資料はない」とのことでした。
  • DIMSレンズ=Defocus Incorporated Multiple Segments 400個埋め込まれている。近視性デフォーカスを形成する。☞これも掲載済み
  • Stellest(Essilor会社):高度な非球面性を有する小型レンズが、同心円状に埋め込まれており近視性デフォーカスを形成する(DIMSレンズに似たコンセプトである)。☞これは初めて聞いた!

●Contrast理論によるもの:網膜における強いコントラスト信号が眼軸長過伸展のトリガーとなっており、逆にコントラストを低減させる眼鏡を装用すれば近視進行を抑制できる。

  • DOT(SightGlass社)真ん中は単焦点、周りはdiffusion optics technology。☞これも既述
アトロピン点眼
  • ATOM2、ATOM-J、LAMPstudy、Orange Study:「濃度依存性に屈折度、眼軸長抑制効果がある」との結果。副作用とやめた後のリバウンドも同様に濃度依存性であった。0.025%(←参天のリジュセアの濃度)はリバウンドがきつい。十代後半まで長く使うことを推奨する。
オルソケラトロジー
  • 6歳~8歳から始めたほうが良い。抑制効果が高い。
  • リバウンドは?:14歳より若い年齢でリバウンドしやすい。15歳までは続けたほうが良い。
  • 結論:6-8歳で開始、18歳までは継続が理想的である。
  • アトロピンとオルソの併用。が結構強い効果がある。75%有効。
多焦点ソフトコンタクトレンズ
  • デフォーカス型:MiSightクーバービジョン
  • EDoF型:シード1dayPure
    デフォーカス型とEDoF型では、効果に差がなかった。
  • JJ&J ALBILITI:眼軸長抑制効果高い。;7D,10Dを加入している!のでもっとも効くらしい。☞これは初めて聞いた。J&Jに問い合わせ中。→「日本国内では承認されておらず、資料を全く持ち合わせていない」とのことでした。
光線療法
  • Red Light:Repeated Low-level Red-Right(RLRL):650nm,1600 lux、3分×2/day。7割きく。最強と謳われていたが、治療後後の網膜障害、中心窩での錐体の密度低下が観察される。中国では、製造中止となり推奨治療から外されてしまった。
  • Violet Oight:TLG-001J(バイオレットライト照射KB)で治験中
  • Blue Light KB:Mypoia X DopaVision
質疑応答
  • 従来の姿勢とか、外遊びの重要性についても伝える。そのうえで、患者さんの希望があれば上記治療について伝える。やりたくないものは続かない。
  • おすすめ:オルソ>多焦点ソフトレンズ。特殊構造KBが本格化すればなおよろしい。
  • オルソで間歇性外斜視の子供。寝ている間のずれが発生することがある。間歇性であっても、斜視があると難しい。手術をして眼位を正位にしてから治療開始する。アトロピンとか、多焦点ソフトレンズのほうがよいであろう。
  • ブルーライトカットメガネは?:かえって逆効果であろう。エビデンスがない。
  • 多焦点レンズも小1からできる。特に女の子はできる。

参天製薬からアトロピン点眼「リジュセアミニ点眼液」が発売されます。

参天製薬の「近視進行抑制剤」に注目が集まる理由 国内で初承認
をみつけ、参天製薬に問い合わせたところ、

現在発売時期なども未定の中なので提供できる資料などが非常に乏しい状態でございます。参天+アトロピンでの論文となると現状下記の一報のみとなります。

光干渉断層撮影法と眼底写真によるアトロピン応答を予測する近視イメージングバイオマーカー 

要約は、

アトロピン点眼が眼軸長延長の抑制効果を予測するには、「OCT所見のGCL+(≒GCC)、眼底写真のRGBのうちR要素」と相関があった。

この論点は初見だな。今後、アトロピン点眼を処方するときに有用かも。


この点眼薬の特徴は

  • 濃度は0.025%である。学童の近視進行抑制2023 – 眼科医のブログ で述べたように「日本人を対象とした研究では、0.01%アトロピンの点眼の有効性が、他国人(≒欧州人、シンガポール人)よりも出にくい。」ことがあるのかもしれない。
  • 使いきりである。:マイオピンとの差別化かな。
  • 費用:自費診療で、4千円/月らしい。従来品はこちら

☞ 当院では0.01%、0.025%、0.05%を調剤しています。全部250円ですが使いきりではないです。

近視予防週間です。

BHVIから5/13~5/19は近視予防啓蒙週間ですとのお知らせがあり、関連記事を読みました。


以前はやや怪しい印象を持っていたred light治療でしたが、注目を浴びつつある印象です。

Red Light Therapy for Myopia: Merits, Risks, and Questions – Review of Myopia Management (reviewofmm.com) を要約すると、

1日2回、3分間赤色光を見るだけなので親子にとって望ましい選択肢になりうる。
懸念すべき点は
1.長期にわたる安全性が担保されていない。
2.どのような機序によって、近視抑制ができているのかが解明されていない。

「有効な近視抑制手段かどうかについては、さらなる研究が必須」という結論でした。


私的感想

  1. red light治療が全面的に承認されている感は未だしである。
  2. violet lightかred lightか論争はサプリメント議論に似る。サプリより食物が大事とおなじで、太陽光線を浴びるのが一番では?

 

近視進行を遅らせるDIMSレンズ眼鏡の効果

日本の眼科2025 p.254~から引用します。

近視治療の代表的なものとしてはOrthokeratology、低濃度アトロピン点眼、多焦点コンタクトレンズ、累進レンズ眼鏡などがある。
この中で安全性からいえば眼鏡によるものが一番と思われるが、従来Orthokeratologyやアトロピン点眼と比べるとその効果は弱いとされていた。

数年前からHOYA株式会社ビジョンケア部と香港理工大学が開発したDIMS(Defocus lncorporated Multiple Segments)レンズという近視進行抑制眼鏡が海外で臨床試験され効果が報告されている。

この新しい眼鏡について調べたところ、DIMS群と単焦点群で

  • DIMS群ですべての観察期間で有意に近視進行が遅れた。
  • DIMS群では近視が弱いほうが進行も緩やかだったが、単焦点群では近視が弱いほうが進行が速かった。

以上から

「DIMSレンズ眼鏡は、近視が弱いうちに装用すると効果がある」と結論付けています。

以前にも述べたようにDIMS眼鏡はビミョーな印象もあるけれども、簡便性ゆえに相変わらず研究が続けられているようですね。

上記のレンズは日本では未発売ということなのでHOYAさんに聞いて、ここで報告します。


2024/6/19追記

上記の件について、HOYAから以下のように教えていただきました。

日本国未承認及び今後の展開が未定であると言ことで具体的な資料の提示は出来ません。ただし、既に、海外で展開している内容がインターネットに出ておりますのでご案内させて頂きます。

Miyosmart _ HOYA Vision Care
https://www.hoyavision.com/vision-products/miyosmart/

HOYAビジョンケアが世界初のメガネレンズ「MiYOSMART」の6年間の追跡臨床研究結果を発表
https://kyodonewsprwire.jp/release/202205060845

HOYA ビジョンケアが欧州での「 MiYOSMART 」の 1 年間の研究結果を発表
https://kyodonewsprwire.jp/release/202310312068

特集:近視 Defocus Incorporated Multiple Segments (DIMS) 眼鏡レンズ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjvissci/40/4/40_40.99/_pdf/-char/ja

小児における近視抑制治療の最前線(平岡 孝浩) 記事一覧 医学界新聞 医学書院
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3480_04

新しい近視治療点眼薬(慶応大学とロート製薬の共同研究)

日経新聞に目薬で近視の進行抑制という記事が掲載されました。
アトロピンクロセチンとは異なる機序の新薬を、坪田先生とロート製薬が共同研究しているという内容。

ロート製薬に問い合わせ、下記のScleral PERK and ATF6 as targets of myopic axial elongation of mouse eyesを教えていただきました。


マウス実験で

endoplasmic reticulum(ER) stress(※)↑→ PERK and ATF6系の活性↑→眼軸長↑
 ⇩
4-phenylbutyric acid (4-PBA)投与→endoplasmic reticulum(ER) stress↓→眼軸長↓
 ⇩
4-phenylbutyric acid (4-PBA)は、近視治療に有望である。

と、いうのが2022/10発表の論文骨子である。

 

この度、国内第I相臨床試験(以下、「本試験」)に向けての準備が整いましたので、本試験を開始いたします。

と、いうのが2023/11発表の記事である。

 

坪田先生はベンチャー経営されているだけあって、動きが速いなと感心する。

ただ、violet lightといい、意外と実用化に時間かかる感じでありましょうか。


(※)小胞体の中に、折り畳み不全のタンパク質が蓄積したときに認められる状態のことをendoplasmic reticulum(ER) stressといい、4-phenylbutyric acid (4-PBA)は、この折り畳み不全タンパク質が正しく折りたたむのを手助けするchaperone(介添え人)として働くらしい💦

左は正常眼の強膜線維芽細胞、右は折り畳み不全のタンパク質が蓄積した近視眼の強膜線維芽細胞

受動喫煙で近視が進む

この研究によると、

  • 受動喫煙群では等価球面度数が0.09D、眼軸長が0.05mm伸長していた。
  • 中等度近視と高度近視のオッズ比は、それぞれ1.30、2.64となる。
  • 近視の平均発症年齢が低くなる。

高度近視のオッズ比、高いな。
近視児の両親に「タバコ吸ってませんね?」と確認せねば、、である。

学童の近視進行抑制2023

京都府立医大 稗田牧先生のご講演@兵庫県眼科医会特別講演
色々と目新しいことを、聴けました。


高次収差と眼軸長

動物実験では、ぼやけが強い(≒高次収差が強い)ほど眼軸長が延長する。しかし、近視矯正手段であるタオルソケラトロジー、多焦点CL,アトロピン点眼はいずれもぼやけが強くなる手段である。つまり、動物実験と臨床経験が矛盾する。
これについては「中央網膜では高次収差が少なく、周辺網膜では高次収差が多いほうが近視抑制に働くのではないか?」と稗田先生ご自身は想定しているとのことでした。


近視眼の特性

●Lens induced myopia
過矯正眼鏡が近視を進めることは、臨床経験上知られてきた。
今では、これは論文レベルで根拠がある。

●正視眼と近視眼の違い
正視眼のひとにプラスレンズを挿入すると、45分程度で眼軸長が短縮する!ところが、近視眼の人にプラスレンズを入れると眼軸長が延長する。
従って、近視では低矯正眼鏡であっても眼軸長延長の可能性がある。
近視は眼軸長の調節機序が働かず、眼軸長が伸びる一方という疾患なのかもしれない。


アトロピン点眼について

●アトロピン点眼の有効性について
日本人を対象とした研究では、0.01%アトロピンの点眼の有効性が、他国人(≒欧州人、シンガポール人)よりも出にくい。
なぜなのかを研究したところ、日本人は他国人よりも薄暮時の瞳孔径が大きいことが判明した。
すなわち、交感神経が優位気味だとアトロピンが効きにくにいということ。

●アトロピン点眼の濃度依存性
いままでは、アトロピンは濃度依存性にきくとされてきた(LAMP study)
2023年の米国発表では0.01%には効果があったが、0.025%では効果がなかった由。

●アトロピン点眼の近視予防効果
0.05%アトロピンを近視になる前に点眼すると、近視発症予防効果があることが判明した。

近視治療の費用対効果について

近視抑制効果

Myopia Calculator | BHVI 準拠

オルソケラトロジーの近視進行抑制率は44%
EDoF型近視抑制コンタクトレンズの近視進行抑制率は43%
低濃度アトロピン点眼の近視抑制率は57%

年間費用

マイオピン以外は当院規定。マイオピンはここ準拠

治療方法 費 用 内 訳 1年間合計 近視抑制率÷年間費用(%)
アトロピン点眼 1本250円×12 3,000円 1.9
オルソケラトロジー一括払い制 検診1,950円×12+初年度11万円~13万円(2年目から原則不要) 23,400円+初年度のみ11万~13万 0.03
オルソケラトロジー定額制 検診1,950円×12+6,600円~7,700円×12 23,400円+79,200円~92,400円 0.04
EDoF型近視抑制コンタクトレンズ 1箱(片眼)3,630円(キャンペーン時3,190円)×2×12 87,120円(キャンペーン時76,560円) 0.05
クロセチン 3,300円×12 39,600円 効果不明
マイオピン0.01% 1本4,000円×12+1~3か月毎定期検診(2,000円~2,500円) 48,000円+1万~1.25万 0.10
マイオピン0.025% 1本5,000円×12+1~3か月毎定期検診(2,000円~2,500円) 60,000円+1万~1.25万 0.08
各種治療選択と費用対効果

当院作のアトロピン点眼が図抜けてるな!😊

 
マイオピンは、当院品とほゞ同一である。上図から、絶妙な戦略とゆーか、価格設定が看て取れる。

近視サプリメントのクロセチンについて

最近、問い合わせが多いので調査しました。
以前も書いたが、慶応大学の研究成果です。

「内服で、眼軸長延伸が抑制」を不思議に感じたので、機序を調べた。

クロセチンは、慶應義塾大学医学部眼科学教室の近視研究チームが、「EGR1を活性化する食品成分」を探したところ、 「クロセチン」が群を抜いてEGR1遺伝子を活性化させることがわかりました。

よって、EGR1が重要なメディエータと思しき。。

EGR1(early growth response 1)は、細胞の増殖を調整したり、腫瘍の形成を予防するような遺伝子です。
屋外環境に豊富にある波長域360-400nmの光を浴びると、実験近視モデルで眼軸長伸長が抑制され、EGR1が有意に上昇していることが確認されました

更に、このドーパミン説とも関連するんだけど、

EGR1(Early Growth Response 1)は、特定の神経活動や神経伝達物質の影響を受けて発現します。ドーパミンはそのような神経伝達物質の一つで、報酬や動機づけ、運動制御などに関与しています。

ドーパミンがEGR1の発現を誘導するという研究結果があります。例えば、”Dopamine induces expression of the immediate early gene zif268 (Egr1) in striatal neurons by diverse signaling pathways”という論文(Minatohara, Keiichiro et al., 2016)では、ドーパミンがストリアタム(脳の報酬系に関与する部分)のニューロンでEGR1の発現を誘導することを示しています。

以上、踏まえると

・クロセチンを摂取 and/or 太陽光線を浴びる
  ↓
・網膜内ドーパミン活性が亢進
  ↓
・EGR1遺伝子の発現が亢進
  ↓
・細胞増殖が抑制される
  ↓
・眼軸長の延長が抑制される
  ↓
・近視が抑制される

という流れが想定される。

近視治療用の点眼薬アトロピンの至適濃度

LAMP study[1]を読みました。

①近視抑制効果は濃度依存的なのか?
②作用と副作用を考え、至適な濃度はいくらなのか?

を調べた論文です。

①の答え

近視抑制効果は濃度依存的である。

②の答え

考察はあ~だこ~だと総花論に終始。ので、私的感想は以下のごとし。

1年目は0.05%でバシっときかせる。
2年目以降は濃度差の影響が減ってくるので、0.01%でもいいんじゃね?

当院では、院内調整して0.01%、0.025%、0.05%を用意しているが、0.05%だとまぶしいという人がいる印象である。

1.Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study