BarrettⅡ式のLensFactorとA定数

A-modeでしか、眼軸長が計測できない場合でもBarrettⅡを使えるんじゃね?と思うが、超音波測定時のLF(LensFactor)値は各社とも提供していない。
これは、BarrettⅡが優れて光学計測に依拠するからであり、即ち、提供していないのではなくて提供できないのである。

しかし、公開Web計算式ではLF or A-constant とあるんだから、A定数を放り込めば良いのでは!とも読める。
実際、内部的にはA定数からLF値を求めてるらしいが、実装は一切不明。
而して、これは、単に互換性を担保するだけの仕様であり、orは厳密な意味でのorではないと考えるべき。

回りくどくなったので、以下まとめる。

1.光学式で測定できるならBarrettⅡ+LF

2.超音波でしか測定できないなら、(第3世代)SRK-T(要A定数) < (第3世代)HofferQ(要pACD定数) < (第4世代)Hagis(要a0,a1,a2定数)

アポダイズ回折技術について

一時期、よくきいたアポダイズ回折って最近あまり聞かんな~、という件を調べました。

Examples of diffractive multifocal IOL designsより引用

アポダイズ回折とは「回折格子の高さや幅を、周辺から中心に向かって変化させる」ことによって、

  1. 明るい環境(瞳孔が小さいとき):主に中心部が働き、遠方と近方の光がバランスよく分配される → 日中の明るい環境では、中心部の回折構造が効き、近くの文字やスマホも見やすい。
  2. 暗い環境(瞳孔が大きいとき):周辺部は遠方光に多く振り分けられるようになっている → 夜間や薄暗い環境では、近方視よりも遠方視が優先されるため、運転などに有利。
  3. ハロー・グレアの軽減→光の分配を段階的に変化させることで、単純な多焦点レンズよりもコントラスト低下や眩しさが抑えられる。

ActiveFocus Restorで2017頃風靡したが、PanOptixやSynergyでは採用されていない。Odysseyのすりガラス状エッジや回折リング高↓はハログレ対策であって、アポダイズ設計とは無関係。

 


ではなぜ、アポダイズ回析が採用されなくなったかというと、以下のようである。多分。

  1. 瞳孔径に依存して光配分を変える設計に無理があった。瞳孔径や瞳孔反応性は、年齢や個人差が大きい。ので、瞳孔径に依存する設計は理論上よさげだが、実用上難点があった。
  2. 同様に、瞳孔が小さくならないと、中心部径3.6mmの回析構造が働かず近方視力を稼ぐことができない。

そこで、ALCONはアポダイズ設計を捨てて、PanOptixでは中心部径4.5 mmの非アポダイズド回折を採用したらしい。
称してENLIGHTEN技術であり、「これによって約 88 %の光が網膜へ到達するように設計されている」「周辺部の単焦点ゾーンが狭まることによる遠方視力低下は、遠方パワー配分を44%と増加させることによって補っている」といってる。

 

Gemetricに対するコメントも、上記経緯から漸く理解できる..のである。

MiSightが承認されました。

以前、デフォーカス組み込み型の近視抑制コンタクトレンズ としてクーパービジョンMiSightを紹介しました。
未承認レンズであり、当院では同一効果のSeed Oneday PureEDoF を使用してきました。

最近、子どもの近視治療用コンタクト、国内初の薬事承認を18日審議 という記事をみたので資料請求したところ、以下2論文をいただきました。

抄読

1.A 3-year Randomized Clinical Trial of MiSight Lenses for Myopia Control – PubMed

2.Long-term Effect of Dual-focus Contact Lenses on Myopia Progression in Children- A 6-year Multicenter Clinical Trial – PubMed

1.は前回よんだ論文です。3年間MiSightを装用した効果を示しています。

治験参加者は8歳から12歳の近視児童。
治験デザインはMiSightレンズ装用者53名、プロクリアー1Day(コントロール)装用者56名。二重盲検。
結果「3年後の結果で、屈折度は 59% (−0.51 ± 0.64 D vs −1.24 ± 0.61 D) =0.73D、眼軸長は52% (0.30 ± 0.27 mm vs 0.62 ± 0.30 mm) =0.32mm抑制された。

2.は1.のフォローアップ論文。つまり、4年目から6年目までを経過観察し判定したものです。

3年間MiSightを装用し、引き続き3年間(合計6年間)も装用したグループでは、近視進行の抑制は保たれた。

3年間MiSightを装用せず、4年目から装用に転じたグループでは、未装用だった3年間と比べて71%眼軸長の伸長が抑制された。

結論
  • 装用が早いほうが望ましいが、装用開始が遅れたとしても効果は十分見込める。

担当者談「承認は取ったが、発売については1年くらいはかかるかもしれない」

PureSeeとEyhanceの比較

J&JがEyhance欠品中につき、PureSeeを提供してくれている。
で、両者の比較を行った。

以前、「デフォーカス曲線みると単焦点レンズやアイハンスの遠方~中間距離をやや膨らかしただけような気もする。」とかいた。

上記をみると、EyhanceをOddysey寄りに振ったという表現のほうがいいかも?

エネルギーロスは両者ともほぼ0%で、コントラスト感度曲線に差はない。

NIDEKのNSP-3について

アイハンスがま~たまた欠品なので、同様コンセプトを持つ他社製品を調べました。

いわゆる単焦点プラスとしては、このNIDEK NSP-3と、以前述べたHOYA ヴィヴィネックスインプレスEMがある。

NSP-3のデフォーカス曲線は

 

アイハンスとヴィヴィネックスインプレスを、以下に示す。

左:アイハンス 右:インプレス

 

NIDEKは加入度数≒0.75Dよりも、farのデフォーカス曲線が平坦になり測定ずれに強いことを強調したい感じだ。

↑は、僕が以前から言ってる論点で、眼軸長測定装置や計算式の改良と同じくらい重要だと思う。

HOYA インプレスは加入度数1.0Dをわりかしアピールしており、社によって戦略が異なるんだろうな。

 


 

☞加入度数を表立って言わないのは、単焦点レンズとして許認可とってるためらしい。

 

当院のミニモノビジョン

最近施行したミニモノビジョンの症例で、データがそろっている場合について、患者さん満足に何が重要かを調べました。

生データは

Patients evaluation Age 5mVision 70cmVision 30CmVision DominantEye TargetError ResisualError ToricLensInserted? Far Eye Posirion Near Eye Position Tear Film Thickness Non-Dominat eye Axis Length
Can read newspaper without glasses 85 1.2 0.5 0.4 Left -0.5 -0.625 no 0 8 18.5 24.93
Can see desktop without glasses.But can’t read a book. 66 1.5 0.7 0.7 Left -1.25 -1.625 yes 0 10 11 28.9
Can’t see well. 61 2 0.5 0.5 Right -0.5 -0.375 no 0 12 9.5 25.99
almos everything OK without glasses. 65 1.5 1 1 Left -1 -1.25 yes 14 20 19 26.86
can read a book. also can watch TV without glasses. 82 1 0.5 0.4 Right -1 -0.5 yes 0 6 19 24.38
can read a book without glasses. 67 1.5 0.6 0.6 Right -0.5 -0.375 no 2 10 15 25.38
seems to be able to rea a book without glasses. 72 1 0.3 0.3 Left -1 -1.375 yes 0 10 19.5 24.35

Julius ai によるご託宣、以下の如し。

MICROMONOVISION ANALYSIS SUMMARY
Key Findings:
– Distance vision (5m) is strongest predictor of satisfaction (r=-0.828)
– Tear film thickness positively correlates with satisfaction (r=0.696)
– Critical thresholds: Distance vision <1.5, Tear film >15m
– Unsatisfed patient is younger (61 vs 74.5 mean)
 

ま、この程度の症例数ではなんともいえんが、朧ろにみえるのは

  1. 遠見視力は出るほうがいいが、かといって2.0も出してはいかん。→ FarをFirst negativeにするだけではなくって、monovisionのdef値もnegative気味にするべき?
  2. ドライアイは治療しておく。→多焦点レンズと同じである。
  3. Unsatisfed patient is youngerは、アイハンス採用するなら若い方が良い、と相違するな。

近視眼に対する白内障手術と眼内レンズ度数計算を科学する

大阪大学 後藤聡先生の話でした。 2025/6/28 第7回日本近視学会総会@コングレスクエアグラングリーン大阪

近視眼に対する白内障手術の注意点
  • 創口形成:early perforateしやすいので3面切開をする。
  • CCC:前房が深いためCCCが大きくなりやすい
  • 逆瞳孔ブロック:前房が急に深くなり瞳孔領が散大する。

感想:切開方法よりも角膜への刺入部位がpointではないかな。近視眼はearly perforate気味になりやすいが、前房は深いので虹彩脱出しにくい。遠視眼+αブロッカー内服の方が要注。CCCは、接子が立ち気味でやりにくい。逆瞳孔ブロックはよくあるが、急に深くなるのは心臓に悪い。ブロック解除より、まずボトル下げるべし。

IOL度数計算式
  • 超音波測定時に開発された旧世代式の代表がSRK-T vs 光学測定対応の新世代式の代表がBarrettⅡ
  • いまだにSRK-T式の採用が多いが、BarrettⅡも増えてきている。☞ 当院は、数年前からBarettⅡ
  • KANE式が新顔で注目されてる。
  • ESCRSのWebなら新世代IOL計算式が一度に算出可能である。
眼軸長測定装置
  • 眼軸長測定はSS-OCT方式に移行しつつあり、OA-2000(Tomey)、IOLMaster700(Zeiss)、Arterion(Heldeberg)、Eyestar900(Haag-Streit)、Argos(Movu)が代表機種。光学式で測定困難であった熟成白内障でも測定可能である。
  • 上記のうち、Argoのみ眼軸長=Σセグメント眼軸長(=部位別光路長/部位別屈折率)で測定する。眼軸長が短めに出るため、古い世代の計算式では近視化する。新しい計算式はそうでもないが、超長軸眼の場合かえって精度が低下する。
  • Barrett先生はこの点に気付いたため、BarretTrueAL式を発表している。

Refractive accuracy of the new Barrett formula using segmented axial length compared with that of the traditional Barrett Universal II formula – PubMed より引用すると

左:Argos+BarrettⅡ 真ん中:Argos+BarrettTrueAL 右:IOLマスター+BarrettⅡ

ArgosとBarrettTrueALを併用するとグループ内変動係数が低く、測定精度が高いといいたい様子。


☞ 新々計算式はAI準拠らしい。 ちょっと前まで、RayTracing準拠の計算式とかよく言ってたような気がする。
☞ 同フロアで日本眼科AI学会総会も開かれてました。

「AIの臨床応用とその課題」を視聴しました。短評。

日本眼科学会のオンデマンド配信によるものです。

    • SaMD(Software As a Medical Device)を開発済みで、近く正式承認されるということ。
    • 眼底写真や前眼部写真を選択して、候補病名をクリックすると診断の確度を%表示していれるソフトが例示されてました。

cf .Deep learning model for extensive smartphone-based diagnosis and triage of cataracts and multiple corneal diseases – PubMed

  • 手術に関しては、CCCの巧拙を評価するシステムがあり、ラーニングカーブの短縮化が期待できる。
  • SaMDはBeeline、Findex、NIDEK、Topcon4社が協賛していて、そのうち眼底カメラやスリットランプに搭載されるんとちゃうんかな。←後半は、勝手予想。

小生が希望するのは

  • 鑑別が難しい、ブドウ膜炎、視神経疾患(腫脹と萎縮両方)の診断ソフト。
  • 院内の患者さん情報をローカルLLMで管理して、特化した説明、紹介状を出力するもの。
  • ProprietaryではなくってopenなAPIなりLibraryなりを、MITライセンスレベルで公開してほしい。

AMOテクニスのPureSee眼内レンズについて

AMOは新命名がお好きなようで、今次は「PureSee=屈折型多焦点レンズ」と称する由。

過去の命名遍歴
・Symphony:EDoF型(=焦点深度拡張型)=エシェレット回折型(2焦点)

・Synergy:連続焦点型=エシェレット回折型(2焦点)+回折型(2焦点)

・Odyssey:改良型連続焦点型

・PureSee:屈折型多焦点レンズ

EDoFだけど回析格子がないので、ハログレが発生しないと謳う。
屈折型多焦点レンズとは「後面レンズ2.4mnm部分のみカーブを変えて、焦点深度を深める」ことにあり、加入度数はヒミツだけど+2.0D位らしい。


Optical and Visual Outcomes of a New Refractive Extended Depth of Focus Intraocular Lens より引用

Eyhanceの大幅改良バージョンというが、デフォーカス曲線みると単焦点レンズやアイハンスの遠方~中間距離をやや膨らかしただけような気もする。
Vivity+Panoptix  vs PureSee+Odyssey のMix&Match対決となるかな。

 


MRさんによると、

  1. PureSeeは、Symphonyの後継レンズとの位置づけ。VivityがActiveFocusの後継みたいな感じかな。
  2. Synergyは発売中止で、Odysseyに全面移行。

Pairing手法の最新情報

第129回日本眼科学会総会での「HOYA協賛 多焦点眼内レンズのペアリング」をオンライン視聴しました。
スクショ厳禁につき、テキスト文及び公開論文のみ記します。

実臨床例は和歌山医大の1例のみで、あとは文献紹介でした。

和歌山県立医科大学 岩西宏樹先生
  • 中間距離がやや遠い。「日本のキッチンは欧米より低い、などの日本の住環境を考慮されている」
  • 質疑応答:中間と遠方重視なら両眼Gemetricで、近方重視ならGemetetric+GemetrticPlus.両眼GemetricPlusは時期尚早であろう。
西眼科病院 西悠太郎先生
  • Gemetricはハローが少し出る傾向がある(軽度)。暗所での瞳孔径が大きい症例では慎重な適応検討が求められる。
  • NINO Study:Paringは両眼Gemetricと同等の遠方中間視力で、両眼GemetricPlusと同等の近方視力。∴Paringが遠方から近方までの眼鏡フリーを達成する最もバランスのとれたグループ。
  • 質疑応答:Paringのほうが、両眼GemetricPlus入れるよりも近方視力が良いのはなぜか?→MixAndMatchと同じような効果(加算効果ということかな?)が考えられるが、今後の検討にゆだねる。
慶應大学 四倉絵里沙先生
  • 両眼GemetricよりもParingのほうが薄暮所、明所での近方での視力が良い。↓

やはり、実症例1例では物足りんな~。

佐々木先生は「オールラウンドに使える」かもしれない、と前向き評価でした。
Vivity+PanoptixのMix&Match vs Gemetric Paringについての発表を楽しみにしております。