ドライアイの合併症

ドライアイを起こす原因は数多くある[1]が、アレルギー性結膜炎も一因となる[2]。

アレルギー疾患があると流涙をおこすため、ドライアイの合併を見過ごしやすいが、BUTを測定すると短縮していることがよくある。異物感や充血など臨床所見・症状も似ているため、両疾患が共存していることを見落としやすい。

両疾患ともに、眼表面症候群ともいうべきスペクトラムに属するもので、病気の主座が結膜側にあるか、角膜側にあるかの違いに過ぎないのではないかと、僕は考えている。

見極めには、所見だけではなくて、患者さんの愁訴に耳を傾ける必要がある。ドライアイでは眼精疲労、視矇感の訴えが強く、アレルギー性結膜炎の場合には、異物感、充血の症状が強い。

患者さんの訴えをよく聞いて、どちらの治療に軸足を置くか判断する必要がある、と思う。

[1].Dry Eye Syndrome (nih.gov)

[2].Double Trouble: When Allergy and Dry Eye Coexist (reviewofcontactlenses.com)

近視治療の効果

WHOと近視の共同研究をしているBrien Holden Vision Instituteというオーストラリアの研究所がある。

その研究所のHPに、近視軽減効果の予測頁があり、各種の治療方法とその効果の予測が記載されている。

当院でも採用しているアトロピン点眼とオルソケラトロジーの効果について、「10歳で-2Dの近視の子供が17歳時点でどのくらいの近視に進展するのを防ぐことができるか」を予測させてみた。

<高濃度アトロピン>

<低濃度アトロピン>

<オルソケラトロジー>

アトロピン点眼の効果が意外に高く驚く。日本国内の「オロソケラトロジーが決め手」という受け止めとは異なる。

ただし、オルソケラトロジーでは裸眼視力が改善される点への考慮はなく、あくまで近視抑制効果のみ評価している点に留意する必要がある。

アトロピン点眼とオルソケラトロジーを併用すれば、裸眼視力も改善し、近視抑制効果も最大限に獲得できるのかもしれない。

たかが近視、されど近視!

学校検診の季節となりました。

「1、2ケ月で急激に視力が低下した」と言って検診用紙を持ってこられる患者さんが多い時期です。

スマホやタブレットが浸透してきたためか、小学校低学年でも相当程度、近視が進行してしまっているお子さんを見受けます。

そのようなお子さんや、ご両親には「高校3年生までに-6Dをこすような高度近視にならないように」とご説明しています。

それは、高度近視になると、以下のような合併症が、将来発生する可能性が高いからです。

正視と比しての合併症オッズ比

長寿時代となり、人生の後半期に器質的な眼合併症で苦しまないためには、近視がもっとも進行する小児期に正しく管理を行い、必要以上の近視進行を防ぐことが大切です。

認知症と網膜厚の関係

Spectral-Domain OCT Measurements in Alzheimer’s Disease – Ophthalmology (aaojournal.org) を読んだ。

早期アルツハイマー者、軽度認知障害(MCI)の発見方法は、高価で侵襲的である。

眼科のOCT検査は、安価・簡便・非侵襲的なので、アルツハイマー症と網膜の厚みの関連性について文献調査をした。

Our results clearly demonstrated that SD OCT measurements at the inner retina, including macular GC-IPL thickness, macular GCC thickness, and peripapillary RNFL thickness, were significantly thinner in AD patients than in controls. Notably, thinning of the GC-IPL occurred in most subsectors of the macula.

黄斑部神経節細胞内網状層、黄斑部網膜神経節細胞複合体、傍視神経乳頭網膜神経線維層の厚みがアルツハイマー患者では薄かった。特に「黄斑部神経節細胞内網状層」が薄かった。(意訳)

「神経節細胞内網状層」のOCT像像は以下の通りで、高反射層として描出される。

神経シナプスが密集する場所であるから、この層が薄くなるということは、脳内シナプス結合も疎になってきているということを示唆するのかもしれない。

OCTは大抵の眼科に装備されているので、内科から「MCIの疑いにがあり、網状層厚測定をお願いします」という依頼が来る日も近いかもしれない。

白内障と生体リズム

睡眠や深部体温に代表される生体リズムは,内分 泌・代謝・循環・精神機能など多くの生理機能に関 与しています。

この生体リズムの乱れは肥満・脂質異常・糖尿病・高血圧・精神障害・うつ・脳卒中・虚血性心疾患・がんなどの多くの疾病と関連します。

ヒトの生体リズムには網膜での光受容が最も重要で、網膜神経経節細がブルーライトを感じて生体リズムを調整しています。

白内障があるとちょうどブルーライトの波長が遮断され.十分に眼内に届かないため生体リズムが障害され、生体リズムを崩すと考えられています。

最近のPCは夜間になるとブルーライトが軽減される仕組みになっている。

ところが、白内障があると、「ブルーライトを一日中カット」→「朝から晩まで夜間状態だと体が勘違い」となるのな。

白内障と全身疾患

白内障で夜間血圧上昇、動脈硬化のリスクが増す。

住環境や生活習慣が健康に及ぼす影響を調査することを目的とした大規模コホートスタディ「平城京スタディ[1]」の結果に基づいて述べます。

通常、血圧は日内変動 があり、夜問で血圧が最も低くなります。

白内障があると、この夜間血圧低下が発生しない比率が1.8倍となっていました (表1)

夜間血圧低下が発生しないと、心血管障害が起きやすくなるため、白内障がある心血管リスクが高くなるということになります。

さらに. 頭動脈エコーで血管壁の厚さを測定すると、白内障があると動脈硬化が1.6倍多く,心筋梗 塞や脳卒中のリスクが高くなっていることがわかりました。

「全身疾患リスクを軽減するには、白内障を解消する必要がある」ということ。。かな?


[1].平城京スタディ:住環境や生活習慣が健康に及ぼす影響を調査することを目的に、2010年9月に開始した大規模前向きコホート研究(参加者数 3012名)

白内障と認知症

視力が悪いと認知症リスクが高い

高齢者を対象とした眼科コホートスタディ「藤原京eyeスタディ」[1]の結果に基づいて述べます。

視力0.7以上:認知症が5.1%

視力0.7未満:認知症が13.3%

視力0.7未満では 認知症のリスクが2.9倍高く、年齢、性、BMI、教育歴などを考慮しても2.4倍も高かった。

白内障手術は軽度認知機能低下を防ぐ

白内障手術既往群(668名) と非手術群(2096名)の2群間で統計分析を行ったところ、視力の因子とは関係なく白内障手術で軽度認知機能障害のリスクは2割程度防げることが判明した(表2)

視覚は人間の情報入力の80%といわれるから、良好な視力とが、良好な脳機能の維持に欠かせないことは間違いないでしょうね。。


[1].藤原京eyeスタディ:2012年の眼科検 診で 70歳以上(平均年 齢76.3歳)約2900名が参加した大規模眼科疫学調査

IC-8について

今までに述べたレンズと全く違う原理で作られた眼内レンズです。

ピンホール効果により、焦点深度深化を図るというものです。

IC-8

ピンホールカメラと同様に絞りをきかせることによって、焦点深度を獲得します。

実際、MTF曲線を見ると、非常に良好な成績ですね。

MTF

ただし、

1.患者満足度が必ずしも高いわけではない。

2.切開創が3.5mmと大きい。マスクが曲げ応力に弱いため,過度に曲げてしまうと損傷してしまうため。

アイデアとしては非常によいですね。

「目がよくなるメガネ」として市販されているピンホール眼鏡をそのままIOLに使うという心意気はよい。

ただ、日本国内では臨床例が少なく、上記のように、実際例ではやや満足度が低いようです。

ミニウェル・レディについて

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MiniwellReady外観

EDoF(焦点深度拡張型レンズ)の先駆けとなったレンズで、アラガン社のsymphonyがでるまではEDoFレンズの代表でした。その後の一連のEDoFの流行の発端を作ったレンズで、現在でも、一部手術者に絶大な人気があります。

それは「ハロー、グレア、単眼複視など、多焦点 IOL で一 番問題とされた問題点を大部分取り除くことに成功している」という大きな利点があるためです[1]

ただし、

  1. やや近方視力が弱い。
  2. 日本国内で認可されていないために、手術代、診察代がすべて自費となり高価となる。

という問題点があります。

保険適用、選定医療を用いるなら、似た性格のSymphony、ActiveFocusを用いることが多いです[2]

なお、当院では、海外で実際に使用されている先進的な多焦点眼内レンズを取り寄せ、レンズを選択できる体制を整えております。


[1]静的固定レンズが多焦点性,焦点深度を拡張させるための手法としては,①回折格子,②屈折加入,③小開口,④球面収差,⑤コマ収差の 5 つの手法に限られています。①,②はすでに多焦点 IOL として用いられており、⑤は像質が不良であることより,実質的には①から④の手法が現実的です。その④の球面収差を利用した機構をもちいたものが MiniWell Ready です。光学的デザインにより焦点深度を伸ばすことを可能にし,連続的な焦点を実現しています。近方加入度数は 3.0D です。

[2]Symphonyはエシュレット回折型のEDoF、ActiveFocusは狭義のEDoFではありませんが、低加入度数の多焦点IOLはEDoFと似た臨床結果 が得られます。IOL&RS誌 Vol. 33 No.1 2019 p.38

多焦点レンズと選定医療

日本で承認された多焦点レンズの手術は「選定医療」扱いとなっています。

「選定医療」とは、「追加費用を負担することで保険適用外の治療を、保険適用の治療と併せて受けることができる医療サービスの一種」「病院の差額ベッド代とおなじで本来保険給付される標準的医療に対する付加価値についての差額を自費として支払う制度」となります[1]

多焦点レンズのうち、日本国内「選定医療」の対象として認可されているのはアルコン社とアラガン社の眼内レンズのみです。

しかし、ヨーロッパでは、他の先進国に比較して眼内レンズ認可基準が緩いことから、新機軸の多焦点レンズがいろいろ発売されています。(眼内レンズメーカーは、まずヨーロッパで新製品を発表するほどです)

次回はそういった先進機能をもつ多焦点眼内レンズについてご紹介します。

保険診療、選定医療、自由診療のイメージ図

[1]「選定医療とは」厚生労働省 (mhlw.go.jp)


2023/7/31追記

FineVision社のFineVisionHPも選定医療に追加指定されました。