白内障と認知症

視力が悪いと認知症リスクが高い

高齢者を対象とした眼科コホートスタディ「藤原京eyeスタディ」[1]の結果に基づいて述べます。

視力0.7以上:認知症が5.1%

視力0.7未満:認知症が13.3%

視力0.7未満では 認知症のリスクが2.9倍高く、年齢、性、BMI、教育歴などを考慮しても2.4倍も高かった。

白内障手術は軽度認知機能低下を防ぐ

白内障手術既往群(668名) と非手術群(2096名)の2群間で統計分析を行ったところ、視力の因子とは関係なく白内障手術で軽度認知機能障害のリスクは2割程度防げることが判明した(表2)

視覚は人間の情報入力の80%といわれるから、良好な視力とが、良好な脳機能の維持に欠かせないことは間違いないでしょうね。。


[1].藤原京eyeスタディ:2012年の眼科検 診で 70歳以上(平均年 齢76.3歳)約2900名が参加した大規模眼科疫学調査

IC-8について

今までに述べたレンズと全く違う原理で作られた眼内レンズです。

ピンホール効果により、焦点深度深化を図るというものです。

IC-8

ピンホールカメラと同様に絞りをきかせることによって、焦点深度を獲得します。

実際、MTF曲線を見ると、非常に良好な成績ですね。

MTF

ただし、

1.患者満足度が必ずしも高いわけではない。

2.切開創が3.5mmと大きい。マスクが曲げ応力に弱いため,過度に曲げてしまうと損傷してしまうため。

アイデアとしては非常によいですね。

「目がよくなるメガネ」として市販されているピンホール眼鏡をそのままIOLに使うという心意気はよい。

ただ、日本国内では臨床例が少なく、上記のように、実際例ではやや満足度が低いようです。

ミニウェル・レディについて

image
MiniwellReady外観

EDoF(焦点深度拡張型レンズ)の先駆けとなったレンズで、アラガン社のsymphonyがでるまではEDoFレンズの代表でした。その後の一連のEDoFの流行の発端を作ったレンズで、現在でも、一部手術者に絶大な人気があります。

それは「ハロー、グレア、単眼複視など、多焦点 IOL で一 番問題とされた問題点を大部分取り除くことに成功している」という大きな利点があるためです[1]

ただし、

  1. やや近方視力が弱い。
  2. 日本国内で認可されていないために、手術代、診察代がすべて自費となり高価となる。

という問題点があります。

保険適用、選定医療を用いるなら、似た性格のSymphony、ActiveFocusを用いることが多いです[2]

なお、当院では、海外で実際に使用されている先進的な多焦点眼内レンズを取り寄せ、レンズを選択できる体制を整えております。


[1]静的固定レンズが多焦点性,焦点深度を拡張させるための手法としては,①回折格子,②屈折加入,③小開口,④球面収差,⑤コマ収差の 5 つの手法に限られています。①,②はすでに多焦点 IOL として用いられており、⑤は像質が不良であることより,実質的には①から④の手法が現実的です。その④の球面収差を利用した機構をもちいたものが MiniWell Ready です。光学的デザインにより焦点深度を伸ばすことを可能にし,連続的な焦点を実現しています。近方加入度数は 3.0D です。

[2]Symphonyはエシュレット回折型のEDoF、ActiveFocusは狭義のEDoFではありませんが、低加入度数の多焦点IOLはEDoFと似た臨床結果 が得られます。IOL&RS誌 Vol. 33 No.1 2019 p.38

多焦点レンズと選定医療

日本で承認された多焦点レンズの手術は「選定医療」扱いとなっています。

「選定医療」とは、「追加費用を負担することで保険適用外の治療を、保険適用の治療と併せて受けることができる医療サービスの一種」「病院の差額ベッド代とおなじで本来保険給付される標準的医療に対する付加価値についての差額を自費として支払う制度」となります[1]

多焦点レンズのうち、日本国内「選定医療」の対象として認可されているのはアルコン社とアラガン社の眼内レンズのみです。

しかし、ヨーロッパでは、他の先進国に比較して眼内レンズ認可基準が緩いことから、新機軸の多焦点レンズがいろいろ発売されています。(眼内レンズメーカーは、まずヨーロッパで新製品を発表するほどです)

次回はそういった先進機能をもつ多焦点眼内レンズについてご紹介します。

保険診療、選定医療、自由診療のイメージ図

[1]「選定医療とは」厚生労働省 (mhlw.go.jp)


2023/7/31追記

FineVision社のFineVisionHPも選定医療に追加指定されました。

「iPS細胞由来RPE細胞移植」を聴講しました。

コロナの影響で、オンラインばかりだった学会ですが、久しぶりにリアル聴講が可能な「2大学合同眼科カンファレス@県医師会」が開かれたので参加してきました。

その中で「網膜色素上皮(RPE)不全症を対象としたiPS細胞由来RPE細胞移植の臨床研究計画」をトピックとして取り上げます。

神戸アイセンター(旧神戸中央市民病院眼科)は、加齢黄斑変性症滲出型に対してiPS細胞移植を行って安全性と有効性を確認してきました[1]

「この知見を活かして、萎縮型の黄斑変性疾患にもiPS細胞移植を行う」治験を開始するということです[2][3]

萎縮型黄斑変性疾患の対象病変としては、「RPE萎縮を伴う加齢黄斑変性、クリスタリン網膜層、網膜色素変性症の追円疾患、RPE関連遺伝子異常を伴う網膜色素変性」などが挙げられていました。

僕が重要だと思ったのは、萎縮型加齢黄斑変性症、つまり、かつて活動性があった黄斑変性が「枯れて」RPE萎縮を残して視力喪失をきたした疾患を対象にするということです。

滲出型加齢性黄斑変性は、硝子体注射(IVA,IVR)が標準治療としてほぼ確立しているのに対して、萎縮型黄斑変性症については、ほぼなすすべがない状態です。

従って、もし萎縮型加齢黄斑変性に対して効果が実証できれば、滲出型加齢黄斑変性よりもはるかに大きなインパクトがあると思います。

治験の参加要件は「視力0.3以下、対眼視力は問わない」ですから、対象者の範囲はかなり非常に広いことになる。

開業医にもエントリー細目の通知があるということでした。50名枠ですが、当院でも萎縮型の患者さんは多いので、条件が整い次第、神戸アイセンターの「変性外来」に対象患者さんをご紹介する予定。。

【2020/12/20追記】

正確なエントリー基準を問い合わせたところ、以下のようでした。

・臨床的にRPE不全症に該当する網膜変性疾患と診断されている。
・年齢20歳以上の男女である。蛍光眼底造影においてwindow defectを認める。
・矯正視力0.3以下、あるいは視野はゴールドマン動的量的視野(指標:V-4)で測定し視野20度以内、あるいはエスターマン静的量的視野で70点以下。

今回の臨床研究では、移植細胞とHLAが一致しない患者の組み入れを踏まえ免疫抑制剤投与を予定しております。そのため現時点では対象患の年齢の上限は設けておりませんがおおむね65歳ぐらいまでの患者を想定いたしております。

[1]加齢黄斑変性に対する自己iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植―安全性検証のための臨床研究結果を論文発表― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)

[2]神戸市:「網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植に関する臨床研究」について (kobe.lg.jp)

[3]効果判定の主要指標は、FAGのwindow Defectの縮小率

白内障多焦点レンズの種類

この数年で、長足の進歩を遂げた「多焦点レンズ」について

名称 レンティスコンフォート アイハンス シンフォニー      シナジー ヴィヴィティ パンオプティクス
光学部デザイン 分節状屈折型(2焦点) 高次非球面 エシェレット回折型(2焦点) エシェレット回折型(2焦点)+回折型(2焦点) 波面制御型 回折型(3焦点)
特徴 2 つの単焦点を組み合わせた独自の扇型デザイン。+1.5D のマ イル ドな加入度数により遠方・中間視力の獲得が期待される。近方は近用眼鏡が必要になる。 単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズ。近方では視力が低下するため、老眼鏡は基本的に必要となる。加入度数は+0.5D エシェレット回折により、広い焦点深度を持ち遠方から近方まで自然な見え方をする。(EDoFレンズ:Extended Depth of Focus:焦点深度拡張型レンズと呼ばれる)。加入度数は約+1.5D相当。 EDoF型に、2焦点回折型を取り入れたモデル。連続焦点型と呼ばれる。PanOptixよりも近方を重視している。加入度数は公表なし。 波面制御テクノロジーによる焦点深度拡張型レンズと呼ばれる。加入度数は不明。 実生活での作業に適した遠方・中間・近方にピントが合うように設計されている。2焦点眼内レンズに比べて眼鏡の依存度が低減。加入度数は、+2.17D +3.25D
焦点 広い焦点:遠から中距離(∞~70cm) 加入度数は+0.5Dだが脳アダプテーションにより70cmまで見える。 広い焦点:遠から中間(∞~50cm) 3焦点:遠方 (5m以上)、中間(60 cm ) 、近方(35cm) 広い焦点:遠から中間(∞~50cm) 3焦点:遠方 (5m以上)、中間(60 cm ) 、近方(40cm)
光エネルギー配分 遠方(55%) 近方(40%) 遠方(ほぼ100%) EDofなのでdataなし EDofを含むのでdataなし EDofなのでdataなし 遠方44%中間22%近方22%
光エネルギーロス 5% ほぼ0% 8% 遠方8%、近方18% ほぼ0% 12%
ハロー・グレア(リビング)
ハロー・グレア(買物)
ハロー・グレア(夜間運転)
生産 ドイツ(オキュレンティス社) アメリカ(J&J社) アメリカ(J&J社) アメリカ(J&J社) アメリカ(アルコン社) アメリカ(アルコン社)
レンズ代金(乱視なし) 全額保険適応 全額保険適応 片眼 190,000 円 片眼 270,000 円 片眼 270,000 円 片眼 270,000 円
レンズ代金(乱視あり) 全額保険適応 全額保険適応 片眼 240,000 円 片眼 330,000 円 未対応 片眼 330,000 円
ハローグレアの程度 極小
一言 運転される方や、多少見え方の質が落ちても保険診療内でなるべく広い範囲を見たい方におすすめ。 ほぼ単焦点レンズで、しかもある程度中間距離がみえる。手術適応の幅が広い。 多焦点眼内レンズの中では見え方の質が良い 夜間車運転が少なく、近方を重視する人におすすめ。 遠方がくっきり見え、夜間運転にも適する。近方には眼鏡が必要かも。 最新型で全距離対応だが、近方距離が40cmでやや遠い。

【結論】

多焦点レンズを選ぶ場合、車運転するならPanOptix、近方作業重視ならSynergy。ハログレ―最小化を希望するならVivity.

<2021/12/5追記>

保険適用、夜間運転ならアイハンス一択とします。現時点で究極のプレミアムレンズ。

<2022/6/26追記>

自費診療ならミニウェルフュージョンシステムを推します。

<2020/12/28追記>

見え方のシミュレーションは、 比べてわかるレンズの違い がわかりやすいと思う。

<2022/11/19追記>
HOYAから、アイハンスと同思想のレンズが+1.0加入で発売される予定とのこと。HOYAはPanOptix対抗品もだすらしい。

<2023/4/4追記>
AMO談「SynergyはPanOptixよりも近方がみえる(35cm vs 40cm)。そのため眼鏡不要率が90% vs 70%である。一方、その代償としてハログレスターバーストは多い。」したがって、都会は近方作業が多いためSynergy普及率が高い。一方、田舎は車運転が多いためPanOptix普及率が高い。
一理あるかも。

<2023/7/25追記>
ヴィヴィティの情報、画像を追加記載しました。

<2023/7/31追記>
眼内レンズの選択表をつくりました。

眼内レンズの種類

単焦点レンズ乱視用レンズモノビジョン多焦点レンズ
特徴もっとも一般的に使
われている。
1つの距離にピントを
合わせる。
単焦点眼内レ
ンズに乱視度
数が含まれて
いる。
わざと左右の度を変え
片方は正視、もう片方
は近視にして、遠くも
近くも見る方法。
光の性質(屈折や
回折)を利用して
遠くと近くに焦点
が合うように設計
されている。
長所保険適応。
焦点を合わせた距離
が、はっきり見える。
夜間の光の眩しさや
にじみが出ない。
眼鏡なしで見
える。
保険適応。
乱視を矯正す
ることによって
術後の裸眼視
力をよくするこ
とができる。
片方の目で遠くに、も
う片方の目で近くに焦
点を合わせることによ
り眼鏡なしで生活でき
る可能性がある。
遠くも近くもある程
度、眼鏡なしで見
える。
短所遠くを見えやす く合
わせると老眼鏡が、
手元が見えるように
合わせると遠く用の
眼鏡が必要。
術後に目の中
で レンズが動
い た 場 合 は 、
再度位置を調
節する手術が
必要になる場
合がある。
完全に乱視を
矯正できるわ
けではない。
立体的にものを見る力
に多少問題がでる。
度数の誤差が生じる場
合がある。
脳が適応できず左右
の目の切り替えができ
ない可能性がある。
保険適応外のた
め高額。
暗い場所で光が
眩しく感じたり、に
じんで見える。
薄暗い場所で文
字が見え難い。
慣れ る まで時間
がかかる。
価格保険適応(3割負担
片目48000円程度)
保険適応(3割
負担片目480
00円程度)
保険適応(3割負担片
目48000円程度)
自費負担
(片目約24~33万円)

白内障手術の基本的な手技は、ほぼ固定している。すなわち、「無縫合,小切開、超音波Chop&devide&conquer吸引、折り畳みレンズ挿入」という手術テクニックそのものは、この20年ほど前から大略変わっていない。

しかし、眼内に挿入するレンズはまさに日進月歩である。

上記表は、当院で最初に患者さんに説明するときに用いているものだけど、最近は多焦点乱視レンズを選択する人が増えてきてる。

やはり、若いころから遠近両用メガネ、遠近両用コンタクトをしている人(特に高度近視の方)が白内障手術をするときには、多焦点レンズを希望することが多いようです。

次回は、多焦点レンズの進化と選択について書きます。

リモートで臨床眼科学会を聴講

【演題

低加入度数分節型眼内レンズLentis comfort

vs

三焦点眼内レンズPanOptixの臨床成績比較 @ 広島大学

結論】

「遠視力では差がなく、中近視力はPanOptixのほうがよかった」

感想】

Lentis comfortは保険適用で、PanOptixは自費(40万円)であるから、経済原理からして違いが出るよな。

【利益相反公表基準:該当】無