赤色光による近視治療

短波長のバイオレットライトが近視を抑制するのは有名だが、赤色光も効果があるという発表(Ophthalmology誌)であったので、紹介します。

Participants: Two hundred sixty-four eligible children 8 to 13 years of age with myopia of cycloplegic spherical equivalent refraction (SER) of -1.00 to -5.00 diopters (D), astigmatism of 2.50 D or less, anisometropia of 1.50 D or less, and best-corrected visual acuity (BCVA) of 0.0 logarithm of the minimum angle of resolution or more were enrolled in July and August 2019. Follow-up was completed in September 2020.
Methods: Children were assigned randomly to the intervention group (RLRL treatment plus single-vision spectacle [SVS]) and the control group (SVS). The RLRL treatment was provided by a desktop light therapy device that emits red light of 650-nm wavelength at an illuminance level of approximately 1600 lux and a power of 0.29 mW for a 4-mm pupil (class I classification) and was administered at home under supervision of parents for 3 minutes per session, twice daily with a minimum interval of 4 hours, 5 days per week.

8歳〜13歳の近視264例で
「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」
   vs
「眼鏡装用のみ」
を比較した。

その結果、

Results: Among 264 randomized participants, 246 children (93.2%) were included in the analysis (117 in the RLRL group and 129 in the SVS group). Adjusted 12-month axial elongation and SER progression were 0.13 mm (95% confidence interval [CI], 0.09-0.17mm) and -0.20 D (95% CI, -0.29 to -0.11D) for RLRL treatment and 0.38 mm (95% CI, 0.34-0.42 mm) and -0.79 D (95% CI, -0.88 to -0.69 D) for SVS treatment. The differences in axial elongation and SER progression were 0.26 mm (95% CI, 0.20-0.31 mm) and -0.59D (95% CI, -0.72 to -0.46 D) between the RLRL and SVS groups. No severe adverse events (sudden vision loss ≥2 lines or scotoma), functional visual loss indicated by BCVA, or structural damage seen on OCT scans were observed.

Conclusions: Repeated low-level red-light therapy is a promising alternative treatment for myopia control in children with good user acceptability and no documented functional or structural damage.

1年後

「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」は眼軸長0.13mm伸長
   vs
「眼鏡装用のみ」は、眼軸長0.38mm伸長

「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」は-0.20D進行
   vs
「眼鏡装用のみ」は、-0.79D進行

これは、坪田先生のバイオレットライト論文(cf.Table S2)よりも効果がある(ようにみえる)。650nmの赤色光ランプは簡単に製造でき、近視治療の朗報(かもしれない)。

↑で、奥歯にものを挟んでいる理由は

  • 論文にしては、結果の評価が甘い。結果の統計処理が記されていない。
  • 「安全性が確認された」がやけに強調されているあたり、以前紹介した鍼治療論文と近似している。

つまり、悠久の国由来の論文は、ひとしなみには評価しがたいなぁ~みたいな。。
全き個人の感想であります。

近視性後天性内斜視について

2022/2/19第19回近畿弱視斜視アフタヌーンセミナーで京都府立医大の稗田 牧先生の講演を聞きました。

定義は

  1. 潜在性発症
  2. 遠方内斜位斜視
  3. 若年者
  4. 近視
  5. 長期の近業、近視の低矯正

ということです。

近視が進行することにより、眼軸長が伸び、外直筋や斜筋の付着部が後方にずれることによって、後転手術と同じよう効果が発生し、内斜視となるとのことでした。

そのほか、

近見作業時の距離が短く(20cmくらい)、遠方を明視する機会がすくない生活習慣で発生する。

2000年代には少なかったが、10代でのスマホ所有率が50%をこした2013年ごろから急激に増えた。

-6Dくらいの近視でも発生する。

20△を超すと、プリズム眼鏡か手術治療を選択する。

スマホ急性内斜視と類縁疾患な印象だが、スマホ急性内斜視と違ってゆっくり進行すること、調節痙攣というよりは眼軸長の延伸による器質的変化が生じている点から、異なるentityなのか?と感じた。


今までの教科書的知識では、内斜視といえば乳児内斜視と(遠視由来の)調節性内斜視が2大要因だったが、今後は、近視によるスマホ急性内斜視と近視性後天性内斜視も考慮する必要がある。特にAYA世代

2022年の当院の展望(近視治療編)

当院はすでに、「アトロピン点眼オルソケラトロジー2大メーカー取り扱い、EDoF型コンタクトレンズ採用」と他クリニック以上のオプションを提示しております。

当院の近視治療オプション

以前は、アトロピン点眼かオルソケラトロジーの2択パターンが殆どだったが、EDoF型コンタクトレンズを採用して以来、「夜間装用は嫌だ」「どうしてもオルソレンズが合わない」「自費診療ではなく、保険診療でやりたい」という患者さんにも対応できるようになった

また、近年、アトロピン点眼とオルソケラトロジーの併用が抑止効果を高める[1][2]という論文がでてきている。今までは、併用療法は効果があるだろうがエビデンスが希薄だったが、かなりの自信をもって併用療法をお勧めることができるようになった。

選択肢が増えた結果、当院としてもそれらの呈示や組み合わせに工夫を凝らし、患者さんにベストな提示をしていきたいと考えている次第。


1.Efficacy of combined orthokeratology and 0.01% atropine solution for slowing axial elongation in children with myopia- a 2-year randomize trial

2.特集:近視 オルソケラトロジーと低濃度アトロピン点眼液の併用による近視進行予防

近視の鍼灸治療について

鍼灸により、近視を治療する?!という話を聞いたので少し調べてみた。

Acupuncture for adolescents with mild-to-moderate myopia: study protocol for a randomized controlled trial (nih.gov)

によると、

中国では近視治療に鍼が広く使われている。

しかし、中国以外では疑問視されているので、効果と安全性を調査した。

Cuanzhu 攅竹
Tongziliao 瞳子髎
Sibai 四白
Muchuang 目窗
Hegu 合谷

という鍼点のようである。

「ランダム化した前向きコート調査で、屈折度、眼軸長、毛様体の厚さ等々を調べる」とあるが、結果は記載されておらずトライアル進行中みたいな書き具合である。考察において、「安全性と有効性が証明されるであろう」とあり、微妙なペーパーという印象。


Acupuncture for slowing the progression of myopia in children and adolescents – PubMed (nih.gov)

も読んだが、

実際に臨床の場で使うには、更なるランダム化比較試験が必要である。

と、当の中国人が書いている。


私の結論

鍼灸で、第三者の統計検定に耐えうるレベルでの近視治療はできない、、ように思われる。

クボタメガネについての感想文

患者さんから「クボタメガネについて知っていますか?」と問われたのだが、不勉強より識らず、調査してみた。⇦貴重な情報ありがとうございました。

Googleると、窪田製薬の“近視矯正メガネ”、2021年中に台湾でまず販売へ 価格は50万円以下にが上がってくるのでさっそく読む。

「通常眼軸長は年齢とともに伸びる、もしくは成長が止まるというものであり、人工的な光により眼軸長が対象眼と比較して短くなるということは、世界でも前例がありません」

「人工的な光により眼軸長が対象眼と比較して短くなるということは、世界でも前例がありません」という文言の意味が
①「眼軸長の進展具合がコントロール眼よりも少ない」という意味なのか
②「被験者の眼軸長が実際に短くなった」という意味なのか

ほぼ①のような気がするけれども、②と読めなくもない気もする(1)


そこで、窪田製薬ホールディングスにといわせたところ、このペーパーをいただいた。

超々要約すると

AR技術を使ってDISMと同じ原理の眼鏡を作成した。

こんな感じの眼鏡をかけると、

被検者の目には上記のように映るようである。

つまり、上記の①②のどちらかというと、①の意味だと分かる。

文中にもあるように、眼球の成長に伴って、至的な刺激をプログラマブルであるという点は、条件が固定されているDISM型コンタクトに対する優位点であろう。

したがって、50万円以下という価格が見合うかどうかは、個々人の現況にたいして「至的な刺激をプログラマブル」し、アップロードできるようになるかどうかにかかってくると感じた。


1:窪田製薬の英文プレスリリースにも、「axial length decreases」とあるが、「compared to the control eye」なので、表現がややミスリーディングな気はする。

Smart glasses made in Japan could slow down or even reverse myopia」という紹介文をよめば、「眼軸長が短縮するかもしれない」と期待するのが普通であろう。

いずれにせよ、やや広告的な表現が多いと感じる次第なので、アカデミックなペーパーを出していただき、①的な意味においてDISM型コンタクトとの比較を論じるべきと思う。

コントラスト感度を落とした眼鏡で近視を抑制する。

眼軸長伸長を抑制する方法として、低濃度アトロピン点眼と、オルソケラトロジーを当院では採用している。「DIMSレンズ(デフォーカス組み込みレンズ)の実用化が待たれる」と以前に書いた

ところが、全く新しい発想の眼鏡が日本の眼科2021年9月号に掲載されていたので、紹介しする。

神経学者Neitzは、健常者においても網膜における強いコントラスト信号が眼軸長過伸展のトリガーとなっており、逆にコントラストを低減させる眼鏡を装用すれば近視進行を抑制できると考えた(コントラスト理論)。

しかし、現時点でのエビデンスは極めて限られている。レーザーホログラフィー技術を用いて中央部のクリアゾーンを除き、主にコントラストのみを低下させる眼鏡レンズが作成され2年間の大規模RCTが進行中である(Cypresst rial)。

中間分析では、屈折度数と眼軸長における抑制率は,それぞれ平均74%と59%であった。

元論文によると、文中のCypress Trial中は、2022/1/31まで実施予定であり、上記の中間分析とは開始12か月後の中間結果とのことである。

This alternative hypothesis, that high retinal contrast signals the eye to grow, predicted that reducing contrast will slow axial growth and prevent myopia progression. A pilot study to test this hypothesis was performed in children with rapidly progressing myopia. The children wore spectacles made to their prescription in which one lens was a standard of care corrective lens, while the contralateral lens incorporated optical elements that modestly reduced contrast. Remarkably, over the three-month trial period, axial growth was drastically reduced in the treated eyes compared to controls. When the lenses were then switched between eyes (i.e., contralateral crossover), the formerly treated eye resumed its growth, and former control eyes virtually stopped growing.

パイロットスタディーで、3か月間「通常レンズ」と「低コントラストレンズ」を左右に装着した眼鏡を使用させたところ、低コントラストレンズのほうが著しく眼軸伸長が抑えられたとある。


SightGlassという会社が眼鏡を作成しているようなので、「販売しているんですか?」とメールを出しておきました。返事が来たら掲載します。

ギガっこ デジたん!

日本眼科医会の啓発コンテンツです。

本会では、文部科学省によるGIGAスクール構想にあわせ、1人1台デジタル端末を利用する子どもたちのために、目の健康啓発マンガ 『ギガっこ デジたん!』のポスターとリーフレットを企画制作しました。

作画がいい。誰が書いてるんだろう。

↑のyutube動画の声優さんもいい声だ。内容は、もちろんPolitically and Medically Correct

 

しかし、「ギガっこデジたん!」って命名は、、どうなんだろう。。

親子で学ぶ近視サイト

親子で学ぶ近視サイトは、子供にも理解できるような工夫がされていて、しかも、学術的に矛盾がないようにかかれている。

このなかで、しりょくけんさ は、視力表をA4紙に印刷して自宅で視力検査ができるので、お勧めである。

近視の抑制・治療 の頁に書かれてあることは、以前このブログで紹介したことと同一。

「多焦点ソフトコンタクトレンズによる予防」はよく言及されていて、すぐにでも使えそうに書いてあるが、実際にはハードルが高い。それは多焦点レンズは、日本国内では正式認可されておらず、個人輸入しなくてはならないからである。その場合、レンズの度数が合わなかったら、再々輸入、再々々輸入となって不便なこと、この上ない。

一日も早く、DIMSレンズが正式認可さされることを願う。その場合、アトロピン点眼、オルソケラトロジー以外に大きな治療の柱ができるので、近視患者さんへのメリットは大きいと思う。

水谷隼選手の羞明について

男女混合ダブルスの準々決勝で、歯を食いしばって「ぅあ’~」と叫びつつスマッシュを決めてる姿には感動する。
僕は軟式テニスしてたので、決まった時に「よっしゃー」とか、「うちこんでけ~!」というのはよく分かる。卓球ダブルスは軟テと通じるところがあると感じる次第だ。

閑話休題

「水谷選手がLEDがまぶしい」「眩しさを軽減するサングラスをかけている」と仄聞する。これは、「LASIK後の高次元収差発生によるハロー現象」と眼科医なら考えるだろう。「LASIK後の検診では全く問題ない」と言われたというが、LASIK後数年で視力が出ていても、「何か見えにくい」「かすむ」という人は実際よくある。

極々軽度のサハラ砂漠症候群が発生してるのだと思う。卓球選手は高度の動体視力が必要とされるようであるから、臨床的に「問題なし」であっても、卓球的には「大いに問題あり」となるんだろう。

タイガーウッズがLASIKを受けたということでゴルフ選手間でも流行したが、最近は以前ほど聞かなくなってきていると感じる。水谷選手もオルソケラトロジーにしておけばよかったのでは?

ブルーライトカット眼鏡について

「ブルーライトをカットする眼鏡は目に良いですか?」とよく言われるが、はっきりとしたエビデンスはないようです。

日本眼科医会の見解は以下の通りです。

  1. デジタル端末の液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光よりも少なく[1]、網膜に障害を生じることはないレベルであり、いたずらにブルーライトを恐れる必要はないと報告されています[2]
  2. 小児にとって太陽光は、心身の発育に好影響を与えるものです。なかでも十分な太陽光を浴びない場合、小児の近視進行のリスクが高まります[3]。ブルーライトカット眼鏡の装用は、ブルーライトの曝露自体よりも有害である可能性が否定できません[4]
  3. 最新の米国一流科学誌に掲載されたランダム化比較試験では、ブルーライトカット眼鏡には眼精疲労を軽減する効果が全くないと報告されています[5]
  4. 体内時計を考慮した場合、就寝前ならともかく、日中にブルーライトカット眼鏡をあえて装用する有用性は根拠に欠けます。産業衛生分野では、日中の仕事は窓ぎわの明るい環境下で行うことが奨められています[6]

眼鏡やPC業界のトークに乗せられないようにする必要がありますかねー。


[1].綾木雅彦、他.住宅照明中のブルーライトが体内時計と睡眠覚醒に与える影響.住総研研究論文集 2016;42:85-95https://www.jstage.jst.go.jp/article/jusokenronbun/42/0/42_1408/_pdf/-char/ja
[2].Duarte IA, et al. Ultraviolet radiation emitted by lamps, TVs, tablets and computers: are there risks for the population? An Bras Dermatol 2015;90:595–597
[3].Eppenberger LS, et al. The role of time exposed to outdoor light for myopia prevalence and progression: A literature review. Clin Ophthalmol 2020;14:1875-1890
[4].American Academy of Ophthalmology. Should You Be Worried About Blue Light?https://www.aao.org/eye-health/tips-prevention/should-you-be-worried-about-blue-light (参照2021-04-12).
[5].Singh S, et al. Do blue-blocking lenses reduce eye strain from extended screen time? A doublemasked, randomized controlled trial. Am J Ophthalmol, doi: 10.1016/j.ajo.2021.02.010. Online ahead of printhttps://www.ajo.com/article/S0002-9394(21)00072-6/abstract
[6].Lowden A, et al. Working Time Society consensus statements: Evidence based interventions using light to improve circadian adaptation to working hours. Ind Health 2019;57:213–227https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6449639