AMOテクニスのシナジー眼内レンズについて

AMOテクニスのシナジーレンズは連続焦点型と称されている。MRさんの話では、EDoF型(=焦点深化型)と差別化する目的で、商業的につけられた名前ということである。英文論文でも、continuous range of vision presbyopia correcting IOL と紹介されている[1]

実は、この連続焦点型の実態は従来の2焦点型レンズと、EDoF型レンズを合わせたものであり、「近方約35cmから遠方まで落ち込みなく連続的に見えることを特徴としています」ということである。

当然、3焦点型のPanOptixとの比較が気にあるところであるが、AMOの資料によると、下記のとおりである。

上記のうち、3焦点IOL BがPanOptixのようである。(ちなみにIOL AはFineVision、IOL CはAT Lisa)AMOが出してる資料だが、「大きな谷のないデフォーカスカーブ」が、描かれている。

ただし、以前述べたように、2焦点型とEDoF型の両方の欠点、すなわちスターバーストとグレアが出現するようではある。

MRさんが語るところによると、「関東ではPanOptixを上回っている。一方、関西圏ではいまだにPanOptixの方が優勢」らしい。☞詳説

当院でもほとんどがPanOptixだから首肯できる。

次回は、話題沸騰(?)のアイハンスについて述べる予定。


なお、AMO会社はいまやジョンソン&ジョンソン配下であるとこのたびわかった。医療業界は、合従連衡が激しいなと感じる次第である。

1.Clinical Outcomes With a New Continuous Range of Vision Presbyopia-Correcting Intraocular Lens

「第125回日本眼科学会総会」に出席しました。

●LS-313MF15(Lentis)とW-60R(単焦点)の臨床成績 萱沢朋泰先生 近畿大学
Lentisは後方移動し術後3Mで+0.28D程度遠視化しやすい。単焦点のW-60Rよりも優位に裸眼視力はよい。
●ZMB00(テクニス回析型)とtecnis symphonyの比較 白神智貴先生 ツカザキ病院
ZMB00(テクニス回析型) vs tecnis symphony→ZMB00(テクニス回析型)は近見がつよい。tecnis symphonyは遠見がつよい。
●ZMB00(テクニス回析型)とLentis Comfortの比較 田邊裕貴先生 ツカザキ病院
ZMB00(テクニス回析型)がほとんどすべての点で上回った。Lentisがグレアが少なくMTFでは上回った。
●Lentis ComfortとPanOptixの比較 赤田真啓先生 ツカザキ病院
PanOpixがほとんどすべての点で上回った。夜の運転はLentisがよかった。social function(=普段家で友人と過ごす時間が長いですか?)もlentisがよかった。メガネの装用率を低めたい人はPanOptix。夜の運転はLentis
●ZMB00(テクニス回析型)とPanOptixの比較 河村純哉先生 ツカザキ病院
PanOptixがほとんどすべての点で上回った。近見視力のみZMB00(テクニス回析型)が上回った。

ZMB00(テクニス回析型)をAlconアクティブフォーカスと読み替えると、演者や座長の導いた結論は、この記事に書いた結論とほぼほぼ同じであった。

つまり、多焦点レンズを選ぶならば現状ではPanOptix一択。ただし、夜の運転をするならハローが少ないLentisということ。

IC-8について

今までに述べたレンズと全く違う原理で作られた眼内レンズです。

ピンホール効果により、焦点深度深化を図るというものです。

IC-8

ピンホールカメラと同様に絞りをきかせることによって、焦点深度を獲得します。

実際、MTF曲線を見ると、非常に良好な成績ですね。

MTF

ただし、

1.患者満足度が必ずしも高いわけではない。

2.切開創が3.5mmと大きい。マスクが曲げ応力に弱いため,過度に曲げてしまうと損傷してしまうため。

アイデアとしては非常によいですね。

「目がよくなるメガネ」として市販されているピンホール眼鏡をそのままIOLに使うという心意気はよい。

ただ、日本国内では臨床例が少なく、上記のように、実際例ではやや満足度が低いようです。

ミニウェル・レディについて

image
MiniwellReady外観

EDoF(焦点深度拡張型レンズ)の先駆けとなったレンズで、アラガン社のsymphonyがでるまではEDoFレンズの代表でした。その後の一連のEDoFの流行の発端を作ったレンズで、現在でも、一部手術者に絶大な人気があります。

それは「ハロー、グレア、単眼複視など、多焦点 IOL で一 番問題とされた問題点を大部分取り除くことに成功している」という大きな利点があるためです[1]

ただし、

  1. やや近方視力が弱い。
  2. 日本国内で認可されていないために、手術代、診察代がすべて自費となり高価となる。

という問題点があります。

保険適用、選定医療を用いるなら、似た性格のSymphony、ActiveFocusを用いることが多いです[2]

なお、当院では、海外で実際に使用されている先進的な多焦点眼内レンズを取り寄せ、レンズを選択できる体制を整えております。


[1]静的固定レンズが多焦点性,焦点深度を拡張させるための手法としては,①回折格子,②屈折加入,③小開口,④球面収差,⑤コマ収差の 5 つの手法に限られています。①,②はすでに多焦点 IOL として用いられており、⑤は像質が不良であることより,実質的には①から④の手法が現実的です。その④の球面収差を利用した機構をもちいたものが MiniWell Ready です。光学的デザインにより焦点深度を伸ばすことを可能にし,連続的な焦点を実現しています。近方加入度数は 3.0D です。

[2]Symphonyはエシュレット回折型のEDoF、ActiveFocusは狭義のEDoFではありませんが、低加入度数の多焦点IOLはEDoFと似た臨床結果 が得られます。IOL&RS誌 Vol. 33 No.1 2019 p.38

多焦点レンズと選定医療

日本で承認された多焦点レンズの手術は「選定医療」扱いとなっています。

「選定医療」とは、「追加費用を負担することで保険適用外の治療を、保険適用の治療と併せて受けることができる医療サービスの一種」「病院の差額ベッド代とおなじで本来保険給付される標準的医療に対する付加価値についての差額を自費として支払う制度」となります[1]

多焦点レンズのうち、日本国内「選定医療」の対象として認可されているのはアルコン社とアラガン社の眼内レンズのみです。

しかし、ヨーロッパでは、他の先進国に比較して眼内レンズ認可基準が緩いことから、新機軸の多焦点レンズがいろいろ発売されています。(眼内レンズメーカーは、まずヨーロッパで新製品を発表するほどです)

次回はそういった先進機能をもつ多焦点眼内レンズについてご紹介します。

保険診療、選定医療、自由診療のイメージ図

[1]「選定医療とは」厚生労働省 (mhlw.go.jp)


2023/7/31追記

FineVision社のFineVisionHPも選定医療に追加指定されました。

白内障多焦点レンズの種類

この数年で、長足の進歩を遂げた「多焦点レンズ」について

名称 レンティスコンフォート アイハンス シンフォニー      シナジー ヴィヴィティ パンオプティクス
光学部デザイン 分節状屈折型(2焦点) 高次非球面 エシェレット回折型(2焦点) エシェレット回折型(2焦点)+回折型(2焦点) 波面制御型 回折型(3焦点)
特徴 2 つの単焦点を組み合わせた独自の扇型デザイン。+1.5D のマ イル ドな加入度数により遠方・中間視力の獲得が期待される。近方は近用眼鏡が必要になる。 単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズ。近方では視力が低下するため、老眼鏡は基本的に必要となる。加入度数は+0.5D エシェレット回折により、広い焦点深度を持ち遠方から近方まで自然な見え方をする。(EDoFレンズ:Extended Depth of Focus:焦点深度拡張型レンズと呼ばれる)。加入度数は約+1.5D相当。 EDoF型に、2焦点回折型を取り入れたモデル。連続焦点型と呼ばれる。PanOptixよりも近方を重視している。加入度数は公表なし。 波面制御テクノロジーによる焦点深度拡張型レンズと呼ばれる。加入度数は不明。 実生活での作業に適した遠方・中間・近方にピントが合うように設計されている。2焦点眼内レンズに比べて眼鏡の依存度が低減。加入度数は、+2.17D +3.25D
焦点 広い焦点:遠から中距離(∞~70cm) 加入度数は+0.5Dだが脳アダプテーションにより70cmまで見える。 広い焦点:遠から中間(∞~50cm) 3焦点:遠方 (5m以上)、中間(60 cm ) 、近方(35cm) 広い焦点:遠から中間(∞~50cm) 3焦点:遠方 (5m以上)、中間(60 cm ) 、近方(40cm)
光エネルギー配分 遠方(55%) 近方(40%) 遠方(ほぼ100%) EDofなのでdataなし EDofを含むのでdataなし EDofなのでdataなし 遠方44%中間22%近方22%
光エネルギーロス 5% ほぼ0% 8% 遠方8%、近方18% ほぼ0% 12%
ハロー・グレア(リビング)
ハロー・グレア(買物)
ハロー・グレア(夜間運転)
生産 ドイツ(オキュレンティス社) アメリカ(J&J社) アメリカ(J&J社) アメリカ(J&J社) アメリカ(アルコン社) アメリカ(アルコン社)
レンズ代金(乱視なし) 全額保険適応 全額保険適応 片眼 190,000 円 片眼 270,000 円 片眼 270,000 円 片眼 270,000 円
レンズ代金(乱視あり) 全額保険適応 全額保険適応 片眼 240,000 円 片眼 330,000 円 未対応 片眼 330,000 円
ハローグレアの程度 極小
一言 運転される方や、多少見え方の質が落ちても保険診療内でなるべく広い範囲を見たい方におすすめ。 ほぼ単焦点レンズで、しかもある程度中間距離がみえる。手術適応の幅が広い。 多焦点眼内レンズの中では見え方の質が良い 夜間車運転が少なく、近方を重視する人におすすめ。 遠方がくっきり見え、夜間運転にも適する。近方には眼鏡が必要かも。 最新型で全距離対応だが、近方距離が40cmでやや遠い。

【結論】

多焦点レンズを選ぶ場合、車運転するならPanOptix、近方作業重視ならSynergy。ハログレ―最小化を希望するならVivity.

<2021/12/5追記>

保険適用、夜間運転ならアイハンス一択とします。現時点で究極のプレミアムレンズ。

<2022/6/26追記>

自費診療ならミニウェルフュージョンシステムを推します。

<2020/12/28追記>

見え方のシミュレーションは、 比べてわかるレンズの違い がわかりやすいと思う。

<2022/11/19追記>
HOYAから、アイハンスと同思想のレンズが+1.0加入で発売される予定とのこと。HOYAはPanOptix対抗品もだすらしい。

<2023/4/4追記>
AMO談「SynergyはPanOptixよりも近方がみえる(35cm vs 40cm)。そのため眼鏡不要率が90% vs 70%である。一方、その代償としてハログレスターバーストは多い。」したがって、都会は近方作業が多いためSynergy普及率が高い。一方、田舎は車運転が多いためPanOptix普及率が高い。
一理あるかも。

<2023/7/25追記>
ヴィヴィティの情報、画像を追加記載しました。

<2023/7/31追記>
眼内レンズの選択表をつくりました。

眼内レンズの種類

単焦点レンズ乱視用レンズモノビジョン多焦点レンズ
特徴もっとも一般的に使
われている。
1つの距離にピントを
合わせる。
単焦点眼内レ
ンズに乱視度
数が含まれて
いる。
わざと左右の度を変え
片方は正視、もう片方
は近視にして、遠くも
近くも見る方法。
光の性質(屈折や
回折)を利用して
遠くと近くに焦点
が合うように設計
されている。
長所保険適応。
焦点を合わせた距離
が、はっきり見える。
夜間の光の眩しさや
にじみが出ない。
眼鏡なしで見
える。
保険適応。
乱視を矯正す
ることによって
術後の裸眼視
力をよくするこ
とができる。
片方の目で遠くに、も
う片方の目で近くに焦
点を合わせることによ
り眼鏡なしで生活でき
る可能性がある。
遠くも近くもある程
度、眼鏡なしで見
える。
短所遠くを見えやす く合
わせると老眼鏡が、
手元が見えるように
合わせると遠く用の
眼鏡が必要。
術後に目の中
で レンズが動
い た 場 合 は 、
再度位置を調
節する手術が
必要になる場
合がある。
完全に乱視を
矯正できるわ
けではない。
立体的にものを見る力
に多少問題がでる。
度数の誤差が生じる場
合がある。
脳が適応できず左右
の目の切り替えができ
ない可能性がある。
保険適応外のた
め高額。
暗い場所で光が
眩しく感じたり、に
じんで見える。
薄暗い場所で文
字が見え難い。
慣れ る まで時間
がかかる。
価格保険適応(3割負担
片目48000円程度)
保険適応(3割
負担片目480
00円程度)
保険適応(3割負担片
目48000円程度)
自費負担
(片目約24~33万円)

白内障手術の基本的な手技は、ほぼ固定している。すなわち、「無縫合,小切開、超音波Chop&devide&conquer吸引、折り畳みレンズ挿入」という手術テクニックそのものは、この20年ほど前から大略変わっていない。

しかし、眼内に挿入するレンズはまさに日進月歩である。

上記表は、当院で最初に患者さんに説明するときに用いているものだけど、最近は多焦点乱視レンズを選択する人が増えてきてる。

やはり、若いころから遠近両用メガネ、遠近両用コンタクトをしている人(特に高度近視の方)が白内障手術をするときには、多焦点レンズを希望することが多いようです。

次回は、多焦点レンズの進化と選択について書きます。