参天ティアミルの使用経験

参天製薬が開発したティアミルというドライアイ測定装置を数週間使用させていただきました。
 

仕組み

スタッフがiPhoneでフルオ染色の角膜映像を取り込む→クラウドにアップロード→診察室のiPadにダウンロードし患者さんに説明。

大いに評価できる点

  • 綿糸法、シルマーテストなどの静的データと異なり、動画を患者さんに提示することができ説得力が増す。
  • データが積み重なっていけば、治療効果を実感しやすい。

今一歩と感じた点

  • 撮影結果はドクターが手動判定する。「AI判定して、推奨治療を提案する」では??
  • サブスクリクション制である。

TFOD(Tear Film Oriented Diagnosis)、TFOT(Tear Film Oriented Therapy)の重要性を再認識させてくれた点が、最大のポイントかも。

ライカの手術顕微鏡を導入しました。

従来より手術顕微鏡と云えばZeiss一択で、当院でも長きにわたって同社製OPMI MDOを使用してきました。
OPMI MODは名機で、あえて最新機種を使わず頑固にこの機種を使い続けるサージャンも多いときく。

当院のOPMI MODも相変わらず視界は良好なんだが、いかんせんXY軸の動きが鈍くなってきたので、A社、T社、Z社のデモ機を比較してLeica顕微鏡を選定しました。


以下、ライカ社と他社レンズの比較


ZeissとLeicaの見え具合が図抜けていることは間違いない。
Leica顕微鏡は、加えて術者の願望をかなり上手にくみ取っていることがわかる。一方のZeiss社はやや名声に胡坐をかいてる感あり。

私は「周到な準備+最高の装備+不断の研鑽」こそが、結果を産むと信じでいる。
当院ではLeica顕微鏡で引き続き、バリバリ手術続行していく所存ですので、よろしくお願い申し上げます。

新しい近視治療点眼薬(慶応大学とロート製薬の共同研究)

日経新聞に目薬で近視の進行抑制という記事が掲載されました。
アトロピンクロセチンとは異なる機序の新薬を、坪田先生とロート製薬が共同研究しているという内容。

ロート製薬に問い合わせ、下記のScleral PERK and ATF6 as targets of myopic axial elongation of mouse eyesを教えていただきました。


マウス実験で

endoplasmic reticulum(ER) stress(※)↑→ PERK and ATF6系の活性↑→眼軸長↑
 ⇩
4-phenylbutyric acid (4-PBA)投与→endoplasmic reticulum(ER) stress↓→眼軸長↓
 ⇩
4-phenylbutyric acid (4-PBA)は、近視治療に有望である。

と、いうのが2022/10発表の論文骨子である。

 

この度、国内第I相臨床試験(以下、「本試験」)に向けての準備が整いましたので、本試験を開始いたします。

と、いうのが2023/11発表の記事である。

 

坪田先生はベンチャー経営されているだけあって、動きが速いなと感心する。

ただ、violet lightといい、意外と実用化に時間かかる感じでありましょうか。


(※)小胞体の中に、折り畳み不全のタンパク質が蓄積したときに認められる状態のことをendoplasmic reticulum(ER) stressといい、4-phenylbutyric acid (4-PBA)は、この折り畳み不全タンパク質が正しく折りたたむのを手助けするchaperone(介添え人)として働くらしい💦

左は正常眼の強膜線維芽細胞、右は折り畳み不全のタンパク質が蓄積した近視眼の強膜線維芽細胞

受動喫煙で近視が進む

この研究によると、

  • 受動喫煙群では等価球面度数が0.09D、眼軸長が0.05mm伸長していた。
  • 中等度近視と高度近視のオッズ比は、それぞれ1.30、2.64となる。
  • 近視の平均発症年齢が低くなる。

高度近視のオッズ比、高いな。
近視児の両親に「タバコ吸ってませんね?」と確認せねば、、である。

3Dプリンター導入記

3Dプリンタで、院外受付機とか院内備品を作れたら素晴らしいんでは?と考えPrusa MK4を購入しました。

「全て工作」が流儀らしいんだが、ヘナチョコなので完成品を輸入した。。
つもりが、「エンクロージャは自分で組み立ててね😊」と斜め上の製品仕様につき、結局、数日以上を費やしました。


使用方法(ソフトウェア対応)

「製作用のstlデータをthingiverseprintablesからダウンロード and/or 360Fusionで作成 →PrusaSlicerでg-codeに変換→PrusaConnectにアップロードして印刷」
これは、簡単。

目詰まり対処(ハードウェア対応)

印刷開始でいきなり目詰まり😒よくあることらしい。
1.バイク用の0.4mm経の針金をnozzle下方から突っ込むか、太い針金を上から突っ込んでガシガシする。
2.だめなら、ノズルの交換か、nextruderの分解掃除
こっちは、とても面倒。


試作品

上記の3DBenchyなるものを印刷するのが、2Dプリンタのテストプリントに相当するらし。

受付機が印刷できたら、アップします。


参考サイト

3Dプリントが楽しくなる無料モデルデータサイト10選比較! | 3Dエンジン (deluxcombo.com)

学童の近視進行抑制2023

京都府立医大 稗田牧先生のご講演@兵庫県眼科医会特別講演
色々と目新しいことを、聴けました。


高次収差と眼軸長

動物実験では、ぼやけが強い(≒高次収差が強い)ほど眼軸長が延長する。しかし、近視矯正手段であるタオルソケラトロジー、多焦点CL,アトロピン点眼はいずれもぼやけが強くなる手段である。つまり、動物実験と臨床経験が矛盾する。
これについては「中央網膜では高次収差が少なく、周辺網膜では高次収差が多いほうが近視抑制に働くのではないか?」と稗田先生ご自身は想定しているとのことでした。


近視眼の特性

●Lens induced myopia
過矯正眼鏡が近視を進めることは、臨床経験上知られてきた。
今では、これは論文レベルで根拠がある。

●正視眼と近視眼の違い
正視眼のひとにプラスレンズを挿入すると、45分程度で眼軸長が短縮する!ところが、近視眼の人にプラスレンズを入れると眼軸長が延長する。
従って、近視では低矯正眼鏡であっても眼軸長延長の可能性がある。
近視は眼軸長の調節機序が働かず、眼軸長が伸びる一方という疾患なのかもしれない。


アトロピン点眼について

●アトロピン点眼の有効性について
日本人を対象とした研究では、0.01%アトロピンの点眼の有効性が、他国人(≒欧州人、シンガポール人)よりも出にくい。
なぜなのかを研究したところ、日本人は他国人よりも薄暮時の瞳孔径が大きいことが判明した。
すなわち、交感神経が優位気味だとアトロピンが効きにくにいということ。

●アトロピン点眼の濃度依存性
いままでは、アトロピンは濃度依存性にきくとされてきた(LAMP study)
2023年の米国発表では0.01%には効果があったが、0.025%では効果がなかった由。

●アトロピン点眼の近視予防効果
0.05%アトロピンを近視になる前に点眼すると、近視発症予防効果があることが判明した。

緑内障眼に対する多焦点眼内レンズの適応

2023/10/14 北里大学医療衛生部 神谷和孝教授@大阪眼科手術の会です。

前提の与件

日本眼科学会の公式見解:緑内障眼は多焦点レンズ挿入の除外対象

2焦点レンズ時代

かつての2焦点レンズのころはコントラスト感度の低下が著しかった。

3焦点レンズ・EDoFレンズ時代

3焦点レンズ、EDoFレンズと技術進展に伴い、最近ではコントラスト感度の低下はほとんど見られないという報告が増えてきている。

結論

  • 軽症例で、中心閾値低下がみられない。
  • ドライアイ、不正乱視、黄斑疾患がない。
  • 本人が希望

以上の条件が満たされるなら、緑内障眼でも挿入可能か?と風向きが変わりつつある。


追加
アイファガン点眼(交感神経α2作働薬)には縮瞳効果があり、グレハロ軽減に役立つ。

Synergyの目標ターゲット

PanOptixやアイハンスは、やや近視側に振るのが通説になってる。
しかしSynergyはやや遠視側に寄せる。

以下、大内雅之先生 TECNIS発売10周年記念講演から引用。

上図の3焦点はPanOptixでFirstNegative、SynergyはFirstPositiveといってます。

以前のエントリーに掲載した下図Defocus曲線を見れば、SynergyはPanOptixとくらべて±0.5Dでの傾きが非対称である。

ここで紹介した下図でも同様の傾向。

IOL BがPanOptix

結論

  • PanOptixの場合には近見がやや弱いので、FirstNegativeというのは臨床上よろしい。
  • 一方、Synergyは近見が強いし、Far非対称なのでFirstPositiveで運用するのが理にかなっている。

難治性黄斑円孔の治療

第25回兵庫県眼科フォーラム@ポートピアホテルを受講しました。


黄斑円孔は初回閉鎖率が95%に達する。

閉鎖しない5%については、内境界膜を近位網膜からはがしたうえで有形移植するという手法を採用しているということでした。


初回の円孔手術でも、かつてのように内境界膜を剥いて終わるのではなく、内境界膜を残して裏返しにかぶせるとか、↓のような各種組織を詰め物する手法が開発されている。

黄斑円孔は、ほぼ完治するステージに入ったということですね。

ラニビズマブBSからバビースモへのスイッチ

黄斑浮腫症例にラニビズマブBS(=ルセンティスのバイオシミラー)を硝子体注射して、いまいち浮腫がひかんなーという症例で、VEGFに加えてAng-2(Angiopoietin-2)という悪玉因子にもきくバビースモにスイッチしてみましょうと提示する。

薬価はラニビズマブBS79,348円→バビースモ163,894円と倍するので、患者さんも「効きますか!」という反応。

実際に2倍効果があるのかというと、どうなんだろう?


以前、神戸大学の三木 明子先生が質問に応える形で

バビースモを実際に使った手応え、切れ味はどうか?→AMDの未治療についてはバビースモでよい。治療スイッチについては症例不足で不明。

担当者がいうには、三木先生が近く「スイッチ症例では3割から5割奏功する」みたいな論文を発表されるらしい。症例数は20例くらいらしい。

どういう症例がスイッチに適するのか?奏功の判断基準などをぜひ知りたいものである。


2023/10/7追記

上記論文は、Short-Term Outcomes of Faricimab Treatment in Aflibercept-Refractory Eyes with Neovascular Age-Related Macular Degeneration として発表されました。

簡約すると、「55症例のアイリーア無効例で、バビースモにスイッチしたところ、網膜中心厚が有意に減少した」「網膜内液は16.4%で減少、網膜下液は40%で減少」
担当さんがいっていた40%というのは網膜下液のことを言っているようだ。
下図bなら、そこそこ効いてる?という印象ではある。

視力、脈絡膜厚は変化はないが、網膜厚は有意に減少。

2023/10/15追記

当院のラニビスマブBS→バビースモの自験例では、三木先生の発表と同様の印象です。つまり視力が改善するほどではないが、網膜厚が減る症例がかなりの確率で存在する。
患者さんとしては「よくなりましたー!」という感じでもないが、ドクターサイドとしては「明らかに改善!」「やってよかったですね」という状況。