2022年の当院の展望(説明編)

患者さんに分かりやすい説明をするのは、実に難しい。

当院では、医師が概略を説明し、スタッフがタブレット呈示し、会計でその用紙をお渡し、Web上でも存分に御覧じろとというスタイルだ。

試行錯誤と自分自身の体験から、上記がベストだと信じている。

が、己が信じているからと言って、患者さんがすべからく納得できておるかとゆーと、、その一点において、甚だ疑問である。特に、待ち時間が長いというお叱りの聲あり。

じっくり説明すれば時間はかかるし、短時間処理をめざせば説明はおろそかになる。

その隘路を、かく拓くべく、

  • POS入力をSpeech-To-Textエンジンでリアルタイムに行う。
  • スタッフの人員余力、患者さんの待ち時間をリアルタイムで把握して配分する。
  • Web上で公開している説明紙を、各人のLINE上に直接配布する。

辺り、、かな。本年は。

That’s IT!

2022年の当院の展望(手術編)

当院の白内障手術は量を追わず、短時間手術も求めず、じっくり、丁寧、無痛な手術。そして、角膜浮腫が一切なく翌日から翌日からはっきり見える、を目指している。

上記目標については、ほぼ々々達成できている。

加えて、2021年11月からは、眼内レンズにはアイハンスを積極採用しており、遠方視力を保ちつ、かつ、中間視力も獲得できるようにした。しかも、グレアハローは僅少なのである。

そういう意味において、白内障サージャンとして希求できる歓び、患者さんの幸せを最大化しうる年としたい。

中橋知沙 画

「障害年金の診断基準が変更になります」について

?とおもったので、日本年金機構へ問い合わせたところ、「今回はあくまで、障害年金のみの変更で、障害者手帳については変更はありません

微妙にやりにくい。障害者手帳と障害年金は似て非なるというか、障害者手帳∋障害年金のようである[1]

障害者手帳

障害者手帳の制度
障害者手帳の診断基準

障害年金

障害年金の制度
障害年金の診断基準

障害年金の診断基準の変更点

結論

眼の障害で2級または3級の障害年金を受給されている方は、障害等級が上がり、障害年金の金額が増額となる可能性があります。


1.眼の疾患による障害年金について

AIによる診断

「医⽤⼈⼯知能の活⽤ ―AIによる新たな臨床的知⾒の創出―」日本の眼科2021年11月号を読んだ。

教師あり学習から得られる気付きとして、

眼底画像から年齢・性別・⾎圧などを⾼精度で予測するアルゴリズムにおいて拡張期血圧の予測には血管(29%)よりも血管や乳頭以外の部分(97%)に着⽬しているとされ,ここからは例えば,「拡張期血圧の予測には脈絡膜血管の状態が重要かもしれない」などと考察することができるかもしれない。

教師なし学習から得られる気付きとして、

これまでパキコロイド新生血管の定義は定まったものが存在せず,研究者がその都度恣意的に設定してきた。AIを応用することで,加齢黄斑変性にパキコロイド新生血管が混⼊していることやその境界が明確になり,更には,「パキコロイド新生血管にはポリープ状病巣が多いのではないか?」という研究者の予想とは異なり,パキコロイド新生血管と加齢黄斑変性ではポリープ状病巣の頻度に差がないという新たな気付きを得ることができたのである。

この「教師あり学習」と、「教師なし学習」は、必ず出てくる単語だが、おーざっぱにいうと、

  • 教師あり学習≒重回帰分析みたいな外部変数がある統計手法。内部変数の説明貢献度が高いとか低いとかを問う。
  • 教師なし学習≒主成分分析みたいな外部変数なしの統計手法。全体構造をよりよく説明する内在的ベクトルを探す。

な感じではある[1]

説明可能なAI[2]という観点からすると、「教師あり」のほうは理解しやすい。一方、「教師なし」のほうは第一成分や第二成分までくらいしか分からんのでは?

開業医としては、患者さんに説明可能な臨床モデルの研究を望みたい。


1.機械学習をどこよりもわかりやすく解説! 教師ありなし学習・強化学習だけでなく5つのアルゴリズムも完全理解! | AI専門ニュースメディア AINOW

2.説明可能なAI – 日本 | IBM

美容レーザーでドライアイ治療

「美容レーザーのIPL(Intense pulsed light)でドライアイ治療を行う」ときくので、情報を収集してみた。

すると、、

●IPLは、本来は酒皶という皮膚科領域の治療レーザーである[1]。☜酒皶とは、酒飲みの「赤ら鼻」
●2003年ごろから、MGD(Meibomian gland dysfunction=マイボーム腺機能不全)によるドライアイ治療に応用されてきた[2]

ドライアイで実際に多いのは、涙液量不足より脂不足タイプで全体の86%を占める。この脂不足タイプは点眼が効かない。

僕自身、点眼がききにくい症例については「心理的側面も加味すべきだ」と感じ治療してきた。しかし、Rolando Toyos氏らによると「IPL治療によってMGDを改善すれば脂不足タイプのドライアイも快癒する」「マイボーム腺梗塞や、再発性の麦粒腫に対しても効果がある」

作用機序は、以下のものが提唱されている。

つまり、温罨法や蒸しタオル法のように「単に温度を上げているだけではない」と仰られている。


営業担当に「でも、お高いんでしょう?」と訊ねると、白内障手術機械になんなんとする価格!
しかも、この治療が、東京では普及しており、自費診療で一回1万円も頂戴するやに聞き、いやましに驚く[3]

正直「ないわー」という印象で、医療においても二極化が斯くの如く進捗しているのだと実感した、、次第。


1.Treatment of rosacea with intense pulsed light: significant improvement and long-lasting results

2.Intense Pulsed Light Treatment for Dry Eye Disease Due to Meibomian Gland Dysfunction; A 3-Year Retrospective Study

3.2021-11-25-第29回阪神眼形成カンファレンス。八王子友愛眼科の今野公士先生の提示資料。

AMOテクニスのアイハンス眼内レンズについて

日本国内では2021年11月から新発売のレンズである。高次非球面設計により、単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズとされる[1]

デフォーカス曲線は以下の通りである。

黒線は非球面レンズ(従来の単焦点)、灰色が非球面高次レンズ(アイハンス)

「通常は認識しない高度収差のパワーを中間距離に振った」ということのようで、AMOが得意とする焦点深度拡張の亜型ともいえる。グレアやハローも単焦点レンズと同程度である[2]

保険適用できる視覚領域の拡張レンズとしては、レンティスコンフォートが上市されているが、今一人気がない。おそらく、単焦点レンズと比較してのハローやグレアの増加デメリットが嫌われるのであろう。

その点、このアイハンスは名前が示す通り、「単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズ」なので、ほぼ問題ないように思える。さまでは、近見には振っていないため「老眼鏡は基本的に必要となる」が、その点は従来の単焦点レンズでも同じだ。

当院では、近見に特化した合わせ方を希望しない患者さんに対しては、この眼内レンズを推していく所存。実は、仕入れ価格はわりかし高いのだが、保険適用レンズなので患者さんの負担額は単焦点レンズと全く同一である。

そのことによって、より多くの患者さんが、白内障手術後により良い体験を享受してもらえれるのであれば、眼科医冥利に尽きる、と云へる。


1.Visual outcome, optical quality, and patient satisfaction with a new monofocal IOL, enhanced for intermediate vision: preliminary results

2.Clinical evaluation of a new monofocal IOL with enhanced intermediate function in patients with cataract


2022/9/11追記

先日、40代の若い患者さんの片眼にアイハンスを入れたところ、やや霧視が発生するので、対眼には単焦点を入れてほしいとの希望があり、ALCONクラリオンを挿入した。
すると両眼でかなり近いところまで見え、かつ、霧視症状も文字通り霧散したとのことであった。
これは、亜Monovisionともいうべき手法であり、Miniwellをいれるよりも保険がきくし、良き?という感触を得た次第。←この手法は非常に評価が高く、多くの反響を呼んでます as of 2023/5/15.

2022/9/12追記

外来で「アイハンスにトーリックレンズはあるのか?」とご質問いただきました。回答は「存在はするが、市場には存在しない」ということです。
担当者は「サーセン、生産が追い付かないッス」としか言わないんで、セガサターン事案を危惧しております。。

2024/8/262追記

現在、当院ではアイハンスのトーリックレンズを積極的に採用しております。

AMOテクニスのシナジー眼内レンズについて

AMOテクニスのシナジーレンズは連続焦点型と称されている。MRさんの話では、EDoF型(=焦点深化型)と差別化する目的で、商業的につけられた名前ということである。英文論文でも、continuous range of vision presbyopia correcting IOL と紹介されている[1]

実は、この連続焦点型の実態は従来の2焦点型レンズと、EDoF型レンズを合わせたものであり、「近方約35cmから遠方まで落ち込みなく連続的に見えることを特徴としています」ということである。

当然、3焦点型のPanOptixとの比較が気にあるところであるが、AMOの資料によると、下記のとおりである。

上記のうち、3焦点IOL BがPanOptixのようである。(ちなみにIOL AはFineVision、IOL CはAT Lisa)AMOが出してる資料だが、「大きな谷のないデフォーカスカーブ」が、描かれている。

ただし、以前述べたように、2焦点型とEDoF型の両方の欠点、すなわちスターバーストとグレアが出現するようではある。

MRさんが語るところによると、「関東ではPanOptixを上回っている。一方、関西圏ではいまだにPanOptixの方が優勢」らしい。☞詳説

当院でもほとんどがPanOptixだから首肯できる。

次回は、話題沸騰(?)のアイハンスについて述べる予定。


なお、AMO会社はいまやジョンソン&ジョンソン配下であるとこのたびわかった。医療業界は、合従連衡が激しいなと感じる次第である。

1.Clinical Outcomes With a New Continuous Range of Vision Presbyopia-Correcting Intraocular Lens

第68回神戸眼科臨床懇話会を受講しました(レンティスコンフォート関連)

ほぼ2年ぶりの実会場での勉強会でしたが、受講者はまばらだった。

演題は、稲村眼科クリニック 稲村幹夫先生による、「最近の単焦点・多焦点レンズ選びと私の経験」

稲村先生も息の長い先生である。白内障サージャンは、昔の名前で出てる人が多い。手術方法の根幹部はあまり変わっていないからだろう。

レンティスコンフォートに関する話題が主で、

遠方・近方をしっかり見たい人にはコンフォートは難しい。中間距離が大事なひとにはいい。

コンフォートを片眼に適応したうえで、不満があるような場合には、対眼には、単焦点眼内レンズか、アイハンスを挿入する。

トーリックコンフォートは軸ずれを起こすことがある。横設置が縦になる90度ずれが発生することがある。テンションリングを入れるとずれにくくなるかもしれない。

前回の絶賛講演とは違って、一歩引いた印象を受けた次第である。


講演中でよく引用されていたAMO社のアイハンスや、シナジーについては、次回述べる予定。

近視の鍼灸治療について

鍼灸により、近視を治療する?!という話を聞いたので少し調べてみた。

Acupuncture for adolescents with mild-to-moderate myopia: study protocol for a randomized controlled trial (nih.gov)

によると、

中国では近視治療に鍼が広く使われている。

しかし、中国以外では疑問視されているので、効果と安全性を調査した。

Cuanzhu 攅竹
Tongziliao 瞳子髎
Sibai 四白
Muchuang 目窗
Hegu 合谷

という鍼点のようである。

「ランダム化した前向きコート調査で、屈折度、眼軸長、毛様体の厚さ等々を調べる」とあるが、結果は記載されておらずトライアル進行中みたいな書き具合である。考察において、「安全性と有効性が証明されるであろう」とあり、微妙なペーパーという印象。


Acupuncture for slowing the progression of myopia in children and adolescents – PubMed (nih.gov)

も読んだが、

実際に臨床の場で使うには、更なるランダム化比較試験が必要である。

と、当の中国人が書いている。


私の結論

鍼灸で、第三者の統計検定に耐えうるレベルでの近視治療はできない、、ように思われる。

第8回兵庫県眼科オープンカンファレンスを受講しました。

東京大学講師小畑亮先生の「加齢黄斑変性の長期管理、病診連携」について書く。

東大眼科では萎縮型AMDに着目しているが、下記に示すようにとらえ方であり、新生血管の有無に着目している。

「なぜ委縮型AMDに目を向けるか」という切り口であり、特に「萎縮型AMDに対する治療薬」に大いに期待したのだが、

は、一瞬提示されただけであった。治験進行中であり、あまり話す内容がなかったのかな?「萎縮型は失敗続き」という記事も見受けられ、常識的に考えて萎縮してしまった組織に対する治療は難しいだろうな、とは想像する。


後半の話は、東大のAMDに対する治療プロトコルや効果判定の話であった。

  • 糖尿病網膜症→固定投与
  • PRN投与→網膜静脈分子閉塞症、近視性新生血管
  • TAE投与→加齢黄斑変性症

と振り分けているとのことで、まぁ、そうでしょうな。という感じ。


他に注目できたのは、「注射連携」というお話であった。

硝子体注射治療は高価である。一回当たり1割負担でも1万円超もする。しかも、維持できるか微妙なことあり、、患者さんは治療継続できない。

そこで、

のように、役割分担をすればうまくいく!といった趣旨であった。

既に、1都3県の20施設と連携し、非常にうまく運用されている印象。東京大学は、枠組み作りが上手だと感心した。大阪府や兵庫県では、なかなかこのようにはいかない気もする。