黄斑変性症治療の新薬 バビースモについて

2022年7月23日に、「バビースモ発売記念講演会 in 神戸」を聴講しました。
講師は神戸大学楠原 仙太郎先生と三木明子先生でした。

基礎

・従来の抗VEGF薬はVEGF(vascular endothelial growth factor、血管内皮細胞増殖因子)という悪玉因子のみが対象だった。
・一方、この新薬はVEGFに加えてAng-2(Angiopoietin-2)という悪玉因子も対象である。「抗VEGF+抗Ang-2」=バイスペシフィック抗体と呼ぶ。
・Ang-2は、Ang-1のアンタゴニストである。Ang-1は善玉因子で、Tie2レセプターを介して血管壁細胞の安定性、内皮細胞間のtight junctionとBlood Retinal Barrier機能維持に寄与する。

抗VEGF抗体、抗Ang-2抗体、抗VEGF抗体+抗Ang-2抗体の比較

臨床

①効果

・アイリーアに対して非劣勢が示された。統計有意差はないものの、バビースモ≧アイリーアという印象。

AMDでの網膜厚さ変化
DMEでの網膜厚さ変化
②投与間隔

PRN(Pro ne Nata 必要時投与法)、TAE(Try and Extend 計画的投与法)とも、アイリーアは最大延長3か月だが、バビースモは最大4か月まで延長可能。

抗VEGF薬の比較

アイリーアルセンティスベオビュバビースモ
一般名アフリベルセプトラニビズマブブロルシズマブファリシマブ
取扱いバイエル、参天製薬ノバルティスノバルティスロシュ、中外製薬
適応疾患・中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性
・網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
・病的近視における脈絡膜新生血管
・糖尿病黄斑浮腫
・血管新生緑内障
・中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性症
・網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
・病的近視における脈絡膜新生血管
・糖尿病黄斑浮腫
・未熟児網膜症
・中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性
・糖尿病黄斑浮腫
・中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性
・糖尿病黄斑浮腫
薬価138,986円142,570円138,725円163,894円
比較表

※上記以外に、「ラニビズマブ BS」がルセンティスのバイオシミラーとして、千寿から薬価79,348円で発売されている。適応疾患は「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性、病的近視における脈絡膜新生血管」2023/1/13から「糖尿病黄斑浮腫」も適応疾患に追加さた。2023/10から「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」も適応疾患に追加された。

以下のような質疑応答があった。

・実際に使った手応え、切れ味はどうか?→AMDの未治療についてはバビースモでよい。治療スイッチについては症例不足で不明。
・視神経繊維に対する影響はどうか?→抗VEGF薬は視神経繊維に不利に働くが、バビースモは抗Ang-2の働きが有利に働く。

講義を聴いて私の感想

・バビースモはアイリーアよりも、網膜浮腫に対する効果が高いようだ。
・ただ、薬価は高い & 実績が浅い。もう少し症例蓄積を見る必要がある。


2022/7/31追記。以下の薬剤師サイトがよくまとまっています。

バビースモ(ファリシマブ)の作用機序:類薬との違い・比較【加齢黄斑変性】 – 新薬情報オンライン (passmed.co.jp)

2022/1/23追記

神戸大学眼科三木明子先生によると、

新生血管黄斑症での治療スイッチは
・すぐ効くこともあるが、1,2か月たってから効いてくる場合がある。網膜下高反射病巣 (subretinal hyper-reflective material: SHRM)が出ない限り続ける。
・細動脈瘤がある場合にはよく効く。
 ↑
SHRMは、滲出型加齢黄斑変性患者の視力及び線維化組織と相関し、抗VEGF薬の治療効果予測に有用であるとされる。cf. Kawashima, Y., Hata, M., Oishi, A., Ooto, S., Yamashiro, K., Tamura, H., Miyata, M.,Uji, A., Ueda-Arakawa, N., and Tsujikawa, A. (2017) Association of Vascular VersusAvascular Subretinal Hyperreflective Material With Aflibercept Response in Age-related Macular Degeneration. American journal of ophthalmology 181, 61-70