眼内レンズ展望 Vivity(3)

Vivity動画で公平な視点と感じ入ったのが、limitations with the Vivity IOLEDOF Lens – Alcon Vivity の2品です。

作成者はProfessor Uday Devgan MD, renowned Los Angeles cataract surgeon, teaches the Best Techniques for Cataract Surgery という属性の眼科医。
Vivityは2年前から使い込んでる由で、かなり実践的なこと言ってます。
(口語を意訳しました)


コントラスト感度の低下について

Vivityの売りは焦点深度を深めることだが、コストを伴う。そのコストとはコントラスト感度が低下することだ。dysphotopsiaも思ったよりある。
Alconのパンフにも「夜間コントラスト感度が低下する」ことを周知せよと記載されている。

単焦点レンズとVivityのコントラスト感度曲線比較

☞「頂上をならし平坦化することにより、見える範囲を広げる」と「コントラスト感度の低下」はトレードオフの関係にある。

瞳孔径が小さいと近視化しやすい。

患者の瞳孔径が2.5mmなら、Vivityの中心光学域(2.2mm)が瞳孔領の80%以上を占めてしまう。すると術後正視を狙っても近視気味となる。

小瞳孔でも挿入可能だが、近視になりやすいので、+0.5~+0.75D狙いで正視に近づける。

一眼目の結果が近視気味なら、二眼目は正視に近づける調整を行うべし。


X-wave technologyの原理からすれば平仄がいく。瞳孔サイズが重要というのは以前紹介した論文でも強調されていた点。

患者適応について

既に夜間視力に障害がある場合は、良い適応である。

☞「夜間コントラスト感度が低下する」という欠点が露呈しないということ。

「角膜清明で表面平滑で黄斑機能も完璧」がよい。
3焦点レンズが挿れられない場合でもVivityなら可といわれているが、私としてはやや懐疑的である。

☞コントラストを低下させるレンズを、すでに感度低下している人に入れるのはよくない。


この先生は、動画の最後で

多くの眼科医に白内障手術を行ってきたが、90%以上は単焦点レンズを選び、多くの場合やや近視気味に合わせる。私自身もそうするだろう。
眼科医としては最良の見え方こそが大事であり、眼鏡をかけることは大したことではない。

日本の紹介動画では、こうはいかんだろう。
冒頭で「公平な視点」と述べた所以。


2023/5/19追記

↑に関し「周りの60歳以上眼科医も、ご自身にPanOptixをどんどんいれてます!`Д´」と関係者、語りき。

眼内レンズ展望 Vivity(2)

X-wave technologyと銘打つのは、革新的でヒ・ミ・ ツ な技術というニュアンスかしらん?

奈辺をXと謳うのか、調べました。

大きいほうは「1μm以下のスムーズな盛り上がり」
小さいほうは「2.2mmの凹曲面」

この同心円状構造等が「先行する波面と遅延する波面」を作り出すらしい。

佐藤眼科 様から引用

アイハンスや旧Miniwellでは不足する加入度数を、回折格子なしで付加を以て「X-wave technology」と称すのであろう。 cf.(別記)


回折格子がないので、ハログレが皆無ではないが少ない。

 

☞続きます。


(別記)
Optical Principles of Extended Depth of Focus IOLs (alconscience.com) から追加。

The emergent wavefront mimics the anterior lens surface shape after light passes through the surface transition elements. The wavefront is delayed when it passes through the central part of the surface transition elements and advanced when passing outside of the central part. The delayed part of the wavefront travels slower and focuses closer to form an image towards the near end of the extension and the advanced part of the wavefront travels faster and focuses further to form an image at the far end of the extension. As the wavefront propagates, it collapses down resulting in the wavefront being stretched forward and backward thereby creating a continuous extended focal range.

●wavefrontが先行するとか遅延するとかの表現は、extended focal rangeにおいてレンズ外側がfarに、同心円がnearに合うという意味っぽい。

真ん中の同心円構造については、

●波形を矩形に成型する働きがある様子。

以上二つが、X-wave technologyのヒ・ミ・ ツ


2023/5/19追記

「wavefrontが先行するとか遅延するとか」は、屈折度が違う物質を通るために実際に光の速度が遅くなるとのことでした。担当さん談。
1μ盛り上がっている部分が、わずかに光速度を遅くするということらしい。担当さん談2。

眼内レンズ展望 Vivity

既報してたViviyが、漸く6月から発売される。

渉猟するに、先行施設とか営業動画やら散見するが、日本語論文は見当たらん。
お上から、箝口令がしかれてるんだろう。

で、英ペーパーを読みました。


IFが高いのは、Extended depth-of-focus (EDOF) AcrySof® IQ Vivity® intraocular lens implant: a real-life experience

Saying..

  • 54人、108眼にVivityを挿入し前向き研究を行った。
  • 遠見、中間、近見視力、見え方の質を調査した。

遠・中・近視力


LogMAR表記分かりにくいので、視力表記すると、

LogMAR小数視力
矯正視力01
80cm裸眼視力0.050.89
60cm裸眼視力0.060.87
30cm裸眼視力0.150.71

以前のEyhanceデフォーカスカーブに重ねると、

黒:単焦点 灰色:Eyehance 青:Vivity

優秀な成績ですね!

術後の愁訴

ハロー・グレア、スターバーストが皆無とはいかない。
むしろ、そこそこあるようだ。

瞳孔サイズと見え方

We found a positive correlation
between the pupil sizes and the Quality of Vision score (Tau-
Kendall coefficient 0.42; p < 0.01).

という点は、他の回折型レンズIntensityと似る。真ん中の盛り上がり部分が影響を及ぼしているのかしらん。
要は、若くて瞳孔異常が少ない方が宜し、ということ。

☞続きます。

高次非球面単焦点眼内レンズ TECNIS Eyhanceの臨床評価

J&J主催のWeb Seminarを視聴しました。

で、言わんとするところは、

アイハンスは、従来の単焦点レンズを超える単焦点IOLである。
緑内障があっても使える。

供給不安が解消したので、「ターゲットを拡張したい、しかし、手持ちのsymphonyやsynergyとの競合は避けたい」ということかな。

DIB00Vがアイハンス。ちょっと、露骨かな~。

僕が個人的に感じるのは上記のように、Farでの焦点深度が深いためか、遠方での度数ずれ許容度が高いような印象を受ける。デフォーカス曲線が-0.5D前後までなだらかなことが好結果をもたらしてるのだろう。

眼内レンズの入れ替え手術

眼内レンズの度数変更を希望する場合に行う手術。

  1. 眼内レンズとカプセルの癒着を粘弾性物質ではがす。
  2. レンズを前房に脱出させる。
  3. レンズ切断鋏でレンズ分割。
  4. 分割片を摘出

という手順で、カプセルと角膜内皮に留意すれば、簡単な手技である。

つかう鋏は

参考動画

術後屈折度にコンシャスな患者さんが増えており、変更希望があれば間を置かず実施するのが良ろし。

miLoopハンズオン

先日のmiLoopを模擬眼で使ってみた。

ポイントは

  1. ハイドロをしっかり行う。
  2. 挿入時にはリング先をCCC縁に近づける。
  3. ハンドルを左に回旋させた状態を保ってリングを開く。
  4. リングが完全に開いてから、手前引き気味&揺らし気味にしてハンドルを右回旋させる。

米国ではそこそこ普及しているが、日本では全然ということでした。
そやろな~という感じ。


参考url

分割システム miLOOP.pdf
Hand positioning of ZEISS miLOOP – YouTube

眼内レンズIntensityについて

Intensityの最新情報@リッツカールトン大阪を聴いてきました。

Intensity SeeLens type

-1次、-2次の今まで捨て置かれてた球面収差を利用することにより、3焦点+2焦点=5焦点を実現している。
そのため、光ロスが従来型レンズよりも40%少なく、93.5%の光透過率をもつ。

-1次,-2次の収差を回収している
defocus曲線は5つのこぶを持つ

レンズ中央部は中間距離になっている点は、他社レンズが中央を遠方に設定している点と異なる。
ただし、瞳孔径の大きさに応じて、power配分が大きく変わる+上記の収差回収により、なだらかなdefocus曲線を獲得している。

瞳孔が小さくなると、近見のpowerが大幅に向上する

「近見視力が他社レンズより劣る」と、えの眼科クリニック絵野亜矢子先生は提示されていましたが、ツカザキ病院野口三太郎先生によると「両眼挿入の場合には、近見における眼鏡装用率も大幅に改善する」

【感想】

  • 両眼挿入のできる若者で、瞳孔異常がない、ハログレ最小化を希望する人が対象。
  • 回折格子がついているレンズとしては究極系に近い。ただ、世の中の流れ的には回折格子を廃止する方向なので微妙かな。
  • 開発元のイスラエルのHanita社は、MiniwelのイタリアSifi社をサポート体制において大きく凌駕する。

認知症予防と視力

ニューヨークタイムズの記事です。
大雑把に意訳すると

認知症の予防薬として、目が飛び出るほど高い薬が開発されているが、ほとんど効かない。リスク要因を取り除く方が、実効性がある。
JAMA研究によれば、全リスクファクターを取り除けば62%の認知症を防げる。1.8%は視力を保つことによって防ぎうる。

以前ご紹介した、白内障手術によって、認知症が防げると同工です。

他のリスクファクターとしては
高血圧、低教育、難聴、喫煙、肥満、鬱状態、運動不足、糖尿病、社会的孤立
が挙げられています。


白内障手術で認知症を防ぐとはいっても、ある程度が進んでしまうと

  1. 手術のリスク対効果が理解できなくなる。
  2. 痛覚に対する閾値も低下する。

となり、局所麻酔では手術が困難。しかし、家族さんは「全身麻酔は怖い」なので、結局そのままということがある。

何事にも、限度がある。
その限度は全身状態、眼局所だけではなく、認知レベルにも規定される。

三好眼科 三好輝行先生のご講演@瀬戸内眼科コロシアム2022

お元気そうで、慶賀の至りであります。
大橋先生は不動の4番バッターと紹介されていましたが、小生的には白内障手術界の永守会長かしらん[1]

不肖、私めが、会長のご高見を以下にまとめさせて頂きます。

  • 多焦点レンズにはすべてCapsular Tension Ringをいれる。∵多焦点レンズは偏心に弱い。
  • 多焦点レンズは、ループが鼻上側に来るようにする。∵dysphotopsiaは外側下方から発生するからである。
  • 術前に遠近両用CLでシミュレーションをする。違和感を訴える患者さんが抽出でき、過剰な期待値を下げることができる。
  • AMOのレンズはグリスニング・ホワイトニング、カルシウム沈着が発生にくい[2]
  • 単焦点レンズは翌日は喜ぶが、だんだん満足度が低下する。多焦点レンズはそれが少ない。特に理容師、若年者。
  • 術後不満の半数以上がドライアイなのでアイドラidraを使って評価している。
  • ミニモノビジョンは明視域を上げる。↓ではレンティスコンフォートの明視域が大きく改善している。

存外、NIDEKのレンズが優秀である。


1.三好先生ご自身は稲盛和夫元京セラ会長を尊敬しておられ、講演内でも「本業で得られた喜びは、趣味で得られた喜びより比較にならないくらい大きい」という言葉を引用されていました。

2.眼内レンズ、コンタクトレンズには以下の二種類の製法がある。

・レースカット製法:レンズを塊から削り出す方法
・モールディング製法:鋳型にレンズを流し込んで製造する方法
レースカット製法のほうがコストはかかるが、グリスニングは生じにくい。
アルコンのレンズは(ClareonもPanOptixも)モールディング製法。AMO、NIDEKのレンズはレースカット製法。

2022/11/8追記

アルコンによるとClareonは含水率1.5%、かつてのアクリソフは含水率0.4%。「グリスニングは房水吸引によっておこるためClareonでは発生しにくくなっている」とのこと。

ミニウェル・プロクサを片眼のみに挿入できるか?

「片眼に単焦点レンズを入れたが、僚眼にはミニウェル・プロクサをいれたい」という御要望があった。
そこで調べたが、結論は「無理っぽい」です。


片眼プロクサ and/or 両眼プロクサの御所望は結構多いらしい。
しかし、Sifi社は『ミニウェル・レディを優位眼に、ミニウェル・プロクサを非優位眼に入れることを「Well Fusion」と呼び、両者は補完的に働く』に拘りおる由で、プロクサを単独販売しない。
これは、優れて欧州的と云うべし。


「Well Fusion」を購入してプロクサのみ挿入する手はあろうが、コスト倍で非定型挿入というリスクが発生する。
どうしても非回析型の近方レンズを入れるなら、既存のアイハンスを入れるか、Vivity登場を待つのは如何か知らん?