カフェイン代謝物が近視を抑制する

「7-メチルキサンチン(7-methylxanthine)」についての論文[1]です。

711 myopic children from Denmark treated with varying doses of oral 7-MX (0-1200 mg per day) were analysed.
 Children were followed for an average of 3.6 years (range 0.9-9.1 years) 

以前に触れた論文よりも、多人数(77人→711人)長期間(2年→3.6年)の観察になっており、明るい兆し?
作用の機序は、後部強膜の膠原繊維の濃度や径が増すことによるらし[2]


点眼、眼鏡、コンタクト以外に内服薬が加わるのはよきだが、全身への副作用は気になる。
「子供はコーヒー牛乳も飲んだらいけません!」からね。

 7-MX was found to be non-toxic as compared to caffeine and theobromine

代謝産物であるならば、キサンチンを直接摂るより毒性は低いんのかな?

 

ただ、現在の入手価は、50mg=129USD≒1.7万円。1000mg/日なら34万円/日であります。


1.Oral administration of caffeine metabolite 7-methylxanthine is associated with slowed myopia progression in Danish children
2.Myopia, its prevalence, current therapeutic strategy and recent developments: A Review

バイオレットライト透過眼鏡について

患者さんから近視の予防効果について質問されました。
「バイオレットライトの波長領域を選択的に透過する」とのことです。


[個人的見解]

バイオレットライトによる眼軸長伸展の抑制効果にはエビデンスがある[1]

では、「バイオレットライトの波長を選択的に透過する方が、全波長を透過させるより効果が高い」と云えるのかな?

すなわち、「タンパク質摂取は体に良い」を敷衍して、「タンパク質を選択的に摂った方が、まんべんなく食すより良き」と言えるのかな?

患者さんにお答えするには、このあたりの検討が必要とはおもう。


1.参照 「あなたのこども、そのままだと近視になります」を読みました │ 眼科医のブログ (tarumi.co.jp)

低加入度数型の近視抑制コンタクトレンズ

以前、EDoF型の近視抑制レンズについてご紹介した。
当院でもオルソ困難・卒業の際、シード1dayPureを重用している。

今回、そのシードのライバル社?から「低加入度数コンタクトレンズも使えます」という論文[1]-[3]を教えてもらった。

要旨は以下の通り。

+0.50D を加入した低加入度数CL と単焦点CL で近視抑制の比較を行った。

年齢 10~16 歳、近視度数-0.75~-3.50D、乱視度数-1.00D 以下の小児 24 名を2 群に分け、両レンズを 1 日使い捨てで 12 ヶ月間使用した。

装用開始 1 ヶ月後以降で 11 ヶ月間の眼軸長変化量は低加入度CL で 0.09 mm、単焦点CL で 0.17 mm であった。

文中の低加入度CLの実体は、2WEEKメニコンデュオ で、本来は「モバイルライフをサポート」である。
この論文と比べて、症例が少ない & 中立的なエビデンスいるよな、という印象。


ネット渉猟すると、メニコンは欧州でMenicon Bloomを展開している。また、Menicon Bloom Dayなるコンタクトレンズを彼の地で販売しており、

Menicon Bloom Day は、Visioneering Technologies, Inc社が、近視矯正及び近視進行抑制用としてCEマーク認証を取得した、1日使い捨てソフトコンタクトレンズ「NaturalVue®(ナチュラルビュー)マルチフォーカルコンタクトレンズ」のOEM商品であり、この度、当社が欧州において販売する契約を締結いたしました。

然し、

日本国内においては、近視進行抑制に関する規制や承認基準が整備されておりません。本製品の承認も取得しておりません。


かくして、本邦では

Seed=ブレスオーコレクト+シード1dayPure
   VS
Menicon=オルソK+2WEEKメニコン デュオ
という構図と相なる。。


1.ソフトコンタクトレンズによる近視進行抑制とその光学的機序
2.Effect of low-addition soft contact lenses with decentered optical design on myopia progression in children: a pilot study
3.光学中心偏心デザインの低加入度ソフトコンタクトレンズの小児近視進行への影響:パイロット研究. :2の抄訳。

近視啓発動画「進む近視をなんとかしよう大作戦の巻」

日本の眼科[1]に、近視啓発動画「進む近視をなんとかしよう大作戦の巻」が掲載されています。

近視マンなるものを介して、近視啓蒙を行う仕立て。

近視マンは目の健康を脅かすダークヒーローですが、弱点があります。それは子供たちがデジタル端末を正しく使い、屋外活動をすること。
弱点を突けば、”近視マン”の胸にあるパワーインジケーターの目盛りが低下し最後にパワーが0になると吹き飛ばされて泣いてしまうというちょっと弱虫な面も持っています。

掲載公開Youtubeの内容は

  1. 電子機器類を近距離で長時間見るな。
  2. 屋外で2時間以上遊べ。
  3. 放置すると将来、病的な合併症が出る。

よくできてるので、当院の説明用紙にもQRコードをはる予定です。


1.日本の眼科 93:6号(2022) p.740

近視治療アトロピンの至適濃度

0.01%アトロピン点眼が世界標準なので、当院では1%アトロピンを100ml生理食塩水で希釈して作成しています。
商用マイオピンには0.025%が掲載されているので、至適な濃度についての文献を検索してみました。

この文献は、0.01%,0.025%,0.05%の濃度を比較しており

2年間の追跡の結果、等価球面度数の平均進行度はアトロピン0.05%群で0.55±0.86D(一対比較でのP=0.015)、0.025%群で0.85±0.73D(同P<0.001)、0.01%群で1.12±0.85D(同P=0.02)、眼軸長の平均変化度は0.39±0.35mm(同P=0.04)、0.50±0.33mm(同P<0.001)、0.59±0.38mm(同P=0.10)だった。

以上より、「0.05%アトロピンは0.01%アトロピンの倍の効果がある」と結論付けています。


当院でも、0.05%アトロピンを頒布予定です。

ZeissのMyoKids眼鏡 考

ZeissのMCレンズは発売中止だったはずだが、MyoKidsというブランド名で生き残っているらし、と既報した。

そこで、Zeissに直接話を聞いた。

先に言っとくと、この「MyoKidsというレンズは近視治療に役立ちそうな雰囲気の名前だが、医学的エビデンスはない」ということだった。


Zeissの近視対策眼鏡の変遷

初代が、いにしえのMCレンズで、Zeissが合併したソーラー社の製品。岡山大学で15%くらいの有効性であったが、ビミョーな評価なので沙汰やみになった由である。

2代目は正確にはMyoVisionといい、これが「同心円状に遠近度数を入れ込んだだけの老眼鏡レンズで効果がなかった」「有効性が明確に否定された」と逆の意味で有名なレンズ。
以下、あたらしい眼科2020年5月号から引用。

MyoVision(CarlZeiss Vision)として市販されるレンズは,平均30%の近視進行抑制効果を示した。しかしこの値は、近視の家族歴がある学童に限定した後付けのサブグループ分析から得られたものであった。

追試として国内では、家族歴のある学童に対象を限定して7大学共同でRCTが実施された。ところが期待に反して、屈折度、眼軸長いずれにおいても抑制効果はみられなかった。


3代目が件のMyoKidsで、設計は初代MCレンズと「基本同じで若干異なる」とのこと。2代目の同心円状配置ではない。初代よりいやましてエビデンスがなく、近視治療を一切謳っていない。

MyoKidsレンズのパターン配置

パンフレットには

眼鏡レンズによる近視のアイケアは、子供の近視の発症率の高まりにより、
ますます重要性を増しています。様々な治療法も提案されるなかで、眼鏡
レンズは最も実用的かつ消費者にとって選びやすい選択肢です。眼鏡レン
ズは市場に存在する近視コントロールプロトコルと併用することも可能です。

MyoKidsという命名といい、タイトロープを渡るがごとき戦略。。

あゝMCレンズ、以て瞑すべし哉。


2022/6/4追記。
Zeissから神戸でのMyoKids取り扱いにつき、以下ご連絡をいただきました:-)

予約優先でされている場合もございますので、お店に行かれる前に電話で確認して頂いた方がスムーズと思われます。

・グラスファクトリー神戸店・・・子供用フレームはございませんが、MyoKidsレンズ対応可能です。

神戸市中央区北長狭通2-5-12
TEL :078-392-3080   11:00~19:00、定休日:毎週水曜日

・マイスター大学堂・・・MyoKidsレンズ対応可能です。子供用フレームもご用意されております。

兵庫県神戸市中央区三宮センター街2丁目
TEL : 078-331-5542営業時間 :午前10:00~午後7:00  営業日:元日のみ休業

第4回日本近視学会総会に出席しました。

大阪のグランドフロントで開かれた近視学会に出席してきました。学会会長は京都大学の辻川明孝教授で、かつて、この大学出身の大御所が「近視治療は無意味で、早々に眼鏡を処方すべきである」とのたまっておられたことを思うと、隔世の感があります。

土曜セッションで”Cutting edge of myopia treatment”があり、その掉尾がオーストラリアメルボルン大学のMingguang He先生による”Repeated Low-level red-light therapy for myopia control in children”でした。
即ち、赤色光で近視治療であり、最後に持ってきたてことはこの治療が注目されてるということかしらん?

講演内容はOphthalmology誌に書かれてあったこととほぼ同じでしたが、なぜ赤色光が有用かについて

「赤色光が脈絡膜の血行を良くする ⇒ 脈絡膜の菲薄化を防ぐ⇒ 眼軸長の伸長を防ぐ。」という機序を想定している。



この「脈絡膜の菲薄化」は、学会バズワードで、慶応大Xiaoyan Jiang先生も

「バイオレット光がOPN5(ニューロプシン)を刺激することで脈絡膜肥厚を制御し、眼軸長伸長を抑制する。」ことをマウス実験で確認した。

ただし、

バイオレット光以外に赤緑青色光も試したが、赤色光、緑色光には全く効果がなく、青色光のみ弱いながらも効果を認めた。

って「赤色光で近視治療」説と、真逆?!

加えて、バイオレット学派曰く「バイオレット光は屋内、眼鏡装用でも遮られる」「したがって、屋外活動が大切である」
なれば 「赤色光は屋内にも到達するので、わざわざ照射するに及ばず」ともいえ、僕もバイオレット派に一票かな。。


その他、Zeissが製造中止したと思ってたMCレンズがMyoKidsとしてよみがえっている様子。

ただし、発表者のSaulius R. Varnas先生自身が35%くらいの有効度(と言っていたと思う)
つまりオルソケラトロジーやアトロピン点眼ほどには推してない印象でした。

この件は、Zeissの担当者に以前のMCレンズとどう違うのか聞く予定です。

赤色光による近視治療

短波長のバイオレットライトが近視を抑制するのは有名だが、赤色光も効果があるという発表(Ophthalmology誌)であったので、紹介します。

Participants: Two hundred sixty-four eligible children 8 to 13 years of age with myopia of cycloplegic spherical equivalent refraction (SER) of -1.00 to -5.00 diopters (D), astigmatism of 2.50 D or less, anisometropia of 1.50 D or less, and best-corrected visual acuity (BCVA) of 0.0 logarithm of the minimum angle of resolution or more were enrolled in July and August 2019. Follow-up was completed in September 2020.
Methods: Children were assigned randomly to the intervention group (RLRL treatment plus single-vision spectacle [SVS]) and the control group (SVS). The RLRL treatment was provided by a desktop light therapy device that emits red light of 650-nm wavelength at an illuminance level of approximately 1600 lux and a power of 0.29 mW for a 4-mm pupil (class I classification) and was administered at home under supervision of parents for 3 minutes per session, twice daily with a minimum interval of 4 hours, 5 days per week.

8歳〜13歳の近視264例で
「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」
   vs
「眼鏡装用のみ」
を比較した。

その結果、

Results: Among 264 randomized participants, 246 children (93.2%) were included in the analysis (117 in the RLRL group and 129 in the SVS group). Adjusted 12-month axial elongation and SER progression were 0.13 mm (95% confidence interval [CI], 0.09-0.17mm) and -0.20 D (95% CI, -0.29 to -0.11D) for RLRL treatment and 0.38 mm (95% CI, 0.34-0.42 mm) and -0.79 D (95% CI, -0.88 to -0.69 D) for SVS treatment. The differences in axial elongation and SER progression were 0.26 mm (95% CI, 0.20-0.31 mm) and -0.59D (95% CI, -0.72 to -0.46 D) between the RLRL and SVS groups. No severe adverse events (sudden vision loss ≥2 lines or scotoma), functional visual loss indicated by BCVA, or structural damage seen on OCT scans were observed.

Conclusions: Repeated low-level red-light therapy is a promising alternative treatment for myopia control in children with good user acceptability and no documented functional or structural damage.

1年後

「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」は眼軸長0.13mm伸長
   vs
「眼鏡装用のみ」は、眼軸長0.38mm伸長

「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」は-0.20D進行
   vs
「眼鏡装用のみ」は、-0.79D進行

これは、坪田先生のバイオレットライト論文(cf.Table S2)よりも効果がある(ようにみえる)。650nmの赤色光ランプは簡単に製造でき、近視治療の朗報(かもしれない)。

↑で、奥歯にものを挟んでいる理由は

  • 論文にしては、結果の評価が甘い。結果の統計処理が記されていない。
  • 「安全性が確認された」がやけに強調されているあたり、以前紹介した鍼治療論文と近似している。

つまり、悠久の国由来の論文は、ひとしなみには評価しがたいなぁ~みたいな。。
全き個人の感想であります。

近視性後天性内斜視について

2022/2/19第19回近畿弱視斜視アフタヌーンセミナーで京都府立医大の稗田 牧先生の講演を聞きました。

定義は

  1. 潜在性発症
  2. 遠方内斜位斜視
  3. 若年者
  4. 近視
  5. 長期の近業、近視の低矯正

ということです。

近視が進行することにより、眼軸長が伸び、外直筋や斜筋の付着部が後方にずれることによって、後転手術と同じよう効果が発生し、内斜視となるとのことでした。

そのほか、

近見作業時の距離が短く(20cmくらい)、遠方を明視する機会がすくない生活習慣で発生する。

2000年代には少なかったが、10代でのスマホ所有率が50%をこした2013年ごろから急激に増えた。

-6Dくらいの近視でも発生する。

20△を超すと、プリズム眼鏡か手術治療を選択する。

スマホ急性内斜視と類縁疾患な印象だが、スマホ急性内斜視と違ってゆっくり進行すること、調節痙攣というよりは眼軸長の延伸による器質的変化が生じている点から、異なるentityなのか?と感じた。


今までの教科書的知識では、内斜視といえば乳児内斜視と(遠視由来の)調節性内斜視が2大要因だったが、今後は、近視によるスマホ急性内斜視と近視性後天性内斜視も考慮する必要がある。特にAYA世代

2022年の当院の展望(近視治療編)

当院はすでに、「アトロピン点眼オルソケラトロジー2大メーカー取り扱い、EDoF型コンタクトレンズ採用」と他クリニック以上のオプションを提示しております。

当院の近視治療オプション

以前は、アトロピン点眼かオルソケラトロジーの2択パターンが殆どだったが、EDoF型コンタクトレンズを採用して以来、「夜間装用は嫌だ」「どうしてもオルソレンズが合わない」「自費診療ではなく、保険診療でやりたい」という患者さんにも対応できるようになった

また、近年、アトロピン点眼とオルソケラトロジーの併用が抑止効果を高める[1][2]という論文がでてきている。今までは、併用療法は効果があるだろうがエビデンスが希薄だったが、かなりの自信をもって併用療法をお勧めることができるようになった。

選択肢が増えた結果、当院としてもそれらの呈示や組み合わせに工夫を凝らし、患者さんにベストな提示をしていきたいと考えている次第。


1.Efficacy of combined orthokeratology and 0.01% atropine solution for slowing axial elongation in children with myopia- a 2-year randomize trial

2.特集:近視 オルソケラトロジーと低濃度アトロピン点眼液の併用による近視進行予防