ZeissのMyoKids眼鏡 考

ZeissのMCレンズは発売中止だったはずだが、MyoKidsというブランド名で生き残っているらし、と既報した。

そこで、Zeissに直接話を聞いた。

先に言っとくと、この「MyoKidsというレンズは近視治療に役立ちそうな雰囲気の名前だが、医学的エビデンスはない」ということだった。


Zeissの近視対策眼鏡の変遷

初代が、いにしえのMCレンズで、Zeissが合併したソーラー社の製品。岡山大学で15%くらいの有効性であったが、ビミョーな評価なので沙汰やみになった由である。

2代目は正確にはMyoVisionといい、これが「同心円状に遠近度数を入れ込んだだけの老眼鏡レンズで効果がなかった」「有効性が明確に否定された」と逆の意味で有名なレンズ。
以下、あたらしい眼科2020年5月号から引用。

MyoVision(CarlZeiss Vision)として市販されるレンズは,平均30%の近視進行抑制効果を示した。しかしこの値は、近視の家族歴がある学童に限定した後付けのサブグループ分析から得られたものであった。

追試として国内では、家族歴のある学童に対象を限定して7大学共同でRCTが実施された。ところが期待に反して、屈折度、眼軸長いずれにおいても抑制効果はみられなかった。


3代目が件のMyoKidsで、設計は初代MCレンズと「基本同じで若干異なる」とのこと。2代目の同心円状配置ではない。初代よりいやましてエビデンスがなく、近視治療を一切謳っていない。

MyoKidsレンズのパターン配置

パンフレットには

眼鏡レンズによる近視のアイケアは、子供の近視の発症率の高まりにより、
ますます重要性を増しています。様々な治療法も提案されるなかで、眼鏡
レンズは最も実用的かつ消費者にとって選びやすい選択肢です。眼鏡レン
ズは市場に存在する近視コントロールプロトコルと併用することも可能です。

MyoKidsという命名といい、タイトロープを渡るがごとき戦略。。

あゝMCレンズ、以て瞑すべし哉。


2022/6/4追記。
Zeissから神戸でのMyoKids取り扱いにつき、以下ご連絡をいただきました:-)

予約優先でされている場合もございますので、お店に行かれる前に電話で確認して頂いた方がスムーズと思われます。

・グラスファクトリー神戸店・・・子供用フレームはございませんが、MyoKidsレンズ対応可能です。

神戸市中央区北長狭通2-5-12
TEL :078-392-3080   11:00~19:00、定休日:毎週水曜日

・マイスター大学堂・・・MyoKidsレンズ対応可能です。子供用フレームもご用意されております。

兵庫県神戸市中央区三宮センター街2丁目
TEL : 078-331-5542営業時間 :午前10:00~午後7:00  営業日:元日のみ休業

老眼対策の点眼薬(濃度別のサンピロ体験報告)

市販のサンピロは0.5%、1%、2%にくわえて、Vuityと同じ濃度の1.25%を自家調合して効果を比較実験しました。ただしn=1(女性、軽度老眼、正視眼)です。

0.5%サンピロはほとんど効いてないですね。1%サンピロは1.25%ピロカルピン、すなわちVuityとほぼ変わらないようです。2%だと頭痛などの副作用が出やすい様子。


 僕の想像ですが、「Vuity製薬会社も試行錯誤してほぼ1%あたりに至適濃度をみとめた。だけど、1%サンピロと同じものを販売すればコマーシャル的に、かつ法的に問題となるので、頭痛が出ない程度の濃度として1.25%を選んだ」あたりが真相ではないかぃな?

第4回日本近視学会総会に出席しました。

大阪のグランドフロントで開かれた近視学会に出席してきました。学会会長は京都大学の辻川明孝教授で、かつて、この大学出身の大御所が「近視治療は無意味で、早々に眼鏡を処方すべきである」とのたまっておられたことを思うと、隔世の感があります。

土曜セッションで”Cutting edge of myopia treatment”があり、その掉尾がオーストラリアメルボルン大学のMingguang He先生による”Repeated Low-level red-light therapy for myopia control in children”でした。
即ち、赤色光で近視治療であり、最後に持ってきたてことはこの治療が注目されてるということかしらん?

講演内容はOphthalmology誌に書かれてあったこととほぼ同じでしたが、なぜ赤色光が有用かについて

「赤色光が脈絡膜の血行を良くする ⇒ 脈絡膜の菲薄化を防ぐ⇒ 眼軸長の伸長を防ぐ。」という機序を想定している。



この「脈絡膜の菲薄化」は、学会バズワードで、慶応大Xiaoyan Jiang先生も

「バイオレット光がOPN5(ニューロプシン)を刺激することで脈絡膜肥厚を制御し、眼軸長伸長を抑制する。」ことをマウス実験で確認した。

ただし、

バイオレット光以外に赤緑青色光も試したが、赤色光、緑色光には全く効果がなく、青色光のみ弱いながらも効果を認めた。

って「赤色光で近視治療」説と、真逆?!

加えて、バイオレット学派曰く「バイオレット光は屋内、眼鏡装用でも遮られる」「したがって、屋外活動が大切である」
なれば 「赤色光は屋内にも到達するので、わざわざ照射するに及ばず」ともいえ、僕もバイオレット派に一票かな。。


その他、Zeissが製造中止したと思ってたMCレンズがMyoKidsとしてよみがえっている様子。

ただし、発表者のSaulius R. Varnas先生自身が35%くらいの有効度(と言っていたと思う)
つまりオルソケラトロジーやアトロピン点眼ほどには推してない印象でした。

この件は、Zeissの担当者に以前のMCレンズとどう違うのか聞く予定です。

下眼瞼たるみにヒアルロン酸を入れました。

下眼瞼がたるんで、疲れたように見えるので、美容外科でヒアルロン酸を入れてみました。

術後直後写真

「下眼瞼脱脂手術」を勧められたが、「貴重な組織は温存したい」といったところ、「ヒアルロン酸入れてみましょう」「手術の3~4割の効果かもしれない」となりました。

効果は7割以上ある。

術前写真
  • 注入したヒアルロン酸:アラガン社のジュビダームウルトラプラスXC 1本+レスチレン社のリド1本。0.5本残して4W後に修正用に使う。
  • 注入時の痛み:ちくちくした痛み。キシロカインゼリー塗布はほとんど意味なしだったが、小鼻横のキシロカイン皮下注射(31G)はよく効いた。

手技的にはとても簡単そうだったので、アラガンの講習を受けて、疼痛コントロールできれば、鏡見つつ自分で自分に注入できるんじゃね?と感じました。

赤色光による近視治療

短波長のバイオレットライトが近視を抑制するのは有名だが、赤色光も効果があるという発表(Ophthalmology誌)であったので、紹介します。

Participants: Two hundred sixty-four eligible children 8 to 13 years of age with myopia of cycloplegic spherical equivalent refraction (SER) of -1.00 to -5.00 diopters (D), astigmatism of 2.50 D or less, anisometropia of 1.50 D or less, and best-corrected visual acuity (BCVA) of 0.0 logarithm of the minimum angle of resolution or more were enrolled in July and August 2019. Follow-up was completed in September 2020.
Methods: Children were assigned randomly to the intervention group (RLRL treatment plus single-vision spectacle [SVS]) and the control group (SVS). The RLRL treatment was provided by a desktop light therapy device that emits red light of 650-nm wavelength at an illuminance level of approximately 1600 lux and a power of 0.29 mW for a 4-mm pupil (class I classification) and was administered at home under supervision of parents for 3 minutes per session, twice daily with a minimum interval of 4 hours, 5 days per week.

8歳〜13歳の近視264例で
「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」
   vs
「眼鏡装用のみ」
を比較した。

その結果、

Results: Among 264 randomized participants, 246 children (93.2%) were included in the analysis (117 in the RLRL group and 129 in the SVS group). Adjusted 12-month axial elongation and SER progression were 0.13 mm (95% confidence interval [CI], 0.09-0.17mm) and -0.20 D (95% CI, -0.29 to -0.11D) for RLRL treatment and 0.38 mm (95% CI, 0.34-0.42 mm) and -0.79 D (95% CI, -0.88 to -0.69 D) for SVS treatment. The differences in axial elongation and SER progression were 0.26 mm (95% CI, 0.20-0.31 mm) and -0.59D (95% CI, -0.72 to -0.46 D) between the RLRL and SVS groups. No severe adverse events (sudden vision loss ≥2 lines or scotoma), functional visual loss indicated by BCVA, or structural damage seen on OCT scans were observed.

Conclusions: Repeated low-level red-light therapy is a promising alternative treatment for myopia control in children with good user acceptability and no documented functional or structural damage.

1年後

「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」は眼軸長0.13mm伸長
   vs
「眼鏡装用のみ」は、眼軸長0.38mm伸長

「眼鏡装用+週5回1日2回3分ずつ赤色光を見る」は-0.20D進行
   vs
「眼鏡装用のみ」は、-0.79D進行

これは、坪田先生のバイオレットライト論文(cf.Table S2)よりも効果がある(ようにみえる)。650nmの赤色光ランプは簡単に製造でき、近視治療の朗報(かもしれない)。

↑で、奥歯にものを挟んでいる理由は

  • 論文にしては、結果の評価が甘い。結果の統計処理が記されていない。
  • 「安全性が確認された」がやけに強調されているあたり、以前紹介した鍼治療論文と近似している。

つまり、悠久の国由来の論文は、ひとしなみには評価しがたいなぁ~みたいな。。
全き個人の感想であります。