緑内障眼に対する多焦点眼内レンズの適応

2023/10/14 北里大学医療衛生部 神谷和孝教授@大阪眼科手術の会です。

前提の与件

日本眼科学会の公式見解:緑内障眼は多焦点レンズ挿入の除外対象

2焦点レンズ時代

かつての2焦点レンズのころはコントラスト感度の低下が著しかった。

3焦点レンズ・EDoFレンズ時代

3焦点レンズ、EDoFレンズと技術進展に伴い、最近ではコントラスト感度の低下はほとんど見られないという報告が増えてきている。

結論

  • 軽症例で、中心閾値低下がみられない。
  • ドライアイ、不正乱視、黄斑疾患がない。
  • 本人が希望

以上の条件が満たされるなら、緑内障眼でも挿入可能か?と風向きが変わりつつある。


追加
アイファガン点眼(交感神経α2作働薬)には縮瞳効果があり、グレハロ軽減に役立つ。

MIGS(低侵襲緑内障手術)について(第4版)

「達人に学ぶ!最新緑内障手術のコツ」から、島根医大教授 谷戸正樹先生 の序文を引用させていただきます。

ほんの10年前には、眼外法のトラベクロトミーとトラベクレクトミーの2種類だけが主たる手術の選択肢でした。前者は眼圧下降効果がマイルドである代わりに過度の低眼圧や濾過胞感染等の晩期の合併症が少ない、後者は強力な眼圧下降効果が期待できる反面、術後の管理が煩雑で視力低下につながる合併症の危険性が比較的高いといったが特徴がありますが、この2術式だけでは種々の状態の緑内障患者さんすべての要望・要求を埋めることは困難で少なくないアンメットニーズが存在しました。

このような背景のなかで、近年大きな変革が2つありました。

1つは、低侵襲緑内障手術(MIGS)と呼ばれる一連の眼内法による流出路再建術の登場です。
本邦では、iStent、カフークデュアルブレード、マイクロフックabinternoトラベクロトミー、スーチャートラベクロトミー眼内法等が代表的なMIGS術式として行われています。
MIGSは、眼表面への低侵襲性や白内障手術との相性の良さから、多剤併用と従来の観血手術の間を埋める眼圧下降治療法として定着してきました。

もう1つは、瘢痕化が起こりやすい角膜輪部をバイパスし眼球赤道部に房水濾過を行うチューブシャント手術の登場です。
本邦では、アーメド緑内障バルブとバルベルト緑内障インプラントが保険診療で行われています。
チューブシャント手術は、トラベクレクトミーの効果が期待できない症例で、トラベクレクトミーと毛様体破壊術の間を埋める選択肢を提供しています。
また、マイクロパルスを用いた毛様体光凝固術は、MIGSとして、あるいは、トラベクレクトミー後の治療法として、両端の選択肢となる可能性があります。

以上を、以下のごとくに分類しました。

[su_spoiler title=”MIGS関連” open=”yes” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]
[_su_spoiler title=”ロトミー系” open=”yes” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]
[__su_spoiler title=”トラべクトーム” open=”yes” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]

トラベクトーム手術研究会発売元のKOWA によると、

  • 結膜・強膜を切開せずに、角膜を1.6mm切開し、専用機器を使い内側から線維柱帯を電気焼灼し、房水の流出率を改善します。
  • 当初は、製造元であったNeoMedix社の強い意向によりライセンス制がとられていましたが、トラベクトームのすべての権利がMicroSurgicalTechnology社に継承されたことにより、ライセンスは不要となりました。今後は、講習会に代わり、新たに設けられたe-Learningを受講していただくことになります。
  • 所感:オワコン?

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[__su_spoiler title=”カフークデュアルブレード” open=”yes” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]

  • 平行に設置されているデュアルブレードにより線維柱帯を帯状に切除することができる。
  • トラベクトームが電気的に焼灼・切除するのに対して、2枚刃による切除であるため熱による組織障害を生じない。
  • マイクロフックに比べると大きいことから、虹彩や角膜内皮細胞を損傷しないよう前房内操作にはより注意が必要である。
  • 線維柱帯を帯状に切除するため,術後は周辺虹彩前癒着が生じやすく,ピロカルピン点眼が予防に効果的である。
  • 所感:マイクロフックに昇華?

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[__su_spoiler title=”マイクロフック” open=”yes” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]

  • マイクロフックトラベクロトミーには、ストレートフックと2種類のアングルフックがあり、それらを使用して鼻側と耳側線維柱帯・シュレム管内壁の切開を試みるデバイスである。
  • 従来のトラベクロトミー眼外法と比べ、手技が簡便で、直接線維柱帯を視認できる正確性から多くの施設で行われるようになっている。
  • 術前眼圧25.9mmHg→14.7mmHg、白内障同時手術で術前眼圧16.4mmHg→11.8mmHgで従来のトラベクロトミー眼外法と同等の効果がある。
  • 所感:従来のレクトミー、ロトミーの塗炭の苦行に比べれば簡単そうだが、緑内障ガイドラインのたまうに「十分な隅角手術の経験のある術者が行うべき手術であり,安易に行うことは厳に慎むべきである」マジ?
  • マイクロフック手術動画

  • cf.教育セミナー

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[_/su_spoiler]

[_su_spoiler title=”通糸系” open=”yes” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]
[__su_spoiler title=”スーチャートラベクロトミー” open=”yes” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]

  • スーチャートラベクロトミーは隅角鏡を使用して、眼内からシュレム管内に糸を挿入しその全周を切開して眼圧を下降させる術式であり、切開範囲が120度程度にとどまる従来のトラベクロトミーよりも大きな眼圧下降が期待できる。
  • 角膜にサイドポートを2~3か所作成して前房内を粘弾性物質で満たし、鼻側の線維柱帯の一部を眼内から切開する。その後、糸をシュレム管内に挿入し,全周通過した場合には糸の両端を締めて線維柱帯を360度切開する。
  • 術後の合併症としては.前房出血と一過性眼圧上昇がある。

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[_/su_spoiler]
[_su_spoiler title=”毛様体凝固系” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]
[__su_spoiler title=”マイクロパルス” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]
2023/3/20ごろ、掲載予定
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[su_spoiler title=”チューブシャント関連” open=”yes” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]
[_su_spoiler title=”アーメド緑内障バルブ” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]
2023/3/27ごろ、掲載予定
[_/su_spoiler]
[_su_spoiler title=”バルベルト緑内障インプラント” icon=”folder-2″ class=”my-custom-spoiler”]
2023/4/6ごろ、掲載予定
[_/su_spoiler]
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☞未掲載部分については、追ってご報告予定です。


記載履歴

  • 2023/2/20 トラべクトーム記載了
  • 2023/2/26 カフークデュアルブレード記載了
  • 2023/3/5カフークデュアルブレード加筆、マイクロフック記載了
  • 2023/3/12 スーチャートラベロトミー加筆
  • 2023/3/19 マイクロフック手術動画追加

MIGS(低侵襲緑内障手術)について(AIバージョン)

緑内障ポリサージェリー後で、眼圧⇧につき大学紹介した。手術リスクがある症例だった。
しかし、サクッと「繊維柱帯切開術を施行しました」と御返事。

ゔ~むぅ、よって、MIGSについて調べる。

まずは、ChatGPTのご託宣。

MIGSとは、低侵襲緑内障手術(micro invasive glaucoma surgery)の略で、眼への負担の少ない緑内障手術の総称です²³。眼圧下降効果は従来の手術に比べて弱めですが、合併症の少ない安全性の高い手術です²³⁴。

MIGSの手術は、目薬のみの麻酔(点眼麻酔)で施行可能で、5~10分で施行可能な手術です⁵。MIGSには、マイクロフック法とiStent (アイステント)とという2種類の手術があります¹³。

マイクロフック法とは、線維柱帯に小さな切開を入れて、目の中の水(房水)の流れを改善する手術です¹³。切開は、0.5mm以下の大きさで、自然に癒着します¹³。
iStent (アイステント)とは、線維柱帯に直接穴を開けて、目の中の水(房水)を排出するための小さなチューブを挿入する手術です¹³。チューブは、米粒の1/3の大きさで、目に入れても違和感はありません¹³。

白内障手術との相性が良く、白内障手術と同時に行って手術の負担を減らすことができます³⁵。

上記以外では、SLOT(suture trabeculotomy)67を聴き及ぶ。

が、ともかく、MIGSといえばマイクロフックで、マイクロフックといえば谷戸フック(らしい)7
かおりの逆フックなる、フックするかされたくなるHookもあるらしい。

諸事、次回以降。。


(1) 当院での低侵襲緑内障手術(MIGS)について|のみやま眼科 https://www.nomiyama-ganka.jp/migs
(2) 低侵襲緑内障手術(MIGS) | 岡本眼科クリニック. http://www.eyecenter.or.jp/service08/
(3) 緑内障手術 | 低侵襲緑内障手術を解説 | くりっくeye. https://clickeye.jp/disease/glaucoma-surgery/
(4) 低侵襲緑内障手術(MIGS:microinvasivegulaucomasurgery …. https://morii-ganka.jp/operate/migs
(5) http://www.eyecenter.or.jp/service08/
(6)Full article: Outcomes of 360° suture trabeculotomy with deep sclerectomy combined with cataract surgery for primary open angle glaucoma and coexisting cataract (tandfonline.com)
(7)達人に学ぶ!最新緑内障手術のコツ(全日本病院出版会) OCULISTA2021.1月号No.94


2023/3/5追記
「かおりの逆フック」は、緑内障マイクロフックとは無関係で、「核片の下に粘弾性物質を敷き、後嚢との間にスペースを作ったら、その空間で、核の下に逆レンズフックを潜り込ませます。先端は上を向いているので、後嚢とは屈曲部のみが接するため、破損の危険無く挿入出来ます」でした! が、ブラインドで「核の下に逆レンズフックを潜り込ませます」のは怖いな。flipflopする方がまだしも安全かな?

cf 森井式眼内レンズフック“かおりの逆フック” | | 手術器具 | 株式会社イナミ (inami.co.jp)

新生血管緑内障のVEGF治療

新生血管緑内障の患者さんを「観血的に御高療方よろしくお願い申し上げます」と大学病院に紹介した。すると、2日後に眼圧が40mmHg→20mmHg、前房出血も消失した状態で帰院された。

大学では、手術などはせず、アイリーア硝子体注射を施行しただけであり、しかもこれが著効したのである!


新生血管緑内障のVEGF治療は、欧米では2015年くらいから[1]日本では2019年前後から[2]普及した模様である。
緑内障診療ガイドライン(第5版)によると「VEGF薬の眼内投与の有効性が報告されている(エビデンスレベルC)」「手術前に抗 VEGF 薬の眼内投与を併用することで術中・術後合併症を抑制できることが報告されている(エビデンスレベルB)」なので、まずは、VEGFを打って、だめなら観血治療という流れであろう。


アイリーア以外のVEGF薬は、新生血管緑内障に対する保険病名が獲得できていない。最近、アイリーアは押され気味だが、この一点において、十分に存在意義がある。


1.Aflibercept for the treatment of neovascular glaucoma

2.Efficacy and Safety of Intravitreal Aflibercept Injection in Japanese Patients with Neovascular Glaucoma: Outcomes from the VENERA Study

2022/11/7追記
バイエル薬品によると「血管新生緑内障(NVG)の特許期限は2029年ごろ予定で、具体的な月日に関しては未定とのことです。後発品に関しては症例数も少なく、恐らく発売しないだろう」

「自分でできる人生が変わる緑内障の新常識」を読みました。

診察の結果「緑内障です」
 ↓
「点眼をしっかりして眼圧コントロールしましょう」となった場合、100%確率で

「目を疲れさせなければ大丈夫でしょうか?」
「スマホは見ないほうが良いでしょうか?」

と、質問がある。
当院では、緑内障の日常生活注意点.pdfを説明している。


今回、Nikkeiグッディで紹介されてた「自分でできる人生が変わる緑内障の新常識」を読んでみた。

著者は、平松類先生で、Youtubeでも発信されておられる。

この本から、エビデンスレベルA、Bを抜き出すと以下の通り。

  1. 目に良いといわれるルテインは緑内障にも良い。 A
  2. ビタミンA、Cは緑内障に良い。 A
  3. スクワットは眼圧を上げやすい。 A
  4. 運動習慣のある人のほうが、緑内障は進行しにくい。 A
  5. カシスは視野欠損の進行を抑え、緑内障の眼圧を下げる作用がある。 B
  6. マインドフルネスは眼圧を平均4mmHgほど下げる。 B
  7. ヨガの呼吸法は眼圧を下げる可能性がある。 B

一方、Nikkeiグッディのキャッチーな見出しは、

  1. 血糖値を上げやすい食品は避ける。 C
  2. メタボは緑内障にとって良くない。 C
  3. リラックスするために入浴と睡眠に工夫を。 D
  4. コンタクトレンズはあまりお勧めしない。 なし
  5. スマホやパソコンで目を酷使しないよう注意。 C

で、いずれもレベルC、Dか、レベル表示がない項目である。


●エビデンスのレベル分類

「自分でできる人生が変わる緑内障の新常識」では、

レベルA:複数のランダム化比較試験、またはメタアナリシスで実証されたデータ
レベルB:一つのランダム化比較試験、または非ランダム化比較研究で実証されたデータ
レベルC:レベルBより劣るが、一定のデータがあるもの
レベルD:参考にとどめておく。

一方、緑内障診療ガイドライン(第5版)では、

A(強):効果の推定値に強く確信がある
B(中):効果の推定値に中程度の確信がある
C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である
D(非常に弱い):効果の推定値がほとんど確信できない

 レベルCを「一定のデータがある」とみるか、「確信は限定的である」と読むかで、この本とNikkeiグッディ記事の印象はかなり異なる、と感じた次第。

「第19回兵庫県東部緑内障を考える会」を聴講しました。

●第一演者は近畿大学眼科教授松本長太先生でした。

これは良い!と思ったのは、「簡易に自分で緑内障チェックできるチャート」である。
上記チャートは、印刷⇒回転を自分でする必要があるが、クアトロチェッカーならディスプレイ上で完結し、さらに簡単。

眼科医会はACと協調して緑内障の啓蒙運動中だが、セルフチェック法として拡散したら?と感じた。

●第二演者は井上眼科医院特別顧問富田剛司先生でした。

緑内障OCTを見るうえで、GCCの上下差を見ることが大切である。

GCC(神経節細胞複合体層)の上下差注目とか、Temporal Raphe Signが前視野緑内障検出に有用、というお題は最近よく聞くトピックである。

緑内障点眼薬の比較

上から順に、キサラタン、トラバタン、タプロス、ルミガン、エイベリス。
ルミガンが一番下がるのは経験的に知ってたが、統計的にもそうなんだなっと。が、PAP(Prostaglandin-associated periorbitopathy)=色素沈着、睫毛異常、DEUS=眼球陥凹も一番キツいんですょね~。
エイベリスは眼圧降下効果はやや弱い?が、「DEUS、PAPは起きにくいんです」が売り文句。
すなわち、作用と副作用は表裏であり、「副作用が一切でないが、効き目は素晴らしい」は成立しない、ってこと。

前視野緑内障について

患者さんが「検診で視神経乳頭陥凹拡大を指摘されました」で来院。既に、ググリ済みで「緑内障ではないか?」と心配している。
当院検査で「OCTで視神経繊維菲薄化」を認めるが、「視野検査は正常」の場合
1.緑内障なのか、緑内障ではないのか?
2.治療する必要があるのか、ないのか?


1.の答え=前視野緑内障

前視野緑内障(preperimetric glaucoma:PPG)眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態を称する。

緑内障診療ガイドライン(第4版)
Pre-perimetric glaucoma – treat or monitor?

↑は緑内障は一つの連続したスペクトラム疾患であるということを意味している。

2.の答え=原則、経過観察する。治療することもある。

原則的には無治療で慎重に経過観察する。
しかしながら、高眼圧や、強度近視、緑内障家族歴など緑内障発症の危険因子を有している場合や、特殊あるいはより精密な視野検査や眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には、必要最小限の治療を開始することを考慮する。

緑内障診療ガイドライン(第4版)

↑で「眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には、必要最小限の治療を開始する」なら「治療開始」ぽいが、「原則的には無治療で慎重に経過観察する」ときて、自家撞着の感あり。
ま、緑内障学会の物言いは、優れて日本的なので、我々開業医はそのあたりを咀嚼して患者さんに説明する必要がある。


僕は、ガイドラインの条件を踏まえたうえで、患者さんの性格や反応を見極めた提案をすることにしています。
セカンドオピニオンの提示は重要であり、希望の方には緑内障専門外来や桑山先生をご紹介しております。

緑内障専門医から見たアイハンスの実力

2022/3/24のwebセミナーを聴講しました。

埼玉医大の庄司 拓平准教授は、緑内障分野で活躍されておられる先生です。埼玉医大では眼内レンズをほぼアイハンスに入れ替えたとのことでした。

緑内障患者さんは慎重な性格の人が多く、白内障手術を嫌がる人が多いが、白内障手術による眼圧降下作用が大いに期待できるという話。

ただし、従来、緑内障患者さんの眼内レンズとして多焦点レンズの選択肢がなかった。

緑内障の術後QOLにはコントラスト感度が重要なので、従来の多焦点レンズは回析格子を持つため、パワーロスが発生しコントラスト感度も低下するためです。

その点、アイハンスは「回析格子を持たない構造であるため、緑内障患者さんにおいても何ら問題なく『全取っ換え』」しているとのことでした。


当院でも、従来は緑内障や黄斑疾患があるため躊躇われた症例について、積極的にアイハンスを挿入していく予定。。

問題点は、現在プレミアム価値がついているため高額で(←患者さんには負担ありません)、入手が困難になりつつある点かな。

緑内障での視神経保護作用薬の話

神戸大学中村誠教授の講演を聴きましたので、以下に概略を述べます。(@2022/3/5の神戸市立医療センター中央市民病院眼科オープンカンファレンス)

点眼薬のアイファガンやキサラタンに視神経保護作用があることは知られているが、「ニコチンアミド(=VB3)の内服にも保護作用がある」ことが動物実験や臨床試験で示された。

動物実験

ニコチンアミドが、上図左の二つの代謝サイクルを回った後、NADHがでてくる。このNADHが、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化(←ATPを作る過程)で発生する様々な活性酸素に対する保護作用を有する。

上図中のNicotinamide mononucleotideというのは、今井眞一郎教授で有目になったNMNという抗加齢物質である。今、VB3が抗加齢とか神経保護におけるHotSpotなのだと認識させられる。

臨床試験

「ニコチンアミド1日1~3g+ピルビン酸1.5g~3g内服」したところ、視野増悪が有意に抑えられたという臨床試験(約1年)である。

何故、ニコチンアミドに加えてピルビン酸を加えているかというと、

上記の神経細胞内の代謝図に示すように、ピルビン酸はほぼ自由に乳酸と置換される。この乳酸はグルコースを介さずにTCAサイクルに取り込まれ直接的な栄養源となる。この乳酸が再びピルビン酸に戻されるときNADHが発生し、視神経保護作用を発生する。即ち、中枢神経系においては、グルコースは悪者で、乳酸こそが直接的にエネルギーを産み出し、かつ、視神経保護作用を有する物質である。

このあたりの議論も、アルツハイマーは脳の糖尿病とか、ケトン体が認知症対策に有効といった話題と通底するものがある。

以上より、私の感想。

1.ニコチンアミド(VB3)や乳酸・ピルビン酸内服が緑内障視野の進行予防に有効だというランダム化前向き臨床治験を行い、一般開業医が用いうるエビデンスを提供していただきたい。

2.緑内障での視神経保護と、認知症予防や抗加齢は不可分の関係にある。

3.抗加齢目的でも高価なNicotinamide mononucleotideではなく、ニコチンアミド(VB3)や乳酸・ピルビン酸でいいんでは?

第23回兵庫県眼科フォーラム「眼圧が低いのに進行する緑内障」を聴講しました。

2021/10/2、東北大学中沢徹教授のweb講義を受講しました。

眼圧が低いのに進行する緑内障には以下の3パターンがある。

1.実は眼圧が高い。

・プラトー虹彩(前眼部OCTで虹彩の根元が立ち上がる所見がある)の場合、緑内障リスクが高まる。

対処:白内障手術を行って水晶体を後方に後退させる。

2.実は血流が悪い。

・最低血圧-眼圧≦50mmHgだと緑内障リスクが高くなる。

・高血圧治療薬を内服し、過剰に血圧をさえることは緑内障リスクを高める。

・朝と夜の血圧を測って夜の血圧が低い場合にも緑内障リスクが高まる。

・フラマー症候群のうち「冷え性、低血圧、のどが渇きにくい、完璧主義」が緑内障と関連がある。

対処:内科と連携して血圧変動を減らす。フラマー体質の場合には当帰芍薬散内服。

3.実は酸化ストレスが高い。

男性で太っていて心疾患がある場合や、女性であごがとがっていていびきがある場合には睡眠時無呼吸症候群であることがあり、緑内障リスクが高まる。

対処:睡眠時無呼吸症候群の場合にはCPAP治療を行う。酸化ストレスが高い場合には、食事、運動、サプリメント内服

前回、「瞑想をすると眼圧が下がる」という論文を紹介したが、瞑想も酸化ストレスを下げるのかもしれない。

「日常生活で気を付けることはありますか?」ときかれた場合「血圧を下げすぎないようにして、運動、食事、瞑想」「当帰芍薬散やサプリメントも有効かも」と答える必要があるな。。