多焦点レンズと選定医療

日本で承認された多焦点レンズの手術は「選定医療」扱いとなっています。

「選定医療」とは、「追加費用を負担することで保険適用外の治療を、保険適用の治療と併せて受けることができる医療サービスの一種」「病院の差額ベッド代とおなじで本来保険給付される標準的医療に対する付加価値についての差額を自費として支払う制度」となります[1]

多焦点レンズのうち、日本国内「選定医療」の対象として認可されているのはアルコン社とアラガン社の眼内レンズのみです。

しかし、ヨーロッパでは、他の先進国に比較して眼内レンズ認可基準が緩いことから、新機軸の多焦点レンズがいろいろ発売されています。(眼内レンズメーカーは、まずヨーロッパで新製品を発表するほどです)

次回はそういった先進機能をもつ多焦点眼内レンズについてご紹介します。

保険診療、選定医療、自由診療のイメージ図

[1]「選定医療とは」厚生労働省 (mhlw.go.jp)


2023/7/31追記

FineVision社のFineVisionHPも選定医療に追加指定されました。

「iPS細胞由来RPE細胞移植」を聴講しました。

コロナの影響で、オンラインばかりだった学会ですが、久しぶりにリアル聴講が可能な「2大学合同眼科カンファレス@県医師会」が開かれたので参加してきました。

その中で「網膜色素上皮(RPE)不全症を対象としたiPS細胞由来RPE細胞移植の臨床研究計画」をトピックとして取り上げます。

神戸アイセンター(旧神戸中央市民病院眼科)は、加齢黄斑変性症滲出型に対してiPS細胞移植を行って安全性と有効性を確認してきました[1]

「この知見を活かして、萎縮型の黄斑変性疾患にもiPS細胞移植を行う」治験を開始するということです[2][3]

萎縮型黄斑変性疾患の対象病変としては、「RPE萎縮を伴う加齢黄斑変性、クリスタリン網膜層、網膜色素変性症の追円疾患、RPE関連遺伝子異常を伴う網膜色素変性」などが挙げられていました。

僕が重要だと思ったのは、萎縮型加齢黄斑変性症、つまり、かつて活動性があった黄斑変性が「枯れて」RPE萎縮を残して視力喪失をきたした疾患を対象にするということです。

滲出型加齢性黄斑変性は、硝子体注射(IVA,IVR)が標準治療としてほぼ確立しているのに対して、萎縮型黄斑変性症については、ほぼなすすべがない状態です。

従って、もし萎縮型加齢黄斑変性に対して効果が実証できれば、滲出型加齢黄斑変性よりもはるかに大きなインパクトがあると思います。

治験の参加要件は「視力0.3以下、対眼視力は問わない」ですから、対象者の範囲はかなり非常に広いことになる。

開業医にもエントリー細目の通知があるということでした。50名枠ですが、当院でも萎縮型の患者さんは多いので、条件が整い次第、神戸アイセンターの「変性外来」に対象患者さんをご紹介する予定。。

【2020/12/20追記】

正確なエントリー基準を問い合わせたところ、以下のようでした。

・臨床的にRPE不全症に該当する網膜変性疾患と診断されている。
・年齢20歳以上の男女である。蛍光眼底造影においてwindow defectを認める。
・矯正視力0.3以下、あるいは視野はゴールドマン動的量的視野(指標:V-4)で測定し視野20度以内、あるいはエスターマン静的量的視野で70点以下。

今回の臨床研究では、移植細胞とHLAが一致しない患者の組み入れを踏まえ免疫抑制剤投与を予定しております。そのため現時点では対象患の年齢の上限は設けておりませんがおおむね65歳ぐらいまでの患者を想定いたしております。

[1]加齢黄斑変性に対する自己iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植―安全性検証のための臨床研究結果を論文発表― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)

[2]神戸市:「網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植に関する臨床研究」について (kobe.lg.jp)

[3]効果判定の主要指標は、FAGのwindow Defectの縮小率

白内障多焦点レンズの種類

この数年で、長足の進歩を遂げた「多焦点レンズ」について

名称レンティスコンフォートアイハンスシンフォニー     シナジーヴィヴィティパンオプティクス
光学部デザイン分節状屈折型(2焦点)高次非球面エシェレット回折型(2焦点)エシェレット回折型(2焦点)+回折型(2焦点)波面制御型
回折型(3焦点)
特徴2 つの単焦点を組み合わせた独自の扇型デザイン。+1.5D のマ イル ドな加入度数により遠方・中間視力の獲得が期待される。近方は近用眼鏡が必要になる。単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズ。近方では視力が低下するため、老眼鏡は基本的に必要となる。加入度数は+0.5Dエシェレット回折により、広い焦点深度を持ち遠方から近方まで自然な見え方をする。(EDoFレンズ:Extended Depth of Focus:焦点深度拡張型レンズと呼ばれる)。加入度数は約+1.5D相当。EDoF型に、2焦点回折型を取り入れたモデル。連続焦点型と呼ばれる。PanOptixよりも近方を重視している。加入度数は公表なし。波面制御テクノロジーによる焦点深度拡張型レンズと呼ばれる。加入度数は不明。実生活での作業に適した遠方・中間・近方にピントが合うように設計されている。2焦点眼内レンズに比べて眼鏡の依存度が低減。加入度数は、+1.60D +2.48D
焦点広い焦点:遠から中距離(∞~70cm)加入度数は+0.5Dだが脳アダプテーションにより70cmまで見える。広い焦点:遠から中間(∞~50cm)3焦点:遠方 (5m以上)、中間(60 cm ) 、近方(35cm)広い焦点:遠から中間(∞~50cm)3焦点:遠方 (5m以上)、中間(60 cm ) 、近方(40cm)
光エネルギー配分遠方(55%) 近方(40%)遠方(ほぼ100%)
EDofなのでdataなしEDofを含むのでdataなしEDofなのでdataなし遠方44%中間22%近方22%
光エネルギーロス5%ほぼ0%8%遠方8%、近方18%ほぼ0%12%
ハロー・グレア(リビング)
ハロー・グレア(買物)
ハロー・グレア(夜間運転)
生産ドイツ(オキュレンティス社)アメリカ(J&J社)アメリカ(J&J社)アメリカ(J&J社)アメリカ(アルコン社)アメリカ(アルコン社)
レンズ代金(乱視なし)全額保険適応全額保険適応片眼 190,000 円片眼 270,000 円片眼 270,000 円片眼 270,000 円
レンズ代金(乱視あり)全額保険適応全額保険適応片眼 240,000 円片眼 330,000 円未対応片眼 330,000 円
ハローグレアの程度極小
一言運転される方や、多少見え方の質が落ちても保険診療内でなるべく広い範囲を見たい方におすすめ。ほぼ単焦点レンズで、しかもある程度中間距離がみえる。手術適応の幅が広い。多焦点眼内レンズの中では見え方の質が良い夜間車運転が少なく、近方を重視する人におすすめ。遠方がくっきり見え、夜間運転にも適する。近方には眼鏡が必要かも。最新型で全距離対応だが、近方距離が40cmでやや遠い。

【結論】

多焦点レンズを選ぶ場合、車運転するならPanOptix、近方作業重視ならSynergy。ハログレ―最小化を希望するならVivity.

<2021/12/5追記>

保険適用、夜間運転ならアイハンス一択とします。現時点で究極のプレミアムレンズ。

<2022/6/26追記>

自費診療ならミニウェルフュージョンシステムを推します。

<2020/12/28追記>

見え方のシミュレーションは、 比べてわかるレンズの違い がわかりやすいと思う。

<2022/11/19追記>
HOYAから、アイハンスと同思想のレンズが+1.0加入で発売される予定とのこと。HOYAはPanOptix対抗品もだすらしい。

<2023/4/4追記>
AMO談「SynergyはPanOptixよりも近方がみえる(35cm vs 40cm)。そのため眼鏡不要率が90% vs 70%である。一方、その代償としてハログレスターバーストは多い。」したがって、都会は近方作業が多いためSynergy普及率が高い。一方、田舎は車運転が多いためPanOptix普及率が高い。
一理あるかも。

<2023/7/25追記>
ヴィヴィティの情報、画像を追加記載しました。

<2023/7/31追記>
眼内レンズの選択表をつくりました。