白内障と生体リズム

睡眠や深部体温に代表される生体リズムは,内分 泌・代謝・循環・精神機能など多くの生理機能に関 与しています。

この生体リズムの乱れは肥満・脂質異常・糖尿病・高血圧・精神障害・うつ・脳卒中・虚血性心疾患・がんなどの多くの疾病と関連します。

ヒトの生体リズムには網膜での光受容が最も重要で、網膜神経経節細がブルーライトを感じて生体リズムを調整しています。

白内障があるとちょうどブルーライトの波長が遮断され.十分に眼内に届かないため生体リズムが障害され、生体リズムを崩すと考えられています。

最近のPCは夜間になるとブルーライトが軽減される仕組みになっている。

ところが、白内障があると、「ブルーライトを一日中カット」→「朝から晩まで夜間状態だと体が勘違い」となるのな。

白内障と全身疾患

白内障で夜間血圧上昇、動脈硬化のリスクが増す。

住環境や生活習慣が健康に及ぼす影響を調査することを目的とした大規模コホートスタディ「平城京スタディ[1]」の結果に基づいて述べます。

通常、血圧は日内変動 があり、夜問で血圧が最も低くなります。

白内障があると、この夜間血圧低下が発生しない比率が1.8倍となっていました (表1)

夜間血圧低下が発生しないと、心血管障害が起きやすくなるため、白内障がある心血管リスクが高くなるということになります。

さらに. 頭動脈エコーで血管壁の厚さを測定すると、白内障があると動脈硬化が1.6倍多く,心筋梗 塞や脳卒中のリスクが高くなっていることがわかりました。

「全身疾患リスクを軽減するには、白内障を解消する必要がある」ということ。。かな?


[1].平城京スタディ:住環境や生活習慣が健康に及ぼす影響を調査することを目的に、2010年9月に開始した大規模前向きコホート研究(参加者数 3012名)

白内障と認知症

視力が悪いと認知症リスクが高い

高齢者を対象とした眼科コホートスタディ「藤原京eyeスタディ」[1]の結果に基づいて述べます。

視力0.7以上:認知症が5.1%

視力0.7未満:認知症が13.3%

視力0.7未満では 認知症のリスクが2.9倍高く、年齢、性、BMI、教育歴などを考慮しても2.4倍も高かった。

白内障手術は軽度認知機能低下を防ぐ

白内障手術既往群(668名) と非手術群(2096名)の2群間で統計分析を行ったところ、視力の因子とは関係なく白内障手術で軽度認知機能障害のリスクは2割程度防げることが判明した(表2)

視覚は人間の情報入力の80%といわれるから、良好な視力とが、良好な脳機能の維持に欠かせないことは間違いないでしょうね。。


[1].藤原京eyeスタディ:2012年の眼科検 診で 70歳以上(平均年 齢76.3歳)約2900名が参加した大規模眼科疫学調査

IC-8について

今までに述べたレンズと全く違う原理で作られた眼内レンズです。

ピンホール効果により、焦点深度深化を図るというものです。

IC-8

ピンホールカメラと同様に絞りをきかせることによって、焦点深度を獲得します。

実際、MTF曲線を見ると、非常に良好な成績ですね。

MTF

ただし、

1.患者満足度が必ずしも高いわけではない。

2.切開創が3.5mmと大きい。マスクが曲げ応力に弱いため,過度に曲げてしまうと損傷してしまうため。

アイデアとしては非常によいですね。

「目がよくなるメガネ」として市販されているピンホール眼鏡をそのままIOLに使うという心意気はよい。

ただ、日本国内では臨床例が少なく、上記のように、実際例ではやや満足度が低いようです。

ミニウェル・レディについて

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MiniwellReady外観

EDoF(焦点深度拡張型レンズ)の先駆けとなったレンズで、アラガン社のsymphonyがでるまではEDoFレンズの代表でした。その後の一連のEDoFの流行の発端を作ったレンズで、現在でも、一部手術者に絶大な人気があります。

それは「ハロー、グレア、単眼複視など、多焦点 IOL で一 番問題とされた問題点を大部分取り除くことに成功している」という大きな利点があるためです[1]

ただし、

  1. やや近方視力が弱い。
  2. 日本国内で認可されていないために、手術代、診察代がすべて自費となり高価となる。

という問題点があります。

保険適用、選定医療を用いるなら、似た性格のSymphony、ActiveFocusを用いることが多いです[2]

なお、当院では、海外で実際に使用されている先進的な多焦点眼内レンズを取り寄せ、レンズを選択できる体制を整えております。


[1]静的固定レンズが多焦点性,焦点深度を拡張させるための手法としては,①回折格子,②屈折加入,③小開口,④球面収差,⑤コマ収差の 5 つの手法に限られています。①,②はすでに多焦点 IOL として用いられており、⑤は像質が不良であることより,実質的には①から④の手法が現実的です。その④の球面収差を利用した機構をもちいたものが MiniWell Ready です。光学的デザインにより焦点深度を伸ばすことを可能にし,連続的な焦点を実現しています。近方加入度数は 3.0D です。

[2]Symphonyはエシュレット回折型のEDoF、ActiveFocusは狭義のEDoFではありませんが、低加入度数の多焦点IOLはEDoFと似た臨床結果 が得られます。IOL&RS誌 Vol. 33 No.1 2019 p.38