「網膜内ドーパミンが近視の眼軸長伸長を抑制する」という論文を読みました。

Dopamine signaling and myopia development: What are the key challengesが元論文です。いろいろな論文を総覧したメタアナリシス論文です。

ドーパミンというと、パーキンソン病で低下し、幸福感と関係する重要な脳内トランスミッターという文脈で語られることが多いです。

そのドーパミンが、網膜内においては眼軸長伸長を防止しているというので、やや驚きました。

以下に要約を示します。

Retinal DA, released in response to light, is a stop signal for homeostatic control of myopic eye growth.

光に反応して放出される網膜内ドーパミンは、近視の眼伸長の調整過程における停止信号である。

If DA levels and/or signaling are decreased during myopic eye growth, then increasing DA levels or DA receptor activity would be predicted to prevent myopia. 

もし、ドパミンレベルやドパミンシグナルが近視眼軸長伸長で減少してるのであれば、ドパミンレベルやレセプター活性が近視抑制を予測するであろう。

These observations suggest that a pharmacological approach to the treatment of myopia may be more efficacious than an environmental intervention.

以上の観察より、近視治療の薬物的手法が環境要因の介入(訳注:明るい太陽光などを浴びることを意味している)よりも有用かもしれないと示唆される。

In general, these studies show that activation of D2-like receptors by subconjunctival or intravitreal agonist injection mimics the protective effect of periods of unobstructed vision on FDM.

一般的に言って、これらの研究から、ドパミン2レセプターを結膜下あるいは硝子体内にドパミン作動薬を注入することによって、FDM(form deprivation myopia,形態覚遮断近視,視性刺激遮断近視)の非遮蔽眼と同様の防御効果がえられることを示している。

From a therapeutic perspective, local administration of apomorphine (APO) and DA by eye drops may achieve therapeutic effects on myopia, with reduced systemic side effects. 

治療的観点からすると、アポモルフィンやドパミンの点眼によって、全身副作用を抑えつつ、近視治療効果を上げることができるかもしれない。

Furthermore, bi-phasic effects have been reported for APO and the D2-like agonist quinpirole on control of myopia: high doses of APO inhibit FDM, while low doses promote FDM in guinea pigs (Jiang et al., 2014b); in contrast, quinpirole inhibits myopia at low doses and promotes myopia at high doses in C57/BL6 mice (Zhou, unpublished data)

さらに言うと、アポモルフィンやD2関連作動薬クインピロールの近視に対する影響は二相性がある。高容量アポモルフィンはモルモットにおける視性刺激遮断近視を抑制するが、低用量だと逆に促進する。一方で、クインピロールはマウスの近視を低用量では抑制するが、高容量では促進する。

坪井先生が提唱する「バイオレットライトが近視抑制に有効」というのも、網膜内ドパミンレベルを上昇させることによって効いてるのかもしれない。

緑内障治療で埋め込み型徐放性薬剤デリバリーシステムが実用化されつつあるのと同様、オルソケラトロジーレンズやDIMSレンズ(デフォーカス組み込みレンズ)にドパミンアゴニストを含ませるような方式が開発されると理想的でしょうね。

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