マインドフルネスと緑内障

「瞑想をすると眼圧が下がる」「繊維柱帯における遺伝子発現も変化する」という、やや香ばしい感のある論文を読んだ。

Effect of Mindfulness Meditation on Intraocular Pressure and Trabecular Meshwork Gene Expression: A Randomized Controlled Trial

毎日45分間の瞑想を3週間にわたって続けたところ

①最大限点眼を行った場合(≒1mmHg)よりも、眼圧が下がった(≒5mmHg)

②繊維柱帯において拡張作用のある遺伝子が発現し、抗炎症作用のある遺伝子が発現していた。

①はともかく、②はマジ?という気はする。

過去にも、自律訓練法が有効であったとする論文もあるので、精神のありようと眼圧には何らかの関係があるのだろう。

僕の感想

緑内障気質は、昔から指摘があり、瞑想により眼圧を下げることは可能かもしれない。

・「日常生活で気を付けることはありますか?スマホとか見なければ緑内障進行しませんか?」とよくきかれる。そういった場合「マインドフルネスを心がけましょう」かな。

・②については、厳密な追加検証を期待する。

ロービジョンケアについて

日本眼科医会から「クイック・ロービジョンケアハンドブック」が発行されたので引用する。

●眼科医の一言は極めて重要
●良いムンテラのポイントは、病名はっきり、寄り添う
一言、前向きな表現
●情報提供が重要

要点は、視力予後不良な方に対して、①正確な情報提供 ②前向きな指針 ということを同時に行う必要性があるということ。

 

緑内障の末期であるとか、高度近視による黄斑分離症を起こしている方に対してどのような説明をするかは、常に苦慮する。正確な情報提供に重きを置きすぎると患者さんを失望させることがあり、一人の人間として心苦しい。一方で、根拠が薄い楽観論を陳述するのは、エビデンスに立脚すべき医師として忸怩たる思いもある。

患者さんの年齢、理解力、性格を勘案したうえで、①②の狭間の奈辺を得るかは、今のところAIにはできない作業であろう。開業医としてのraison d’etreなりもそこらあたりにあるやもしれない。

草枕の顰に倣えば、「知に働けば嘆かしむ、情に竿さば誤れる」といったところかしらむ。。とかくに、目医者はいきにくい。

第17回オキュラーサーフェス研究会をweb聴講しました。

特別講演は、内野美樹先生の『アイペインとドライアイの治療戦略』であった。

以下、要約を示す。

ドライアイの痛みには、末梢痛だけではなくて、神経痛+中枢痛が関与する。

神経痛+中枢痛に対する治療として

・内服薬:リリカ→サンバルタ→タリージェ

・星状神経節神経ブロック

・鍼灸治療

ストレス軽減療法:強みをうまく利用する。引きこもりを出すことができる先生がいる。Value of considering psychological strength in patients with eye pain.


僕の経験では、中枢性の要因が大きい患者さんに対して薬物治療は効かない。

今回の講義でいうところの「ストレス軽減療法」が奏功する。すなわち、「エクササイズして、規則正しい睡眠を取り、バランスが取れた食生活を送る」である。

一方、そういう患者さんに限って、つらい症状を一発で消去できる薬・サプリメントを探し求めている。曰く「体がだるいので運動はしたくない」「食生活は変えられない」「睡眠薬をやめるわけには行かない」…

それらを「チルチルミチルの青い鳥症候群」と、僕は呼んでいるのである。

ギガっこ デジたん!

日本眼科医会の啓発コンテンツです。

本会では、文部科学省によるGIGAスクール構想にあわせ、1人1台デジタル端末を利用する子どもたちのために、目の健康啓発マンガ 『ギガっこ デジたん!』のポスターとリーフレットを企画制作しました。

作画がいい。誰が書いてるんだろう。

↑のyutube動画の声優さんもいい声だ。内容は、もちろんPolitically and Medically Correct

 

しかし、「ギガっこデジたん!」って命名は、、どうなんだろう。。

アレルギー治療薬を含んだコンタクトレンズについて

J&Jから アレルケア という名称のコンタクトレンズが今秋発売される。このコンタクトレンズはHEMA素材にケトフェチン、つまり、ザジテンを浸透させている。この発表文書を読む限りにおいては、日本で世界に先駆けて承認されたようであるが、日本語での情報はまだない。

コンタクトレンズをしている患者さんで、アレルギー症状を訴える人は非常に多く、「使用していてレンズが曇る」「一日もたない」「目が充血する」という人は実に多い。

従来、そういう人に対しては、抗アレルギー剤の点眼薬を処方してきたが、このレンズを処方すれば、点眼不要となるかもしれない。

そして、ザジテンを浸透させたdrug delivery lensが承認されるなら、緑内障治療薬をコンタクトレンズに浸透させたレンズも承認されるかもしれない。そうなれば、緑内障治療も根本的に変革されるであろう。

オルソケラトロジーの新レンズを導入しました

以前に告知していた、オルソケラトロジーのブレスオーコレクトを導入しました。

従来、当院で使用してきたオルソKレンズは、歴史が長く、その分多くの処方テクニックが蓄積されています。一方、フィッティングに職人技的な調整が必要となることがあり、敏感な患者さんの場合にはどうしてもあわないことがあることがありました。

一方、このブレスオーコレクトは

「レンズやわらかいので破損しにくい。日本製の為、日本人の目に合う」

レンズ処方の計算を瞬時に行うプログラムを搭載したタブレット型端末「フィッティングマスター」により、何度もレンズ試着を行うことなく、高い確率でベストなレンズを算出することが可能です。

というのが売り文句であり、職人技や技術知に頼らず処方することができるかもしれない。

今までは、定額制がなかったため、導入をためらっていたが、この度同様に定額制が導入されたので本格的に採用としました。

ただし、一括払い制、定額制ともに若干高価で、交換条件もややきついかな?

オルソKはメニコンというメルスプランというサブスクプランに通じているメーカと組んでいる点、少し有利かもしれない。対して、ブレスオーコレクトの取り扱いは、シード社である。

親子で学ぶ近視サイト

親子で学ぶ近視サイトは、子供にも理解できるような工夫がされていて、しかも、学術的に矛盾がないようにかかれている。

このなかで、しりょくけんさ は、視力表をA4紙に印刷して自宅で視力検査ができるので、お勧めである。

近視の抑制・治療 の頁に書かれてあることは、以前このブログで紹介したことと同一。

「多焦点ソフトコンタクトレンズによる予防」はよく言及されていて、すぐにでも使えそうに書いてあるが、実際にはハードルが高い。それは多焦点レンズは、日本国内では正式認可されておらず、個人輸入しなくてはならないからである。その場合、レンズの度数が合わなかったら、再々輸入、再々々輸入となって不便なこと、この上ない。

一日も早く、DIMSレンズが正式認可さされることを願う。その場合、アトロピン点眼、オルソケラトロジー以外に大きな治療の柱ができるので、近視患者さんへのメリットは大きいと思う。

水谷隼選手の羞明について

男女混合ダブルスの準々決勝で、歯を食いしばって「ぅあ’~」と叫びつつスマッシュを決めてる姿には感動する。
僕は軟式テニスしてたので、決まった時に「よっしゃー」とか、「うちこんでけ~!」というのはよく分かる。卓球ダブルスは軟テと通じるところがあると感じる次第だ。

閑話休題

「水谷選手がLEDがまぶしい」「眩しさを軽減するサングラスをかけている」と仄聞する。これは、「LASIK後の高次元収差発生によるハロー現象」と眼科医なら考えるだろう。「LASIK後の検診では全く問題ない」と言われたというが、LASIK後数年で視力が出ていても、「何か見えにくい」「かすむ」という人は実際よくある。

極々軽度のサハラ砂漠症候群が発生してるのだと思う。卓球選手は高度の動体視力が必要とされるようであるから、臨床的に「問題なし」であっても、卓球的には「大いに問題あり」となるんだろう。

タイガーウッズがLASIKを受けたということでゴルフ選手間でも流行したが、最近は以前ほど聞かなくなってきていると感じる。水谷選手もオルソケラトロジーにしておけばよかったのでは?

ブルーライトカット眼鏡について

「ブルーライトをカットする眼鏡は目に良いですか?」とよく言われるが、はっきりとしたエビデンスはないようです。

日本眼科医会の見解は以下の通りです。

  1. デジタル端末の液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光よりも少なく[1]、網膜に障害を生じることはないレベルであり、いたずらにブルーライトを恐れる必要はないと報告されています[2]
  2. 小児にとって太陽光は、心身の発育に好影響を与えるものです。なかでも十分な太陽光を浴びない場合、小児の近視進行のリスクが高まります[3]。ブルーライトカット眼鏡の装用は、ブルーライトの曝露自体よりも有害である可能性が否定できません[4]
  3. 最新の米国一流科学誌に掲載されたランダム化比較試験では、ブルーライトカット眼鏡には眼精疲労を軽減する効果が全くないと報告されています[5]
  4. 体内時計を考慮した場合、就寝前ならともかく、日中にブルーライトカット眼鏡をあえて装用する有用性は根拠に欠けます。産業衛生分野では、日中の仕事は窓ぎわの明るい環境下で行うことが奨められています[6]

眼鏡やPC業界のトークに乗せられないようにする必要がありますかねー。


[1].綾木雅彦、他.住宅照明中のブルーライトが体内時計と睡眠覚醒に与える影響.住総研研究論文集 2016;42:85-95https://www.jstage.jst.go.jp/article/jusokenronbun/42/0/42_1408/_pdf/-char/ja
[2].Duarte IA, et al. Ultraviolet radiation emitted by lamps, TVs, tablets and computers: are there risks for the population? An Bras Dermatol 2015;90:595–597
[3].Eppenberger LS, et al. The role of time exposed to outdoor light for myopia prevalence and progression: A literature review. Clin Ophthalmol 2020;14:1875-1890
[4].American Academy of Ophthalmology. Should You Be Worried About Blue Light?https://www.aao.org/eye-health/tips-prevention/should-you-be-worried-about-blue-light (参照2021-04-12).
[5].Singh S, et al. Do blue-blocking lenses reduce eye strain from extended screen time? A doublemasked, randomized controlled trial. Am J Ophthalmol, doi: 10.1016/j.ajo.2021.02.010. Online ahead of printhttps://www.ajo.com/article/S0002-9394(21)00072-6/abstract
[6].Lowden A, et al. Working Time Society consensus statements: Evidence based interventions using light to improve circadian adaptation to working hours. Ind Health 2019;57:213–227https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6449639

「普段から運動していると黄斑変性症のリスクが軽減する」という論文を読みました。

Voluntary Exercise Suppresses Choroidal Neovascularization in Mice が原文です。

tldrで表示します。

実験目的

マウスの新生血管に対する自発運動の影響を調べた。

実験方法

予め4週間、マウスを回転ホイール付きのケージと、ホイールなしのケージに入れておいた。各グループに対して、レーザーで新生血管を作った後、どの程度回復するのかを見た。

結果

すると、回転ホイール付きのケージに入っていた運動マウスは、ホイールなしの運動なしマウスよりも新生血管の容量が45%も縮小していた。

予め運動させず、新生血管を作ってから運動しても効果はなかった。

読後感

普段から運動していると、加齢黄斑変性症に対しても効果があるということは、経験的に知られていたのですが、動物実験で示されたのは初めということです。

Let’s get physical(exercise)!