眼内レンズ展望 アイハンス vs Vivity

当院では、多焦点レンズ以外、全症例でアイハンスを挿入している。

そのためか、他院で「どんなレンズを入れても一緒」といわれ、当院で「アイハンス挿入を希望して来院」という患者さんがおられる。

思うに、くだんの医師は自分では手術をしていないか、少なくとも術後の患者さんから印象を聞いてないのでは?と思う。直接、患者さんの反応をきけば、アイハンスの満足度は大きい。

ただ、アイハンスレンズは入手困難で、当院でも苦労している。このアイハンス一強に変化が訪れることになりそうだ、というのが今回のお話です。


そのレンズとは、アルコン社が発売予定のVivityです。

  • 現在、日本では未認可。→米国では2020年春に認可済みで、国内承認は、2022年秋口ごろという噂。
  • 非回折型でEDof型。光エネルギーロスは0%。夜間運転時のハロー、フレアー、スターバーストはなし。→「XWaveテクノロジー」とアルコン社は称している。
  • 中間は70cmくらいまでみえるが、近方視力については不十分。→完全に眼鏡なしにはできない。
  • 緑内障や黄斑疾患を持つ患者さんに対しても使用可能。

要するに、アイハンスと完全に被るプロファイルです。
アイハンスと同様、保険適用レンズとなるでしょうね、多分。


アルコン社とAMO社は、白内障手術業界での2大ライバル。
手術機械ではOzil(Alcon) vs Siganature(AMO)、回折型レンズではPanOptix(Alcon) vs Synergy(AMO)というように、切磋してきました。
今までは、Alcon社が先んじてきましたが、非回折型EDoFレンズについてはAMO社が先行ですね。


2022/5/25追記

  • VivityはActiveFocusの後継となるべく、「アイハンスよりも多焦点的なレンズ」に仕上がっている由。感触としてはMiniWellに近い?
  • 保険診療ではなく選定医療対象になるよ~な話。噂レベルだが、かなり安い価格の模様。→ ActiveFocus並みの高価格になるらしい。
  • アルコンの中の人で、2番目にエラい人がVivityを挿入する手術を受けた。今まではPanOptixをいれてたとのこと。

2022/6/12追記

  • これをみると、アイハンスよりも近方が見えるように工夫しているように見える。

2023/4/18追記

  • 承認済みで、2023/6月発売予定。パンオプティクスと同価格。入荷少量の可能性。

水晶体嚢拡張リング(CTR)講習会を受講しました。

水晶体嚢拡張リングは、今までドイツから個人輸入していたのだが、このたび国内メーカーのHOYAからも発売されることになった。

ただし、HOYAから購入するには講習会を受けないといけない。

白内障手術に習熟した術者が、日本眼科学会の指導下で製造販売業者等が実施する講習会を受講した上で、使用する必要がある。

講習会の内容は、CTRを使っている術者なら皆知っているような内容であったが、注目したのはインジェクター一体型のCTRが発売されるということでした。

いままでは、「拡張リング出して、インジェクターとシンスキーフックも!」といって、個々にセッティングしていたが、一体型だと「拡張リングインジェクター出して!」の一発完了だ。

チン氏帯が脆弱というのはヤバめな状況なので、すぐ出せてすぐ挿入できるというのは素晴らしい。

2022年の当院の展望(手術編)

当院の白内障手術は量を追わず、短時間手術も求めず、じっくり、丁寧、無痛な手術。そして、角膜浮腫が一切なく翌日から翌日からはっきり見える、を目指している。

上記目標については、ほぼ々々達成できている。

加えて、2021年11月からは、眼内レンズにはアイハンスを積極採用しており、遠方視力を保ちつ、かつ、中間視力も獲得できるようにした。しかも、グレアハローは僅少なのである。

そういう意味において、白内障サージャンとして希求できる歓び、患者さんの幸せを最大化しうる年としたい。

中橋知沙 画

AMOテクニスのアイハンス眼内レンズについて

日本国内では2021年11月から新発売のレンズである。高次非球面設計により、単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズとされる[1]

デフォーカス曲線は以下の通りである。

黒線は非球面レンズ(従来の単焦点)、灰色が非球面高次レンズ(アイハンス)

「通常は認識しない高度収差のパワーを中間距離に振った」ということのようで、AMOが得意とする焦点深度拡張の亜型ともいえる。グレアやハローも単焦点レンズと同程度である[2]

保険適用できる視覚領域の拡張レンズとしては、レンティスコンフォートが上市されているが、今一人気がない。おそらく、単焦点レンズと比較してのハローやグレアの増加デメリットが嫌われるのであろう。

その点、このアイハンスは名前が示す通り、「単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズ」なので、ほぼ問題ないように思える。さまでは、近見には振っていないため「老眼鏡は基本的に必要となる」が、その点は従来の単焦点レンズでも同じだ。

当院では、近見に特化した合わせ方を希望しない患者さんに対しては、この眼内レンズを推していく所存。実は、仕入れ価格はわりかし高いのだが、保険適用レンズなので患者さんの負担額は単焦点レンズと全く同一である。

そのことによって、より多くの患者さんが、白内障手術後により良い体験を享受してもらえれるのであれば、眼科医冥利に尽きる、と云へる。


1.Visual outcome, optical quality, and patient satisfaction with a new monofocal IOL, enhanced for intermediate vision: preliminary results

2.Clinical evaluation of a new monofocal IOL with enhanced intermediate function in patients with cataract


2022/9/11追記

先日、40代の若い患者さんの片眼にアイハンスを入れたところ、やや霧視が発生するので、対眼には単焦点を入れてほしいとの希望があり、ALCONクラリオンを挿入した。
すると両眼でかなり近いところまで見え、かつ、霧視症状も文字通り霧散したとのことであった。
これは、亜Monovisionともいうべき手法であり、Miniwellをいれるよりも保険がきくし、良き?という感触を得た次第。←この手法は非常に評価が高く、多くの反響を呼んでます as of 2023/5/15.

2022/9/12追記

外来で「アイハンスにトーリックレンズはあるのか?」とご質問いただきました。回答は「存在はするが、市場には存在しない」ということです。
担当者は「サーセン、生産が追い付かないッス」としか言わないんで、セガサターン事案を危惧しております。。

2024/8/262追記

現在、当院ではアイハンスのトーリックレンズを積極的に採用しております。

AMOテクニスのシナジー眼内レンズについて

AMOテクニスのシナジーレンズは連続焦点型と称されている。MRさんの話では、EDoF型(=焦点深化型)と差別化する目的で、商業的につけられた名前ということである。英文論文でも、continuous range of vision presbyopia correcting IOL と紹介されている[1]

実は、この連続焦点型の実態は従来の2焦点型レンズと、EDoF型レンズを合わせたものであり、「近方約35cmから遠方まで落ち込みなく連続的に見えることを特徴としています」ということである。

当然、3焦点型のPanOptixとの比較が気にあるところであるが、AMOの資料によると、下記のとおりである。

上記のうち、3焦点IOL BがPanOptixのようである。(ちなみにIOL AはFineVision、IOL CはAT Lisa)AMOが出してる資料だが、「大きな谷のないデフォーカスカーブ」が、描かれている。

ただし、以前述べたように、2焦点型とEDoF型の両方の欠点、すなわちスターバーストとグレアが出現するようではある。

MRさんが語るところによると、「関東ではPanOptixを上回っている。一方、関西圏ではいまだにPanOptixの方が優勢」らしい。☞詳説

当院でもほとんどがPanOptixだから首肯できる。

次回は、話題沸騰(?)のアイハンスについて述べる予定。


なお、AMO会社はいまやジョンソン&ジョンソン配下であるとこのたびわかった。医療業界は、合従連衡が激しいなと感じる次第である。

1.Clinical Outcomes With a New Continuous Range of Vision Presbyopia-Correcting Intraocular Lens

第68回神戸眼科臨床懇話会を受講しました(レンティスコンフォート関連)

ほぼ2年ぶりの実会場での勉強会でしたが、受講者はまばらだった。

演題は、稲村眼科クリニック 稲村幹夫先生による、「最近の単焦点・多焦点レンズ選びと私の経験」

稲村先生も息の長い先生である。白内障サージャンは、昔の名前で出てる人が多い。手術方法の根幹部はあまり変わっていないからだろう。

レンティスコンフォートに関する話題が主で、

遠方・近方をしっかり見たい人にはコンフォートは難しい。中間距離が大事なひとにはいい。

コンフォートを片眼に適応したうえで、不満があるような場合には、対眼には、単焦点眼内レンズか、アイハンスを挿入する。

トーリックコンフォートは軸ずれを起こすことがある。横設置が縦になる90度ずれが発生することがある。テンションリングを入れるとずれにくくなるかもしれない。

前回の絶賛講演とは違って、一歩引いた印象を受けた次第である。


講演中でよく引用されていたAMO社のアイハンスや、シナジーについては、次回述べる予定。

レンティスコンフォートWEBセミナーを聴講しました。

2021/10/14(木曜日)、金沢医科大学 佐々木洋先生の講義を受講した。

レンティスコンフォートはハロー、グレア、スターバーストが発生しにくいため、夜間運転する人に適応があることは以前にも書いた

講義の概要

講義内では、他レンズとの比較画像をシミュレータで作成し発表されていたので掲示する。

上記画像の見え方を要約すると、

  • 単焦点はハローグレアはあまり出ない
  • 2焦点は強いハロー
  • 3焦点は中心部に比較的強いハロー
  • 焦点深度拡張型はスターバストが強い。
  • 連続焦点型は ハローとスターバースト両方が強い。
  • LENTISは単焦点と変わらない。

しかも、レンティスのハロー、グレアの経時変化は以下のように、1ケ月以上経過するとほぼ消失するとのことである。

単焦点レンズとの距離別の視力比較は、全距離で単焦点レンズを上回る成績である。

講義の結論

  1. グレアハローが少なく、全距離視力で単焦点レンズを上回っていて、保険適応できる。
  2. 「単焦点レンズしか使用できない症例以外すべて」が適応である。

当院でもレンティスコンフォートを紹介しているが、実際には、単焦点か通常の自費の多焦点を選択する人が多い。なぜかな?


あと、個人的に参考になった点は

  • マイクロモノビジョン(左右差を±0.5Dから±0.75D)を採用する満足度が向上する。片眼手術後に患者さんに選んでもらう。
  • 乱視が残ると患者さんの満足度が低くなるので、トーリック型のレンティスコンフォートを選ぶべし。

白内障と生体リズム

睡眠や深部体温に代表される生体リズムは,内分 泌・代謝・循環・精神機能など多くの生理機能に関 与しています。

この生体リズムの乱れは肥満・脂質異常・糖尿病・高血圧・精神障害・うつ・脳卒中・虚血性心疾患・がんなどの多くの疾病と関連します。

ヒトの生体リズムには網膜での光受容が最も重要で、網膜神経経節細がブルーライトを感じて生体リズムを調整しています。

白内障があるとちょうどブルーライトの波長が遮断され.十分に眼内に届かないため生体リズムが障害され、生体リズムを崩すと考えられています。

最近のPCは夜間になるとブルーライトが軽減される仕組みになっている。

ところが、白内障があると、「ブルーライトを一日中カット」→「朝から晩まで夜間状態だと体が勘違い」となるのな。

白内障と全身疾患

白内障で夜間血圧上昇、動脈硬化のリスクが増す。

住環境や生活習慣が健康に及ぼす影響を調査することを目的とした大規模コホートスタディ「平城京スタディ[1]」の結果に基づいて述べます。

通常、血圧は日内変動 があり、夜問で血圧が最も低くなります。

白内障があると、この夜間血圧低下が発生しない比率が1.8倍となっていました (表1)

夜間血圧低下が発生しないと、心血管障害が起きやすくなるため、白内障がある心血管リスクが高くなるということになります。

さらに. 頭動脈エコーで血管壁の厚さを測定すると、白内障があると動脈硬化が1.6倍多く,心筋梗 塞や脳卒中のリスクが高くなっていることがわかりました。

「全身疾患リスクを軽減するには、白内障を解消する必要がある」ということ。。かな?


[1].平城京スタディ:住環境や生活習慣が健康に及ぼす影響を調査することを目的に、2010年9月に開始した大規模前向きコホート研究(参加者数 3012名)

白内障と認知症

視力が悪いと認知症リスクが高い

高齢者を対象とした眼科コホートスタディ「藤原京eyeスタディ」[1]の結果に基づいて述べます。

視力0.7以上:認知症が5.1%

視力0.7未満:認知症が13.3%

視力0.7未満では 認知症のリスクが2.9倍高く、年齢、性、BMI、教育歴などを考慮しても2.4倍も高かった。

白内障手術は軽度認知機能低下を防ぐ

白内障手術既往群(668名) と非手術群(2096名)の2群間で統計分析を行ったところ、視力の因子とは関係なく白内障手術で軽度認知機能障害のリスクは2割程度防げることが判明した(表2)

視覚は人間の情報入力の80%といわれるから、良好な視力とが、良好な脳機能の維持に欠かせないことは間違いないでしょうね。。


[1].藤原京eyeスタディ:2012年の眼科検 診で 70歳以上(平均年 齢76.3歳)約2900名が参加した大規模眼科疫学調査