水晶体嚢拡張リング(CTR)講習会を受講しました。

水晶体嚢拡張リングは、今までドイツから個人輸入していたのだが、このたび国内メーカーのHOYAからも発売されることになった。

ただし、HOYAから購入するには講習会を受けないといけない。

白内障手術に習熟した術者が、日本眼科学会の指導下で製造販売業者等が実施する講習会を受講した上で、使用する必要がある。

講習会の内容は、CTRを使っている術者なら皆知っているような内容であったが、注目したのはインジェクター一体型のCTRが発売されるということでした。

いままでは、「拡張リング出して、インジェクターとシンスキーフックも!」といって、個々にセッティングしていたが、一体型だと「拡張リングインジェクター出して!」の一発完了だ。

チン氏帯が脆弱というのはヤバめな状況なので、すぐ出せてすぐ挿入できるというのは素晴らしい。

眼科医サージャンの寿命

「新春随想寅年生まれ」日本の眼科2022年1月号を読んだ。

私も、すでに

Namiheiと同年代で、イオンに買い物に行くと、GGカードどうすか?と言われる今日この頃である。

しかし、清水公也先生は72歳でいまだにバリバリ手術されているそうだ。僕が見習いのころ、当時珍しかったライブサージェリーをやってのけ、そのビデオ映像を100回以上は見たっけ。

永原國宏御大も、お元気にやっておられる。横浜のF先生も一向に衰えていないようである。

私もそうした大先輩を見習って、今までの経験を還元し「も~、いーかげんにしなはれ!」といわれるまでサージャンを続けていきたいと、心から願っている。

アイハンス眼内レンズの早期レポート

以前、告知したように、当院では積極的にアイハンス眼内レンズを採用している。

そこで、先日アイハンスを挿入した患者さんの遠見視力、中間視力、グレア・ハローの有無をアンケートしたので記載する。

術後1週間の視力改善度

遠見視力が改善しているのは当然だが、中間視力の改善もかなりみられる。ハローグレアについては一名のみ訴えたが、この人は術前から同様の症状があったのでアイハンス眼内レンズとは別の要因が働いているかもしれない。

レンティスコンフォートを入れた場合は、夜間運転時のハローグレアを訴える人がそこそこいたので、実感としてこのレンズは使いやすいと感じる。

2022年の当院の展望(手術編)

当院の白内障手術は量を追わず、短時間手術も求めず、じっくり、丁寧、無痛な手術。そして、角膜浮腫が一切なく翌日から翌日からはっきり見える、を目指している。

上記目標については、ほぼ々々達成できている。

加えて、2021年11月からは、眼内レンズにはアイハンスを積極採用しており、遠方視力を保ちつ、かつ、中間視力も獲得できるようにした。しかも、グレアハローは僅少なのである。

そういう意味において、白内障サージャンとして希求できる歓び、患者さんの幸せを最大化しうる年としたい。

中橋知沙 画

AMOテクニスのアイハンス眼内レンズについて

日本国内では2021年11月から新発売のレンズである。高次非球面設計により、単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズとされる[1]

デフォーカス曲線は以下の通りである。

黒線は非球面レンズ(従来の単焦点)、灰色が非球面高次レンズ(アイハンス)

「通常は認識しない高度収差のパワーを中間距離に振った」ということのようで、AMOが得意とする焦点深度拡張の亜型ともいえる。グレアやハローも単焦点レンズと同程度である[2]

保険適用できる視覚領域の拡張レンズとしては、レンティスコンフォートが上市されているが、今一人気がない。おそらく、単焦点レンズと比較してのハローやグレアの増加デメリットが嫌われるのであろう。

その点、このアイハンスは名前が示す通り、「単焦点レンズのいいところは残しつつ、見える範囲が広がったレンズ」なので、ほぼ問題ないように思える。さまでは、近見には振っていないため「老眼鏡は基本的に必要となる」が、その点は従来の単焦点レンズでも同じだ。

当院では、近見に特化した合わせ方を希望しない患者さんに対しては、この眼内レンズを推していく所存。実は、仕入れ価格はわりかし高いのだが、保険適用レンズなので患者さんの負担額は単焦点レンズと全く同一である。

そのことによって、より多くの患者さんが、白内障手術後により良い体験を享受してもらえれるのであれば、眼科医冥利に尽きる、と云へる。


1.Visual outcome, optical quality, and patient satisfaction with a new monofocal IOL, enhanced for intermediate vision: preliminary results

2.Clinical evaluation of a new monofocal IOL with enhanced intermediate function in patients with cataract


2022/9/11追記

先日、40代の若い患者さんの片眼にアイハンスを入れたところ、やや霧視が発生するので、対眼には単焦点を入れてほしいとの希望があり、ALCONクラリオンを挿入した。
すると両眼でかなり近いところまで見え、かつ、霧視症状も文字通り霧散したとのことであった。
これは、亜Monovisionともいうべき手法であり、Miniwellをいれるよりも保険がきくし、良き?という感触を得た次第。←この手法は非常に評価が高く、多くの反響を呼んでます as of 2023/5/15.

2022/9/12追記

外来で「アイハンスにトーリックレンズはあるのか?」とご質問いただきました。回答は「存在はするが、市場には存在しない」ということです。
担当者は「サーセン、生産が追い付かないッス」としか言わないんで、セガサターン事案を危惧しております。。

2024/8/262追記

現在、当院ではアイハンスのトーリックレンズを積極的に採用しております。

AMOテクニスのシナジー眼内レンズについて

AMOテクニスのシナジーレンズは連続焦点型と称されている。MRさんの話では、EDoF型(=焦点深化型)と差別化する目的で、商業的につけられた名前ということである。英文論文でも、continuous range of vision presbyopia correcting IOL と紹介されている[1]

実は、この連続焦点型の実態は従来の2焦点型レンズと、EDoF型レンズを合わせたものであり、「近方約35cmから遠方まで落ち込みなく連続的に見えることを特徴としています」ということである。

当然、3焦点型のPanOptixとの比較が気にあるところであるが、AMOの資料によると、下記のとおりである。

上記のうち、3焦点IOL BがPanOptixのようである。(ちなみにIOL AはFineVision、IOL CはAT Lisa)AMOが出してる資料だが、「大きな谷のないデフォーカスカーブ」が、描かれている。

ただし、以前述べたように、2焦点型とEDoF型の両方の欠点、すなわちスターバーストとグレアが出現するようではある。

MRさんが語るところによると、「関東ではPanOptixを上回っている。一方、関西圏ではいまだにPanOptixの方が優勢」らしい。☞詳説

当院でもほとんどがPanOptixだから首肯できる。

次回は、話題沸騰(?)のアイハンスについて述べる予定。


なお、AMO会社はいまやジョンソン&ジョンソン配下であるとこのたびわかった。医療業界は、合従連衡が激しいなと感じる次第である。

1.Clinical Outcomes With a New Continuous Range of Vision Presbyopia-Correcting Intraocular Lens

「第125回日本眼科学会総会」に出席しました。

●LS-313MF15(Lentis)とW-60R(単焦点)の臨床成績 萱沢朋泰先生 近畿大学
Lentisは後方移動し術後3Mで+0.28D程度遠視化しやすい。単焦点のW-60Rよりも優位に裸眼視力はよい。
●ZMB00(テクニス回析型)とtecnis symphonyの比較 白神智貴先生 ツカザキ病院
ZMB00(テクニス回析型) vs tecnis symphony→ZMB00(テクニス回析型)は近見がつよい。tecnis symphonyは遠見がつよい。
●ZMB00(テクニス回析型)とLentis Comfortの比較 田邊裕貴先生 ツカザキ病院
ZMB00(テクニス回析型)がほとんどすべての点で上回った。Lentisがグレアが少なくMTFでは上回った。
●Lentis ComfortとPanOptixの比較 赤田真啓先生 ツカザキ病院
PanOpixがほとんどすべての点で上回った。夜の運転はLentisがよかった。social function(=普段家で友人と過ごす時間が長いですか?)もlentisがよかった。メガネの装用率を低めたい人はPanOptix。夜の運転はLentis
●ZMB00(テクニス回析型)とPanOptixの比較 河村純哉先生 ツカザキ病院
PanOptixがほとんどすべての点で上回った。近見視力のみZMB00(テクニス回析型)が上回った。

ZMB00(テクニス回析型)をAlconアクティブフォーカスと読み替えると、演者や座長の導いた結論は、この記事に書いた結論とほぼほぼ同じであった。

つまり、多焦点レンズを選ぶならば現状ではPanOptix一択。ただし、夜の運転をするならハローが少ないLentisということ。

IC-8について

今までに述べたレンズと全く違う原理で作られた眼内レンズです。

ピンホール効果により、焦点深度深化を図るというものです。

IC-8

ピンホールカメラと同様に絞りをきかせることによって、焦点深度を獲得します。

実際、MTF曲線を見ると、非常に良好な成績ですね。

MTF

ただし、

1.患者満足度が必ずしも高いわけではない。

2.切開創が3.5mmと大きい。マスクが曲げ応力に弱いため,過度に曲げてしまうと損傷してしまうため。

アイデアとしては非常によいですね。

「目がよくなるメガネ」として市販されているピンホール眼鏡をそのままIOLに使うという心意気はよい。

ただ、日本国内では臨床例が少なく、上記のように、実際例ではやや満足度が低いようです。

ミニウェル・レディについて

image
MiniwellReady外観

EDoF(焦点深度拡張型レンズ)の先駆けとなったレンズで、アラガン社のsymphonyがでるまではEDoFレンズの代表でした。その後の一連のEDoFの流行の発端を作ったレンズで、現在でも、一部手術者に絶大な人気があります。

それは「ハロー、グレア、単眼複視など、多焦点 IOL で一 番問題とされた問題点を大部分取り除くことに成功している」という大きな利点があるためです[1]

ただし、

  1. やや近方視力が弱い。
  2. 日本国内で認可されていないために、手術代、診察代がすべて自費となり高価となる。

という問題点があります。

保険適用、選定医療を用いるなら、似た性格のSymphony、ActiveFocusを用いることが多いです[2]

なお、当院では、海外で実際に使用されている先進的な多焦点眼内レンズを取り寄せ、レンズを選択できる体制を整えております。


[1]静的固定レンズが多焦点性,焦点深度を拡張させるための手法としては,①回折格子,②屈折加入,③小開口,④球面収差,⑤コマ収差の 5 つの手法に限られています。①,②はすでに多焦点 IOL として用いられており、⑤は像質が不良であることより,実質的には①から④の手法が現実的です。その④の球面収差を利用した機構をもちいたものが MiniWell Ready です。光学的デザインにより焦点深度を伸ばすことを可能にし,連続的な焦点を実現しています。近方加入度数は 3.0D です。

[2]Symphonyはエシュレット回折型のEDoF、ActiveFocusは狭義のEDoFではありませんが、低加入度数の多焦点IOLはEDoFと似た臨床結果 が得られます。IOL&RS誌 Vol. 33 No.1 2019 p.38

多焦点レンズと選定医療

日本で承認された多焦点レンズの手術は「選定医療」扱いとなっています。

「選定医療」とは、「追加費用を負担することで保険適用外の治療を、保険適用の治療と併せて受けることができる医療サービスの一種」「病院の差額ベッド代とおなじで本来保険給付される標準的医療に対する付加価値についての差額を自費として支払う制度」となります[1]

多焦点レンズのうち、日本国内「選定医療」の対象として認可されているのはアルコン社とアラガン社の眼内レンズのみです。

しかし、ヨーロッパでは、他の先進国に比較して眼内レンズ認可基準が緩いことから、新機軸の多焦点レンズがいろいろ発売されています。(眼内レンズメーカーは、まずヨーロッパで新製品を発表するほどです)

次回はそういった先進機能をもつ多焦点眼内レンズについてご紹介します。

保険診療、選定医療、自由診療のイメージ図

[1]「選定医療とは」厚生労働省 (mhlw.go.jp)


2023/7/31追記

FineVision社のFineVisionHPも選定医療に追加指定されました。